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日報18『国内動画2』


 ここのところデジタル動画や海外動画スキャンばかりでスキャナーに触っていなかったのだが、久しぶりに紙の素材が入ってきた。一からスキャンするのはなんと一週間ぶりだ。


「やり方覚えてっかな?」


 機械に疎い自分は日常的に動作を反復していないと、すぐに作業方法を忘れてしまうしトラブルに対処できない。個人外注で仕事をしてる人はそれだけで尊敬に値する。何があっても全て自分一人で対処しているのだから。


「よし、覚えてる覚えてる。」


 問題なくスキャンを取り終えると、線の綺麗さに暫し目を奪われる。


「きっれーな動画だな、これ。」


 余計な線の強弱は無く、繋がるべき線は繋がっており、フレーム外まで線が伸びていて、一発でバケツ塗りができそうなスキャン上がりだ。作品によっては鉛筆のガサガサした雰囲気を残す目的で、わざと筆圧の強弱を付けて描いたりもするが、そうでない作品にとっては最初から最後まで均一な線が望ましい。その方が実線の補正も少なくて済む。


「うわ、ほぼ補正無しで塗れるじゃねーか。」


 実線だけでなく色トレス線も綺麗に出ている。修正する所と言えば、目切り線くらいだ。目切り線とは白目と肌の境界線の事で、膨らみ過ぎてもへこみ過ぎてもいけない為、どんなに綺麗な動画でも大概の場合、若干の修正は必要になる。後は実線で潰れてしまった細かいパーツを削り出すくらいか。スイスイと手は進み、あっという間に一カット作業が終了した。


「よっしゃ、これも国内だ。」


 次のカットを手に自席へ戻る。今度は幼児向けアニメで線の少ない、塗りやすい作品だ。枚数は多いが特にカメラワークも無く、スキャンも簡単に終わった。


「この作品、白が一色なんで助かるよなぁ。」


 白が一色、この作品の場合は白目、瞳のハイライト、汗、涙、鼻水、襟や靴下など洋服の白部分が全て同じ数値の白色になっている。その他多くの作品ではそれぞれ数値の違う白色を使うのが当たり前だ。絵具時代から長年続いている幼児向け作品なだけに、絵具時代の名残もあるのかもしれない。ペイントする人間からしてみれば、一色で複数のパーツを塗れる事は時間短縮になるのでとても有り難い。


 順調に塗り終わって、次のカットを取りに行く。今度はメカ作品だ。動画さんの記入欄に二人の名前がある。カット内容は止めイチのメカが一枚に、その前をキャラが十数枚動く。枚数はそこまで多くはないカットなので、メカとキャラで担当を分けたのだろう。メカ描きさんはメカが有る限りメカ専門で仕事を受けているのだろうか?仕上げにとっては未知の世界だ。


「今日はこれで終わりかな?このメカ、パーツが細かくて色数も多めでそこそこ時間かかるだろうし。」


 思った通りたった一枚だが時間がかかった。と言うのも、隣り合わせの似たような色のボックスを見間違え、間違った色で途中まで塗り進めてしまっていたからだ。その色で正しく塗られているパーツもあったので色置換バッチが使えず、チマチマと塗り直すしかなかったのである。これが無ければもう少し早く塗り終わったのだが。


「自分がアホだっただけだけど、時間かかったな。キャラの方はそんなに面倒臭くないかな?あ、一枚だけクミがあるか。」


 メカの一部に手を触れている所でクミを切る必要があったが、それ以外は特に考える事もなく塗れた。これも線が綺麗でほぼ補正しないで済んだので、思ったより早く作業を終える事ができた。

 上がり棚にカット袋を出しに行くと、今日の分の仕事はもう無くなっていた。国内動画が多かったのか、みんなスムーズに仕事を終えたのだろう。


「今日は早く帰れるな。帰ったら何しよう?」

「終わったの?お疲れ様。」

北町(きたまち)さん、お疲れ様です。今日は国内動画でストレス無く仕事できました。北町さんはまだお仕事中ですか?」

「私ももうすぐ終わるかな。久しぶりに早く帰れそう。」

「ここのところずっと仕事パンパンでしたもんね。こんなに早く帰れても何したらいいのか分かんないっス。」

「私はゆっくり湯船に浸かるわー。」

「風呂かぁ。ずっとシャワーだけだなぁ。たまにはお湯に浸かった方がいいですかね?」

「ゆっくり温まった方が疲れが取れるわよ。この歳になると実感する。まだ若さで乗りきれるあんたと違ってね。って、何言わせるのよ!」

「北町さんが勝手に言い出したんじゃないですかぁ。それじゃ俺はお先に失礼しますね。」

「はい、お疲れ様~。」


 一週間ぶりの早い帰宅に足取りは軽やかだ。北町さんの言う通り、ゆっくり湯船に浸かって鋭気を養おう。明日からの仕事に思いを馳せて。




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