日報6『色トレス髪』
「うおぉう、このキャラ引いたかー。」
今日一発目のカットは色トレス髪のキャラのバストアップだ。嫌な予感がして色指定の打ち込みを確認し、カラーモデルを開く。
「あー・・・、コントラスト強いシーンだ、最悪・・・。」
この作品、通常時は髪の色トレスはノーマルも一号影も一色でのトレスなのだが、コントラストが強い色味のシーンの場合は髪の色トレスにも影色が発生する。しかも実線で描かれている為、仕上げ作業時に色トレスに変えなければならない。この作業が手間なのだ。
「メインキャラに色トレス髪使わないでほしいよな。作業カロリー半端ないのに。」
最近、金髪銀髪白髪のキャラは色トレス髪になりやすい。
一昔前だと色トレス髪は緑色トレスで描かれていたが、それでは線が実線より太くなってしまう為か、今では動画は実線色で描き『仕上げ時に色トレス』が主流だ。そう書くのは簡単だが、実際色トレスに変換するのは手間がかかる。ちまちまと顔のパーツから区切って指定の色トレスにペイントし直していって、さらに影色も乗せていくので、とにかく時間がかかる。
「俺の手が遅いのもあるけど、あー、終わんねえ。」
「無駄口叩いてないで手を動かす。」
「北町さん、辛辣ぅ。このカット手伝ってくれません?」
「自分の仕事があるんで無理ですぅ。それにトレス線をノーマルにするか影色にするかで解釈違いが起こり得るから一人でやるべきでしょ?」
「それは確かにありますけど、きついっス。この作業ほんと苦手なんスよー。」
「苦手な物でも何でもやらなきゃ。枚数稼げないわよ。」
仕上げの給料は一枚塗っていくらの歩合制だ。一枚に時間をかければかけるほど、貰える額は少なくなる。しかし苦手意識はなかなか払拭できない。簡単なカットばかり引ける訳ではないので、どんなカットを引いてもこなしていかなければならないのだが。
「今日はもう枚数諦めます。まずはこのカット間違いない様に仕上げなきゃ。」
「諦めるの早くない?」
「だってどう頑張っても時間かかるんスもん。今、数枚塗っただけでも辻褄合わないトコ出てくるし。」
「それはもう、何と言うか、確かに諦めも肝心かもしれないけど。」
「あー、元々の線画もパカってますって、これ。」
「そこは仕上げのできる範囲で修正して出すしかないわね。」
「それもやってたら更に時間かかるっスよ。」
見れば見るほど絶望的な状況に思えてくる。
「とにかく頑張るっス。」
「おう、頑張れ。」
モニターに集中。小刻みに手を動かしながら顔をペイントし、髪の毛を色トレスに変えていく。取り敢えず一旦全てペイントしてしまおう。髪の毛の影色トレスは全体の流れを見ながら変えていく事にする。
一通りペイントが終わった所で、線パカ、色パカ、色間違いがないか繰り返しセルを流して確認する。そしてここから髪の毛の影色トレスを乗せていく。もっと上手いやり方があるかもしれないが、自分にはこのやり方が一番間違いなく仕上げられると現時点では思う。
「おーわったぁー。今日もうひとカット取れるー。」
「お疲れ様。思ったより早く終わったんじゃない?」
「はい、元々の線パカは申し訳ないスけど諦めました。もう動検のレベルですもん。俺じゃ描けないス。」
そう言ってカット袋を上がり棚に出し、新しいカットを取ってくる。
次はもう少し楽なカットだったらいいなと思いながら。