日報17『海外動画スキャン3』
「これは・・・。」
開いたデータを見て、絶句する。いくら海外動画スキャンだからと言っても、線画が汚いにもほどがある。
「どんだけタイトなスケジュールで撒いたんだよ?いくらなんでも汚すぎる・・・。」
まず閉じられているべき線がことごとく繋がっていない。かと思えば、次のセルでは隣接するパーツを突き抜いた線があちこちに見られる。前者は描き足さなければならないし、後者は余分にはみ出た線を削って消さなければならない。そして両者が混在するハイブリッド。最後のセルまでざっと確認したがまともにペイントできるセルは一枚もなさそうだ。
「あー、これは時間かかるなぁ・・・。」
一枚目を塗り終えて、ため息をひとつ吐く。一発でバケツ塗りできるパーツがほぼ無かった。分かりやすい線途切れはもちろん、線の途中が一ドット欠けている所がさらに何ヵ所もある。動画さんの筆圧が均一でない為に実線の出方にそうとうムラがあるようだ。バケツ塗りの塗り溢れが出る度に一段階戻って途切れている部分を探す。何度も何度も繰り返し、ようやく一枚を塗り終わる頃には心が折れかかっていた。
「まずい。ペースが遅すぎる。でもスピードアップは絶対無理だ・・・。」
二枚目に手を付けると、今度はことごとく実線が突き抜けていて、はみ出している線を削らなければならない状態だった。バケツ塗りができる分、こちらの方がまだマシなのだろうか?ここから数枚はそのような状態だったので、突き抜けている実線を見つけては削る。を、繰り返す。どこかに見落としがありそうだが、取り敢えず今は全体に色を付ける事を優先したい。そしてキャラが目パチをした次のセル、急に瞳の作画が変わった。作画が変わったというか、明らかに原画も作監修正も拾えていない不可思議な瞳が出来上がっている。正しくは瞳ハイライトの下に瞳孔の縦線が一ドットか二ドットくらいの大きさで描かれ、さらに瞳に一号影が入る。ロングキャラなので修正できない事もないが、これ以降のセルが全てこの作画だとしらそれなりの枚数だ。
「これくらいなら描けない事はない。ないけど、なぁ・・・。」
葛藤した末に大変な方の選択肢を選ぶ事にした。スケジュールが無いからこの作画上がりなのだろうし、リテイク案件は少しでも減らしておきたいだろう。
「よし、描くか!」
幸い原画は手元にあるので、それを見本にすればそれなりに描けるはずだ。
「この余計な横線は消して、瞳孔と瞳の一号影を描き足して、っと。」
作業自体はさほど難しいものではないが、如何せん枚数が多い。その上、あの実線の汚さだ。思っていた以上に時間がかかる。だがなるべく原画の絵面に近付けるようにと、作業を続ける。
一通り作業を終えて思った事は、やはりこれは動検さんの仕事だったかなと。
上がり棚にカット袋を置き、次のカットを取る。今度は指の先ほどの小さなキャラが何十人もいるカットだった。
「二百パーセント拡大でもこの大きさか。うわ、面倒くさい。」
あまりに小さい絵の作画の場合、拡大作画をして撮影時に縮小貼り込みをする事がある。今回は二百パーセントの拡大作画をしても、キャラの顔はのっぺらぼうにしかならないほどの小ささだ。そしてまた原画の線を拾えていない。
「ここは肌で、ここは服。んでここらへんにリボンがあるはず。」
原画を見ながら、潰れた実線は削り出し、足りない線は描き足しながら一ドット二ドットの隙間をペイントしていく。
「これ丁寧に塗っても縮小されたらほとんど見えなくなるんじゃねーの?」
チマチマと何十人もペイントしていると、それぞれ靴が欠けていたり、足の線が一本足りなかったりと、作画不備が多い。それを原画を参考に修正していく。
「肌、髪、服、靴、鞄。肌、髪、カチューシャ、服、靴。」
一人一人をそれぞれ指定されたキャラでペイントしていくが、指定打ち込みの画像が打ち込み文字で溢れ返っていて見にくいので、キャラの塗り間違いがありそうで怖い。
何とか塗り終わったが、一カット目も二カット目も動画が荒くて大変だった。どの作品でもスケジュールが無く大変なのだろうが、最低限、実線は繋げてほしい。仕上げからの切なる願いである。