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日報44『モブ2』


 最近はアイドルものの作品が数多くある。アイドル本人たちの衣装も細かくて大変なのだが、会場にいる観客が作画になった場合もなかなか大変だ。ロング、引きのカットは背景描きや3D処理になるのだが、ミドルやアップで差し込まれるカットは普通に作画になる。そして名前のあるキャラがいない場合が多いので、大量の人々に自由彩色という打ち込みが多用される。

 今日引いたカットはライブ開場前なのか、屋外に佇むモブの集団だ。ノーマル色との指示なので、カラーモデルも色が分かりやすい。これが暗いシーンの色変えになると、何色系の色を塗っているのか分からなくなるので、ノーマル色のカラーモデルと見比べながらペイントしたりもする。


「Aセルは止めイチで三十人くらいか?B、D、Eセルが各一人ずつと、Cセルが三人組みの歩き、Fセルが止めイチに三人。んで、Cセルの三人が着てるライブTシャツの色を適宜散らせるっと。」


 Cセルの打ち込みにはまるで仮色のようにも見える鮮やかなイエローのボックスがTシャツの指定として貼り付けられている。それとロゴか何かを貼り込むアタリの仮色指定。Tシャツ以外のボトムスや持ち物、顔は自由彩色だ。


「動きのあるセルから無難な色で塗ってくか。」


 モブ色にも限りがあるので、まずはBからEセルを色がなるべく被らないようにペイントしていく。今回はTシャツの作画になっている物は同色にしていいので、使える色が少し増える。


「肌、髪は男女別で十種類ずつあるから、BからFセルは被らない色で塗って・・・。」


 どの色が使用済みか、手元のメモ用紙に数字を書いておく。画面からスポイトして色の範囲を表示させればどこが同色になっているかは分かるのだが、自分は手で書いた方が効率がよい気がするので、この方法を取っている。Fセルまでペイントし終わったら、残りは人数の多いAセルだ。これはもう多少の色被りは仕方がないので、あまり派手になりすぎない色味でペイントしていく。何人かのTシャツのイエローだけが浮いて見えるが、指示通りの色なのでこれは気にしない。


「っしゃ、終わった。」


 全てのセルをペイントし終わって、ライトテーブルに順に登録して全体の色味を確認してから作業終了。Aセルは手前のモブに隠れる部分も多いが仕方ない。それよりもやはりライブTシャツの色がかなり目立つのでCセルの三人組みとEセルに目が行く。B、Dセルは普通の服装だったので地味目な色でペイントしてある。Eセルは後ろ向きで歩いていて、シャツの上にTシャツを重ね着しているような作画だったので、ライブTシャツ色でペイントした。B、Dセルにもう少し鮮やかな色を入れておくべきだろうか?


「んー、でもなあ・・・、彩度高めの色使うと悪目立ちしそうだしなあ、これでいいか。」


 少し悩んだが、観念して上がりのデータをアップし、次のカットを取りに行く。


「さて、鬼が出るか蛇が出るか?」


 次に引いたカットも同じ作品で、カット番号は先程とはだいぶ離れている。


「おっと、またモブか。」


 今度はライブ会場内で暗色との打ち込み指示、Tシャツとサイリウム以外は自由彩色だ。AからHセルまで各一人ずつ作画されており、全員がサイリウムを振っている。複数人が同セルに描かれていないので、少しは楽だ。

 ライブ会場暗色のモブカラーモデルをサブパレットに読み込み確認するが、やはり色の違いが分かりにくい。元から暗い色はノーマルと影の数値もあまり変わらないので、見た目はほぼ真っ黒にしか見えない。ここは一応ノーマル色のモブカラーモデルも表示して、見比べながら作業をしよう。


「Aセルは女性Tシャツなし、サイリウムは青っと。」


 このカットも手元のメモ用紙に使っていったモブ番号を書き付けていく。八人しかいないので肌や髪は被らないで塗る事ができる。あとは洋服だが、ノーマル色のカラーモデルを見つつ、ありそうな色でペイントしていく。茶系や黒系のボトムスが多くなって、見た目は黒一色にしか見えなくなっているが、ファンタジーの世界観ではないので、こんなものだろう。

 Aセルから順に色が被らないようにペイントしていき、指定のあるライブTシャツだけ見落とさないように確認しながらHセルまで進めていく。全て塗り終わった所で、ライトテーブルに登録して色を確認してみるが、背景に暗い色を敷いてもあまり色の違いが分からない。手元のメモ用紙には一つとして同じ数字は書かれていないので、それぞれ別の色で塗られているはずだ。自分を信じて上がりを出そう。


「さて、もう次はないかな?」


 上がり棚にダミーのカット袋を出し、次はと見てみると、今日の作業分は全て捌けていた。


「モブでまだマシだったか?ステージ衣装はまためんどくさいからな〜。」


 背伸びをしながら自席に戻り、帰り支度をする。


「お疲れ様でした。お先に失礼します。」


 同じブース内からちらほらと返事が返ってくる。チラと向かいの席を覗くと、煌びやかなステージ衣装を作業していた。やはり人数が多くてもモブの方が楽だったかもしれないと思いながら帰路に就いた。


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