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日報38『瞳』


 最近のアニメ作品のディテールの描き込みは鬼畜の所業だ。

 昔、セル画に絵の具時代のアニメでは、原作で細かすぎるデザインはアニメ用に省略された物になっていたようだが、現在は違う。どんな細かいディテールでも、ほぼ原作絵通りのキャラデザインで設定が出る。細かいパーツや色トレスになるパーツ。作画にも仕上げにも優しくないが、完成すれば原作に忠実な綺麗な仕上がりになる。

 特に瞳の描き込みが細かく細分化されてきたと思う。十年、二十年と、それこそ絵の具時代から続いているアニメ作品では、瞳のノーマル、一号影、二号影に白目ハイライトくらいの塗り分けで済むのだが・・・。


「うっわ、このタイトルかぁ。瞳の塗りが面倒くさいんだよな。」


 つい声に出してしまう。


「なに朝から愚痴ってるのよ、南花(なばな)。そんなに大変なカット取ったの?」

「おはようございます、北町(きたまち)さん。いや、少女漫画系の瞳、苦手なんスよー。しかもバストアップでフルディテール描き込まれてるカットで・・・。」

「あぁ、最近のは特に細かいもんね。まぁ、(ワン)クールの辛抱でしょ。」

「コレひとつならまだいいですけどね・・・。ってか最近、まつげと瞳孔がブラックじゃない作品増えましたよね。」


 そう、今、手元にある作品の瞳の塗り分けは、まつげ色にまつげグラデ、瞳孔、白目ハイライト、瞳のノーマル、一号影、二号影、ハイライトノーマル、ハイライト一号、虹彩に色ハイライトともちろん白目のノーマル、一号影、二号影と多数の塗り分けがある。


「つい手癖でまつげにブラック入れちゃうんですよね。」

「確かに間違えそうにはなるわよね。私が今持ってるヤツもそうだし。」


 ちなみに現在北町さんが色指定検査をしている作品は、まつげにまつげグラデ、瞳孔、白目ハイライト、瞳Aのノーマル、一号影、ハイライト、瞳Bのノーマル、ハイライト、虹彩、色ハイライト、白目ノーマル、一号影という、これまた多数の塗り分けがある作品だ。


「北町さんのも塗るの大変ですけど、もひとつあの作品も瞳には影無しだけどその分、塗り分けが多いですよね。」


 瞳に影という区別が無いかわりに、瞳1、2、3という分け方をしている作品がある。細かく言えば、まつげにまつげハイライト、まつげグラデ、瞳孔、瞳1、2、3、瞳ハイライト1、2、虹彩1、2、虹彩ハイライト1、2、白目ハイライト、白目ノーマル、一号影という分け方だ。全影に入った時は同じ分だけ落とし色がある。


「アレもまぁ面倒くさいわよね。省略されても、あんまり塗り分け減らないしね。」

「そうなんですよね。中途半端な省略だとどの色使っていいか分からなくなるし。」

「とりあえず手、動かしながら話したら?」

「そうですね。」


 作業を始めながら会話を続ける。


「まだデジタル動画なのが救いですね。スキャンで線が潰れてたら俺死んでましたよ。」


 アナログ動画スキャンでは作画で使える線の色が実線の黒、色トレスの赤、青、緑の四色しかないが、デジタル動画では最近オレンジ、ピンク、深緑などの色が増えている。塗り分けの多いパーツには重宝するのだ。最後のバッチでそれらの色を消すのを忘れないようにしなければならないが。


「北町さんのもデジタル動画ばっかですよね?」

「そうだね。アナログ動画はまだ見てないかな。」

「やっぱ今後はデジタル一直線なんですかね?線が綺麗なのは喜ばしいんですけど、なんか味がないって言うか・・・。」

「そんな事言って、海外動画スキャン引いたらまた愚痴るくせに。」

「そりゃあ、まぁ。自分でスキャン二値化した線なら少し線が汚く出ても自分のせいなんで仕方ないですけど、海外のヤツは怒りの矛先向ける所が無いじゃないですか。あ、しまった、間違えた。」


 瞳の影色をノーマル色で潰してしまった。すかさずコントロール+Zで元に戻す。


「作業に集中できないようなら黙るわよ。」

「あ、すみません。」

「そういえばこの前南花が塗ったカット、塗り間違ってたな。」

「え?マジですか?聞いてないっス。」

「言ってないもん。ま、一枚だけ虹彩が色ハイライトで塗られてただけだったから、口頭で言えばいいかなと思って忘れてた。」

「そういう事は直後に言って下さいよー。もう今日は黙って集中します。」

「おー、頑張れー。」


 口をつぐんで作業に集中する。今は間違いを指摘してもらえたが、この作品の色指定検査さんは別会社の人なので、細かい間違い程度ではリテイクはおそらく戻ってこない。ただ塗りミスをした人間として記憶に残ってしまうだけだ。そうならないようにしっかり意識して作業しなければ。



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