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日報43『カラーモデル色々』


 最近、色彩設計さんたちの多くがカラーモデルの作り方を変えてきている。見やすくなるように変わってきているのなら歓迎すべき事だが、仕上げの人間、少なくとも俺にはそうは思えない方向性だ。


「ああ〜、この作品あの人のカラーモデルか〜。」


 まず多い、というか最近の流行りなのか、各色のボックスが画像の端に綺麗に並べられている物。ボックスとはそれぞれのパーツのノーマル、一号影、二号影、ハイライトの色が縦または横に並べられた四角い枠の中に塗られている物だ。そこからスポイトしてセルにバケツツールで色を置いて塗っていく。そのボックスが端に揃えられている為、見た目は美しいのだが、いかんせんどのパーツがどの色かがパッと見、判断しにくい。このカラーモデルはまだ、所々で仮色を使用、ボックスにA、B、Cとアルファベットがふられていて、中央に配置されているキャラクターの全身像にも対応するアルファベットが指し示してあるので親切な方だ。


「とはいえサブパレットに必要な情報入りきらないんだよな・・・。」


 以前は画像ギリギリに収めていたカラーモデルが多かったが、最近の物は大きく余裕を持って作られている物が多い。サブパレットにカラーモデル画像を登録しても、色を確実にスポイトできるボックスの大きさで表示すると、キャラの全身像と必要なボックスが離れすぎていて、サブパレットにはどちらかしか表示できない。結局は直接ペイントするのに必要なボックス部分を表示するのだが、キャラの全身像とボックスを行ったり来たりさせるので、時間のロスが発生する。


「アルファベット割りふられてるだけマシなんだけど、なかなかパーツ色の塗り分け覚えられないんだよな・・・。」


 グッと背伸びをしながら愚痴っていると、隣の席の北町(きたまち)さんが声をかけてきた。


「おはよう、また何をブツブツ言ってるの?」

「おはようございます、北町さん。いや、最近のカラーモデル見にくくないですか?自分だけっスかね?」

「あー、社内の設計さんはまだ昔ながらの作り方している人が多いけど、最近ある意味整ったカラーモデル増えてきたわね。使い慣れてないから見にくいだけじゃないの?」

「それもあるとは思いますけど、仕上げに優しいカラーモデルは塗りの時間短縮にもなると思うんですよ!」

「ちなみにどの作品・・・って、ああ、この人のヤツか。確かに画像の大きさに対してキャラのサイズは小さめよね。」

「そうなんですよ、パッと見でどこをどの色で塗ればいいのか分かるカラーモデルの方が俺はやりやすいっス。」

「時代の流れだと諦めるしかないんじゃない?アルファベットふってあるだけ親切な方だし。」


 そうなのだ。アルファベットをふらない設計さんもいる。その場合は肌や髪以外の洋服や靴など全てに仮色で塗って、ボックスの周りをその仮色で囲って塗るといった方法を取る場合が多い。大きな面積のパーツはまだ分かりやすいが、小さなパーツや点々と散らばっているパーツはやはり拡大して色を確認しないと分からない。それもそれでかなりの手間だ。


「見にくいのは分かったけど、見やすいカラーモデルってあるの?」

「うーん、やっぱり河西(かさい)さんのヤツですかね?適度に仮色が入っててキャラのすぐ周りにボックスが配置してあって分かりやすいし。」


 河西さんとは社内のベテラン設計さんだ。絵具時代からこの仕事をしている歴戦の猛者である。


「ほら、社内の人のが一番って事は結局は見慣れるかどうかなんじゃない?今の流行りにもそのうち慣れるわよ。」

「だといいんスけどねー。」


 モニターを見ながらそうつぶやく。本当に慣れていく問題なのだろうか?サブパレットのカラーモデルを左右に動かしながらペイントを進めていく。

 ペイントし終わって検査も済み、上がりを棚に出しに行く。次のカットは初めて取る作品だ。


「へえ、こんなのもあるんだ。どれどれ・・・。」


 サーバーから色指定とカラーモデルを落として見てみると、初めて見る設計さんの物のようだった。


「うわ、仮色なしか。これはこれで見にくいんだよな。」


 大きめの顔の周りに髪と肌、アクセサリーなど、キャラの全身像の周りにそれぞれ服のパーツの色のボックスが配置されているタイプの昔ながらに近いカラーモデルを一枚ずつ送っていくと、全身黒い衣装のキャラがいた。上着、インナー、ズボン、靴と別々の黒い色だが、そこまでRGB値の数値の差がないので全身真っ黒に見える。


「これ色変えになったらもっと見にくいだろうな。」


 引いたカットはノーマル色のカットだったので、ノーマル色カラーモデルしか落としていないが、夜色や暗いシーンの色変えはさぞ見にくいだろう。


「ああ、でもこの主人公でも結構見にくいな。こことこことここが同じ色で・・・。」


 初めて引く作品だと勝手が分からないので、丹念にカラーモデルを見渡す。このキャラは上着のライン、靴下、アクセサリーの一部が同色だった。デジタル彩色になってからは無限に色が作れるので、パーツごとに微妙にRGB値を変えた似たような色を配色する設計さんもいる。白なら白!と、同色にしてくれるのは塗る側にしてみればとてもありがたい。

 おそらく正しく塗れたであろう上がりを棚に出しに行き、次のカットを取る。また同じ作品だ。


「さて、お次は・・・、おおっと、真っ黒のヤツ来た。」


 さきほどチラリと見た、全身黒いキャラ、ちなみに髪も瞳もほぼ黒だ、を引いた上に指定打ち込みは色変え『夜・路地裏』と記されている。これはもう嫌な予感しかしない。覚悟を決めてサーバーから必要な色のカラーモデルを落とし、開く。すると案の定画像はほぼ真っ黒で、色の差なんて肉眼では全く分からない。


「北町さん、見て下さいよ、このカラーモデル。この設計さん、よっぽど目がいいんですかね?」

「うーわ、これは私でもキツいなー。んーでも設計さんは良いモニター使ってるからちゃんと違い見えてるのかもね。」


 こういったカラーモデルの場合、まずは似たような色のパーツをそれぞれ仮色で塗り上げてから最後にバッチで色置換するのだが、どこまでがどのボックスの色なのかがさっぱり分からない。そこで、塗り間違いをしないようにする為にもひとつ手間をかける。カラーモデルのプチ改造だ。


「さて、いっちょやりますか。」


 まずボックスの中の色だけを選択して実線レイヤー側にコピペする。大概のカラーモデルは彩色レイヤーに全ての実線、色、ボックスをまとめてあるので、これからボックス内の色をいじらないようにする為に実線レイヤー側に移すのだ。それを終えると彩色レイヤー上でボックス内から色を選択し、その色に適当な仮色を乗せていく。これでボックスの色はそのままで彩色レイヤー上のキャラ見本のパーツの色だけを変える事ができる。必要なパーツ全てにそれぞれ別々の仮色を乗せ、ボックスの周りを使用した仮色で囲い、ある程度の範囲をその仮色で塗る。


「上着、インナー、ズボン、靴、靴の厚みと裏、でいいか。ベルトはこのままでもいいかな?やっぱ仮色にしとくか。」


 できあがった改造カラーモデルをもう一度見直し、よし、とサブパレットに登録する。ここまでに少し時間を取られたが、間違った塗り上がりは検査さんに迷惑をかけるし、なにより自分がどのパーツをどのボックスで塗るかを覚える為には必要な工程だと割り切って作業を始める。


「服装自体はシンプルなんだよな、このキャラ。」


 仮色でのペイントは問題なく、早目に終わった。塗り漏れがないか彩色チェックをし、一枚ずつセルを送ってパカなどがないかを注意深く検査する。問題ないようなので、色置換の準備を始める。バッチパレットに一色ずつ仮色に対応する色を入れていくのだが、ここで置く色を間違えたら全てが台無しだ。念の為、色置換前のフォルダのコピーを作っておくのは小心者の為せる業か。


「とりあえず一枚バッチをかけてみて・・・、うお、真っ暗で何も見えん。」


 夜色、しかも路地裏というシーンカラーなので、かろうじて判別できる肌の色でさえかなり暗い色になっている。背景に少し暗めの色を敷いて見ると少しはノーマルと影色の境界線が見えるようになった気がする。そして改造前のカラーモデルから色をスポイトし、本色の色できちんと塗られているかどうかを確認したら、全てのセルに色置換バッチをかける。


「うーん、確認したとはいえこう真っ暗だと不安しかないな。」


 検査済みのデータをアップし、カット袋を上がり棚に出しに行く間も不安は尽きない。リテイクで戻ってきたら、甘んじて受け入れよう。

 次のカットも同じ作品でカット番号も近い。これはまた同じ色変えシーンに当たるかもしれないなと思いながら自席に戻る。


「さて、指定データは〜と・・・。」


 予感的中、しかも同じキャラもいるので、先程の改造カラーモデルをそのまま使える。もう一人のキャラのカラーモデルを確認すると、こちらも暗い色合いの衣装だったが、パーツの範囲が分からないほどではなかった。なので通常通り、暗めの色は仮色でペイントして最後に色置換バッチをかける、で大丈夫だろう。カラーモデルの改造までは必要なさそうだ。まあ見にくい事に変わりはないのだが。


「しかしこういうカラーモデルばっかだと手間がかかってしゃーないな。」


 自分のやり方が最善策とは言いきれないが、できるだけパーツの色間違いは避けたいのでこれも仕方がない。とはいえ新しいスタイルにも慣れていかなければならないのも確かだ。果たして慣れる日は来るのだろうか?ペンタブを動かしながらそんな事を考えていた。


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