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日報4『モブ』


「A、B、C、D、E、F、G、H、I、J、K、L、M、N、O、P、Q、R、S、T、U、V、W・・・。」


 カット袋の表記を見て、ついアルファベットの羅列を読み上げてしまう。カット袋の厚さは10センチほどある。中から動画の束を引き出し、パラパラとめくると、メインキャラの後ろをひたすらモブが歩いているカットだった。


「取り敢えずスキャンだ。担当分けはスキャンかけながら・・・。」


 今日のカットは大量の『モブ』だ。

 『モブ』とはメインキャラクター以外の名前の無い通りすがりの人物たち。一般的に『自由彩色』という打ち込み指定が入れられている事が多い。そして『自由彩色』とは、数パターンある肌、髪、瞳と、数十から百数十ある色のパターンから仕上げ担当者が自由に配色してペイントする作業の事だ。

 今回のカットは300枚近くあるので、到底一人では今日中に上がりを出せない。そういった場合は何人かで分けて作業をしなければならなくなる。幸いにもセル組み、セル渡りは無いので、分担作業はしやすかった。因みにセル組みとは文字通りセルとセルとの組み合わせ。例えば机に置いた缶をAセルとして、それを取る手をBセルとする。この時、缶の背後に手を伸ばして掴むというアクションをすると、缶の後ろになって手の一部分が見えなくなる瞬間が出てくる。撮影もデジタルになったので、セルの前後を入れ換える事もできるのだが、その場合タイムシートに追加の指示を入れたりなどの手間が増えるのでそうはしない。単純に見えない部分は消してしまうのだ。缶のラインに沿って後ろから見えている指の部分だけを塗り切る。これをAセルと組みを切ると言う。その後、缶を持ち上げるアクションをした時、Aセルは空になり、Aセルだった缶はBセルに描き込みになる。これがセル渡り。缶がAセルからBセルに移動している事を言う。今回はセル毎にモブが歩いているだけだったので、深く考える必要はない。


「すんません、スキャン終わりました。分けるのでお願いします。」


 自分が作業できる範囲の枚数を取り、ペイント作業に入る。みんな単純な歩きの動画なのでさほど塗りは難しくはないのだが、何せ枚数が多い。それと色が被らない様にしなければいけないので地味に頭を使う。


「あんま考えないで塗ると、みんな似かよった色味になるんだよな。現実世界はほぼほぼ白シャツに黒か茶のボトムスだろ、ってのは俺の偏見か?」


 なるべく自分が使わない色味を服に塗る様にしながらペイント作業を続ける。

 一通り塗り終わったら、もう一度パカがないかチェックして提出だ。



 しかし翌日、その話数担当の色指定・検査の北町(きたまち)さんに朝イチで声をかけられた。


「ちょっと南花(なばな)、もう少し考えて色塗りなさいよね。」

「なんかまずかったですか?色味重ならない様に頑張ったんですけど。」

「それはまぁ、分からなくもないけど、メインキャラのすぐ後ろを通るモブがメインと似た色味になってるのはいただけない。」

「あ・・・、そこまで考えてなかったっス。自分が塗ったモブしか検査しなかった。」

「メイン塗ってなくたって、カラーモデル見れば簡単に分かる事でしょ?詰めが甘い。全体のバランス見てから上がり出して。」

「リテイクですか?」

「んーん、もう自分で修正して出しちゃった。」

「すみません。お手数おかけしました。」

「次から気を付けて。」

「うっス。」


 完璧な仕上げあがり、まだまだ遠く及ばないなぁ・・・。



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