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日報5『デジタル動画2』


「フレーム外だからって、線閉じないでほったらかすのやめてくんないかな。」


 開いたセルを横目に原画を確認する。99パーセントの動画さんは原画以外の線を引いてはこないので、もちろん線は原画から閉じられていなかった。


「あー、全セル足りてないな。描き足すかぁ・・・。」


 思わずため息が漏れる。デジタル動画なので線と画面全体が綺麗なのがまだ救いだ。しかし、撮影フレームに対して絵が足りていても、ペイント作業をするには不備のある素材になっている。スキャンフレームいっぱいまで実線を引ききってもらうか、そうでなければ実線もしくは色トレスで空間を区切ってもらわないとバケツ塗りが使えない。海外スキャンやデジタル動画は大体が標準フレームよりも大きいサイズで設定されている為、この状況が多くなる。万が一にもセルバレしないようにとのサイズ設定なのだろうが、如何せん仕上げには優しくない素材が上がってくる事になる。今日のカットは一ヶ所、もしくは二ヶ所、あと数センチ実線を伸ばしてくれていれば事足りる物だった。


「毎度の事とはいえ、仕上げセクションの作業をちょっとでも考えてくれれば不備のある素材になってるって分かりそうなもんだけどなぁ。あ、線合成になってんじゃん、これ。」


 一枚ずつ実線を描き足している最中に別の不備にも気付いた。通常動かない部分を合成親、動く部分を合成子として描く物なのだが、これは本来なら親として描かれるはずのパーツの一部分が子に描き込みになっている。具体的には手を振っている下の襟や顔の一部が子に描き込まれているのだ。これでは動いていないはずの顔や襟のラインが手を振るたびにグニャグニャと蠢いてしまう。仕上げが絵具の時代の動画ならこうせざるを得なかったのだろうが、今は違う。デジタル仕上げでは簡単に上にくるパーツで塗り潰して合成できるのだ。


「一番多く顔と襟が見えてる子セルから実線を親セルに移植して、子セルで重複する実線は消して、っと。」


 改造した親セルを先に塗り、子セルの作業に移るが、一手間かけただけで問題なくペイントできる。合成後の見た目も問題ない。


「こういう動画上がりって、昔からのベテランさんがデジタル動画始めたのか、ただ単に原画を読み取る力が足りないのか、どっちスかね?北町(きたまち)さん。」

「後者じゃないの?そもそもベテランの人なら原画以上になってるだろうし。」

「それもそうっスね。」

「それより南花(なばな)、あんた独り言やめられないの?作業中ブツブツ言って。」

「口に出した方が頭ん中が整理される気がするんスよ。北町さん普段イヤホンしてるのに俺の独り言聞こえるんスか?」

「たまにタイミングが合って聞こえてくるのがちょっと気になるのよ。まあ、無理してやめなくてもいいけど。作業効率落ちるよりは、うん、まあ・・・。」

「いいって言ってる割りには納得してないじゃないスか。」

「さてと、仕事に戻りますか。」

「考えるのやめないで下さいよー。」

「まあ、こうやって音楽聴いてるぶんには気にならないから別にいいわよ。席替えがあった時に文句言われてもそれは知らないけど。」

「うぅ、やめるよう努力するようにします。」


 お互い机に向き直って作業を再開する。


 さあ、次のカットは問題なく進められるといいが。


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