日報39『久しぶりのスキャン』
最近ではデジタル動画が増えていて手描き動画は少ない。あっても海外動画スキャンで完結してしまって国内にスキャン物が入ってくる事はほとんどない。そんな中、本当に久しぶりにスキャン物が入ってきた。何ヶ月ぶりだろうか、半年以上は確実に間が空いている。
「えっと、まずは注意事項の確認・・・と、基本解像度は150dpiで画像サイズは、このカットは画面動があるから全面スキャンでpixelは必ず偶数で、と。最近は150が主流だなぁ。どこぞの劇場版の200とか240とかじゃないだけマシだけど。」
基本画像サイズの設定は各作品ごとにあるのだが、大体のデジタル動画の上がりは動画用紙サイズいっぱいで上がってくる。それに慣れてしまった昨今では基本画像サイズで切り取ってしまうのが何となく怖い。幸いというかこのカットに関してはカット頭から大きく画面が揺れ、徐々に収まっていくという指示がタイムシートにあるために動画用紙いっぱいのスキャンが必要なので、悩まずスキャンできる範囲で動画用紙を全面スキャンする。その際に縦も横も偶数の数値になるように気を付ける。たまに画像サイズが奇数pixelで上がってくるデジタル動画も本当に稀にだがあるので、日々注意してはいるのだが、気付かず作業を進めてしまって納品フォルダに入れた後で指摘される事も過去にはあった。
「レイアウト、フレーム、動画、全部とった。さすが国内動画、綺麗な線だな。あっと、この作品のシートはjpg指定か。・・・これで良しっと、で、次は・・・?」
自分の担当カットは数カットある。ひとカットずつスキャンをしてペイント作業をして、という訳ではなく、最初にある程度まとめてスキャンを終わらせてしまってからペイント作業に移るのが、うちの会社のやり方だ。
「ああ、合成親の作画範囲も完璧!デジタル動画さん、勝手に線合成してくる人がいるから困るんだよな。作画はその方がしやすいのかもしれないけど、仕上げでドットガタとか出ちゃうからなー。きちんと合成指示のある原画は親と子に分けてほしいよ。」
さて今回は特にカメラワークなどはないので、基本画像サイズでスキャンする。動画用紙よりも一回り小さいサイズになるのに多少の不安はあるが、注意事項に書いてあるのだから文句は出ないだろう。
最後のカットは少し長めの横PAN、PANとは縦や横への撮影フレームの移動の事、ギリギリスキャナーに入る長さで助かった。今まで縦辺に固定されていたタップでスキャンをしていたが、横辺の適当な位置に予備のタップを貼り付けて作業を進める。
「レイアウト、PANフレーム、キャラのローリング指示はコレとコレ。」
ローリングとは、その場歩きをしているような作画のキャラを撮影の段階で指示されたメモリに従い上下左右に少しずつずらし位置を変えて撮影する事でキャラの歩きを表現したりする方法だ。このカットは三人のキャラが並んで歩いているので、それぞれのローリング指示が入れられている用紙を忘れずにスキャンする。全てのスキャン作業が終わったら、次は二値化だ。幸いどのカットもとても綺麗な動画線だったので、苦労する事なく綺麗な線が出た。これならばペイント作業もストレス少なく進められるだろう。
全てのペイント作業を終え、それぞれの作品ごとの納品フォルダにデータをコピーする。あまりに久しぶりのスキャンすぎて、どこかで間違いをしてなければいいのだが。
「さて、今日のお仕事終わり〜。明日にはまたデジタル動画に戻るんだろうな。基本スキャンゴミもなくて線も綺麗だからいいんだけど・・。」
帰り支度をしてパソコンの電源を落とす。今日は少し早めに社内の塗り仕事が終わった。スキャンに多少の時間は取られるが、国内動画で線も比較的綺麗だった為、ペイント作業は特に引っかかる事もなく終えられた。隣の席の北町さんはまだ担当話数の検査の最中だ。とっとと挨拶をして邪魔にならないよう退散しよう。
「お先に失礼します、お疲れ様でした。」
「お疲れ様〜。あ、そうだ南花、明日午後から検査手伝い入ってくれる?社長には話通しとくから。」
「いいですけど、朝からじゃなくていいんスか?」
「一番早い上がりの予定が十三時だから、朝イチだと何もない。」
「分かりました、それじゃ午後から手伝い入ります。お疲れ様でした。」
「うん、よろしく〜。」
検査さんは大変だなと改めて思いながら帰路につく。明日はいつもと違った意味で忙しくなりそうだ。