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日報40『検査手伝い2』


 今日は午後から北町(きたまち)さんの検査手伝いに入るので、午前中に終わらせられる程度の枚数のカットを取らせてもらう。まあ、いつもの通りデジタル動画の上がりだ。


 昼休みも中程、北町さんが出社してきた。昨日は遅くまで仕事をしていたのだろう。


「おはようございます、北町さん。塗りは終わってるんで、いつでも手伝いに入れますよ。」

「おはよう南花(なばな)。とりあえず昼休みが終わったら制作に物が上がってるか確認だね。それより覚悟しといて、結構大変な上がりが昨日も多かったから。戻してる時間ないから、こっちで直すっきゃないしねー。」

「どこに撒いてるんスか?」


 北町さんは目の前の棚の上に置いてあった外撒き一覧表を無言で手に取り、俺に渡してきた。


「今日の上がりは・・・あー、あの会社の動仕上がりがメインなんスね。手伝い入れたい気持ち分かりました。前やった時も結構酷いのあったもんなぁ。」

「一昨日の上がりも、まぁなかなかのモンだったんだよねー。」

「でも、前に俺が手伝った時は手描き動画スキャンばっかでしたけど、今はどうなんスか?」

「手描きとデジタルと半々くらいかな?将来的にはフルデジになるっぽいけど・・・。過渡期のせいかデジタル動画の上がりが微妙なんだよね。特に合成。ヤバい。ちゃんと理解してない人が描いてるよね、絶対。」

「あー、ですねぇ。でもそこら辺はどこの会社も似たようなもんじゃないっスか?」

「そーなんだよねー。だから修正に時間取られちゃって。てな訳で、合成絡みは特に気を付けて見てほしい。」

「分かりました、頑張ります。」


 昼休みが終わる時間になると、早速北町さんは制作ブースに上がりの確認をしに行った。戻ってきた時の手がOKサインを作っていたので、無事に一便上がっていたようだ。


「それじゃとりあえず上から五カットお願い。私は下から見ていくから。」

「上からですね。」


 指示された通りに五カット分のデータを落とす。それから該当するカットの指定データも。指定打ち込みを確認し、ざっとペイントデータを流し見る。一枚目のペイントデータの色をカラーモデルからスポイトし確認する。色は間違っていないようだ。それから一枚一枚色パカなどがないかセルを送って確認していく。すると一枚だけ眉のノーマル色が髪の色で塗られていた。このキャラは髪と眉は同じような色味で、カラーモデルのボックスもすぐ近くに並んでいるので、間違えた理由も分からなくはない。色を修正し、モーションチェックでセルを連続して流す。他には問題ないようなので、このカットの検査はこれで終了。


「次は・・・っと。」


 次のカットのデータを流し見たところ、僅かな違和感を覚えた。そこでゆっくり一枚ずつセルを送ってみると合成親であるべきパーツでドットずれを起こしているところがある。トレスデータを確認すると、合成親と子に分かれていない線画になっていた。最近デジタル動画で頻発している動画担当者が勝手な線合成をしてしまうパターン。これが地味に厄介だ。どうして明らかに動かない、合成親になるべきパーツが全てのセルにコピペで作画されているのに、一枚一枚それぞれ線修正しながらペイントしているのか?合成伝票がないにしても、止メになるべきのパーツは動かないよう仕上げで調整しながら作業をする事が妥当だと思うのだが・・・。主に顔が微妙にガタついているのに、仕上げ作業者は気にならなかったのだろうか?


「あー、これは顔と手と下半身は止まってるよなぁ。親にすべきところを別セルで作り直して、なびいているパーカーのフードと袖を残して元セルから顔と腕を消して・・・って、めんどくせえ!」

「南花うるさい。」

「早速勝手に線合成されたカットに当たりました。修正します。」

「よろしく〜。」


 保険として元のデータはコピーして取っておく。それからデータを改造していくのだが、あちこちのセルから必要な部分をコピペしたりして合成親にあたる物を新たに作成する。そして親セルにある部分を一枚一枚削り消していって、子セルの形に整えていく。必要のない部分を消し終わったら、改めて親セルをペースト。ある程度の枚数があったのでそこそこ時間を取られた。彩色チェックで穴、塗り漏れがないかを確認してからモーションチェックでセルを流す。確かに見た目はそんなに元の上がりと変わらないのだが、細かい部分でもリテイクになりかねないので、ここはやはり修正すべきだろう。


「よし、これは完成。さて次は・・・?」


 次のデータを開き、ざっと流し見をする。とりあえずひとつパカを見つけた。すぐさま修正する。


「ここも合成だよな?」


 セルを前後に進めては戻しを繰り返しながら何度も確認をするが、このAセルには合成親のフォルダが存在しない。またか。実線レイヤーに切り替えてみても体から顔まで全て線画が存在する。原画データを見ると、目、眉、口だけを動かしているようだ。つまり体、顔の輪郭、鼻は合成親のはずだが、また一枚ずつ修正しペイントされている。スカートの裾や髪先にドットずれが見られる事からそれが分かる。


「えっと、顔の中を消した親を作って・・・、ああ、これ後半は目と眉もコピペだな。動いてるのは口だけだ。目と眉を貼り付けて、親二枚目を作って・・・でいいよな?」


 必要な親セルを元データから作成して、元データの不要部分は消す。そして新しく作った親セルを合成し直して完了。念の為シートももう一度確認してこのカットは終了だ。その後のカットは問題なかったが、その次のカットは一部セルバレ、撮影フレームにペイントが足りていない、を起こしていたので実線をフレーム外まで描き足して塗り足しをする。作画がそこまでしか描いていないとはいえ、何故そのままペイントするのか。


「北町さん、また上から取っていけばいいですか?」

「うん、よろしく。で、そっちの上がりはどう?」

「ヤバいっスね。やっぱ合成。」

「手伝い入れて正解だったわー。」

「なるべく早く、あるべき姿に!頑張ります!」


 そこからひたすらに検査検査検査。外が暗くなり始めた頃、ようやく残り数カットと終わりが見えてきた。


「いやー、助かったわ。ありがとうね、南花。めんどくさい修正ばっかだったでしょ?」

「これ毎日やってる指定検査さん、マジで尊敬しますよ。あ、また色パカだ。」


 二人で検査を続けたおかげで終電前には全ての検査を終えられた。あとは北町さんにお任せせざるを得ないが、電車組の俺はここまでだ。


「それじゃ、俺の検査カットの確認お願いしますね。お疲れ様でした。」

「お疲れ様〜。また頼む事があったらよろしく〜。」


 定期的に色指定をやれるようになったら、毎日がこんな大変な日々なのだろうか?それでもまた色指定はやってみたいし、塗りの速度も上げたい。何にせよまだまだ俺は努力が必要だ。



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