日報24『メイク顔』
この前から入ってきている作品にダンサーのキャラがいる。すっぴんの時は他のキャラと大差ないが、舞台に上がる際のメイクを施した顔が強烈だ。
アイシャドウと口紅は二色使い、それにチークも入る。
顔のアップやバストアップくらいまでのサイズならフルメイクの指示も理解できるが、今塗っているカットはほぼ全身がフレームに入るようなサイズだ。それなのにアイシャドウも口紅もきっちり二色使いになっている。ロング時には濃い方の色、一色でペイントするようにとの指示もカラーモデルにあるのだが、何故原画さんはフルメイクで描いてきたのか。
おそらくアイシャドウ等はグラデーションがかかって綺麗にボカされるのだろう。ただ、この親指の先ほどの顔の大きさでは、口紅はともかく、アイシャドウの方は内側の濃い色は一ドットくらいしか塗り面積が取れない。しかもこのカット、海外動画スキャンだったので、線は荒いし色々作画不備もある。特に目元は潰れているセルが多い。原画データを参考に潰れている目元を整え、アイシャドウを施していく。
「やっぱりアイシャドウほとんど引けないな。でもちゃんと緑トレス入ってるから省略する訳にもいかないし、うわ、めっちゃ面倒くさい。」
原画データを見ながら、睫毛の数を通して合わせ、その隙間に一、二ドットのアイシャドウ一段目を引いていく。そして更に二段目のアイシャドウ。ペンタブを握る手がプルプルと震える。これが六十枚近くあるとなると気が遠くなる。せめて国内動画だったら・・・いや、このサイズなら大して変わらないか。地道に修正していくしかない。
その上、ステージ衣装もかなり細かい。今日一日はこのカットで終わりそうだ。
試しに一枚仕上げてみると、予想以上に時間がかかってしまった。これは絵の具塗りの方が時間短縮出来るんじゃないだろうか。ちなみに絵の具塗りとは自分の中での造語で、絵の具時代のように一色を選択したら続けて全てのセルの該当パーツを塗り進めていく方法だ。ただしこのやり方だと、万が一締め切り時間に間に合いそうにない時に手伝いに出し難い。一部とは言え、自分が塗った労力を手伝い相手に持って行かれてしまうのだ。
「でも装飾品も細かいし、塗り分け多いし、パカりそうなんだよな。時間制限がある訳じゃないし、腹括って絵の具塗りするか。」
よし、まずはアイシャドウを潰そう。瞳周りのディテールを整えつつアイシャドウを塗っていく。最初に濃い内側の色、次に少し面積の大きな薄めの色。これだけで瞳の印象がだいぶ変わる。
次に口紅。中心に濃い方の色、両脇にそれよりも薄い色。アイシャドウよりは塗りやすい。
最後にチーク。これはいつものホホブラシと変わらないので問題はない。
顔をまず塗り上げて細かい所を調整していく。やはりアイシャドウの一番目の濃い色は、ほぼ見えない。撮影上がりはどのように見えるのだろうか?
次に衣装と装飾品に移る。多くの塗り分けがあるので、ここも絵の具塗りで行く事にした。それにしても時間がかかる。いや、自分の手が遅いだけか。
一通り塗り終わり、彩色チェックをする。途中、右手首の花飾りが数枚作画されていなかったりもしたが、仕上げが描き足せる内容ではなかった為、その旨のメモを入れて上がりを出す事にした。
しかし本当にこのカットだけで一日が終わってしまった。枚数が稼げないので、出来ればこのキャラはもう引きたくないなと思いつつ、上がり棚にカット袋を置きに行った。