日報2『デジタル動画』
「なんだこれ?どうなってんだ?」
一通りセルを開いたあと、不可思議なセル構成に首を傾げる。デジタル動画は一つ一つの線は綺麗だし、スキャンごみもないので、本来なら比較的ペイント作業しやすい有り難い素材だ。しかしまれにセオリーを無視したとんでもない素材も上がってくる事もある。
「えーと、シートと原画は・・・。」
完成素材を頭に描く為、タイムシートのデータを開き、原画を手に取り思考を巡らす。今日のカットはカット袋と原画が手元にあるタイプだ。もちろん全てがデータ上にしか存在しない場合もある。個人的な好みだが、俺はある会社の原画スキャンが苦手だ。どうにも見づらくてしょうがない。なので手元に原画の現物があると楽な気持ちで仕事に入れる。
「えーと、操縦席にキャラが居て・・・。A、Gセルは単独で動いてるから問題ない。んで、Bセルが座席のはずだけど、このでっかいハイライトはいったい・・・。それに壁も塗り切り線が無いな。」
原画には描き込みとセル分けを指示する塗り分けが多かった為、動画さんも混乱したんだろう。だがしかし、この動画上がりはお粗末すぎる。
「Cセルがキャラ、Dセルが口パクなのはそのままおいといて、B、E、Fセルの操縦席がなんか、いや、だいぶおかしいな。シートは、と。」
頼みの綱のタイムシートのメモ欄には、『Fセルダブラシ』の指示が書いてあった。カラーモデルで該当する物を見てみると、なるほど、キャノピーのガラス部分は別セルでダブラシ作成の必要ありと。
「と、なるとFセルに実線は不用だから消しちゃってEセルの機体の方に消した実線をコピペして・・・。ん?Eセルのこの線はキャラの上にきちゃ駄目なんじゃ?」
一つ問題を解決すると新たな問題が出てくる。
「キャラの後ろにあるべきパーツだからEセルから消してBセルにコピペ・・・、で成立するか?んで、Bセルの大きなハイライトはたぶんキャノピーのハイライトだからFセルにコピペっと。」
何とかペイント作業できる素材に改造できたようだ。それにしても、何も考えずに動画を描いたようにしか思えない。セル重ねをきちんと想像していれば、こんな上がりは出ないはずだ。絵具の頃の仕上げでは致命的な欠陥も、今は仕上げの部署でそれっぽく修正できてしまうので、動画さんにはリテイクとして戻らない。結果、自分の不備に気付けるチャンスも無く、またおかしな動画上がりを上げてくる負のループが発生する。
「仕上げの仕事はペイントであって動検じゃないんだよ。」
調整という名の改造を施したセルを次々とペイントしていく。ただ自分を過信するのは良くないので一応他人様の意見も伺ってみる。
「北町さん、ちょっといいスか?」
「んー、5秒待って。・・・で、なに?」
「このカット見てもらっていいスかね?元のトレスデータがこうで、塗ったあとがこう。」
「いいんじゃないの?見た目はカラーモデルの通りになってるし。」
先輩のお墨付きを貰えたので、これで提出する事にする。
「色々弄ってると動検料貰いたくならないっスか?」
「なるねー。私の役職は『色指定・検査』だけど、検査時に動検並みに修正してるのもあるわよ。デジタル動画や海外スキャンで動検通ってない動画上がりはやっぱり厳しいもん。」
「偏見ですけど、直接デジタル動画からアニメ業界に入ってる人達って、セオリーが分かってない節ありません?特に合成。」
「ある。」
などとぐちぐち文句を言い合いながら、一日が終わっていくのだった。