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日報42『上セル下セル』


 原動画の段階から存在する上セルや下セルももちろんあるのだが、仕上げの作業時に新たに作らなければならないソレもある。

 よくある分かりやすい上セル作成はテーブル絡みの物だ。テーブルがBOOKとして背景と別レイヤーに分かれていて、キャラの下半身はテーブルの下に、腕はテーブルの上になる場合、一枚絵になっているキャラからテーブルの上になる腕部分だけの素材を上セルとして分離させる。まずAセルでその作業をする場合、A_ueセルなどのフォルダを作成する。フォルダ名ファイル名は作品によって様々だが、コレが一番多いように思う。新しく作成したA上セルフォルダに必要な線画と色をバッチパレットを使用して分離するのだが、自分は全ての絵をファイル名を変えて保存し直す事が多い。いちいちバッチパレットに必要な色を入れていく作業が面倒だからだ。


「肘のちょい上まであれば足りるか?」


 ライトテーブルでレイアウトや組み線を透かせてみて必要な範囲を確認する。このカットではキャラがテーブルの上で手を組んで置いているので、両腕だけの上セルを作成するのだが、その作業過程は至って地道。不要な部分を消す、それだけだ。大まかに不要な部分を実線レイヤー上で仮色で塗り潰してしまう。そして残った部分は地道に実線を削り消していって不要なペイント部分も消す。最後に、最初に塗り潰した仮色も消すと腕だけのA上素材が完成する。これを必要な枚数分繰り返すのだが、ほぼ全ての作品でそこそこ苦労して作成した上セルの単価は発生しない。正直なところ、あまり巡り合いたくない作業だ。


「はー、終わった!」


 必要な上セル素材を全て作成し、最後にもう一度軽く検査をして終了、テキストメモに上セルは元のセルと同シートと記し保存しておく。

 次に引いたカットはバストアップのキャラの髪なびきと口パク、あごパク。


「最初の口パク部分の髪なびきはそのまま使えて・・・、最後のあごパクのところは・・・下セル分離が必要か?」


 タイムシートとセル素材を確認して、完成形を想像する。Aセルの顔が正面から徐々に横に向いていくカットで、常に髪がなびいている。冒頭の台詞はあごが動かない口パク三枚の合成なので、上に乗るBセルの髪はそのままAセルとクミを切ればいいのだが、横向きのあごパク合成に対応するBセルは全て閉じ口のセルの線でクミを切られた作画になっている。このまま作業をすると、中口(なかくち)、開き口のセルの時に肌部分に髪の毛が食い込んでしまう。なので、Bセルのあごの奥で動く髪の毛部分だけを切り取り、A下セルとして保存し、元のBセルの部分は消す。セル重ねはA下セルを一番下にし、次にAセルBセルの順に重ね、A下セルはBセルと同シートで動かしてもらうよう、撮影さんに向けたメモを残しておく。この類いの下セル作成もよくある形だ。もちろん単価は発生しない。


「Bセル髪の一部をA下セルとして分離しました。A下セルはBセルと同シートでお願いします・・・っと。」


 撮影さん宛にテキストメモを書き、保存する。これでこのカットは終了。

 上がり棚にカット袋を置き、残りの仕上げ前カット袋の棚を見ると、まだ少し残っている。


「面倒なカットじゃありませんように!」


 念じながらカット袋の束の上から一袋を掴む。もう最近では当たり前のようにダミーのカット袋しか積まれていないので、トレスデータや指定打ち込みデータを落として見るまで内容は分からない。枚数だけは書いてあるが、今回のカットは合計枚数の欄にしか数字の記載はない。


「さてと、Aセル後ろ姿の体一枚、Bセル服のなびき三枚、Cセルストール?羽衣?のなびき四枚か。何でCセルのなびきは四枚なんだよ。」


 同じ枚数で同じコマ打ちならば何も考えずにクミを切れるのだが、BセルとCセルでは枚数もコマ打ちも違う。Bセルは三枚三コマ打ち、Cセルは四枚ニコマ打ち。補足をすると日本のアニメーションは一秒二十四コマ、つまり一秒に二十四枚の絵が必要なところを、ニコマや三コマ同じ絵を置いてセル枚数を節約するリミテッドアニメだ。なので、別セルになっていても同じタイミング、コマ数で動くのならばクミ切りは容易なのだが、今回の場合はそうはいかない。


「Cセルは首から前に下りて腕の下を通ってまた背後へ。Aセルとのクミ切りは問題ないとして、Bセルとはそれぞれとのクミが四枚とも発生するから・・・、やっぱり下セルか?」


 だいぶ以前なら、必要なクミを切ったセルを全て作成しCセルの枚数を増やしてシートに増やした分を赤字で記入しておくというやり方も取られたが、最近ではあまり良しとされていない。たぶん撮影さんの都合なのだろうが、このやり方は最終手段的位置付けにされている。


「えぇっと、全部の服のなびきに隠れるようにちょい描き足して取り敢えずペイント。んで、服より下にしたい一部を切り取ってB下セルとして保存。作ったB下セルを仮色で塗り潰してから仮色の範囲をコピーしたら保存しないで次のセルに送って、コピーした仮色は元のCセルに貼り付ける。それを繰り返して全部のセルに下セル部分の仮色を乗せたら最後に仮色を消してCセルの完成、でいいか?」


 ライトテーブルでA、B下、B、Cの順に重ねて確認する。


「ん、オッケーかな?あとはテキストメモ残して・・・終了っと。」


 まったく今日は別セル作成のカットばかりで損をした気分だ。シートを読むのにも時間を取られるし、なによりシンプルに面倒くさい。明日は楽なカットを引きたいものだ。


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