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日報12『海外動画スキャン2』


 今日も安定の海外動画スキャン。良く言えば、スケジュールの無い中で放送を落とさないでいられるのは、海外動画と海外動仕のおかげだろう。それはそれとして、スキャン上がりの線は相変わらず汚ない。


「なんで眉は透けて眼鏡は透けないんだろう・・・。」


 海外動画の上がりは時に不可解だ。この作品では眉や瞳は髪に透けない。が、原画ではアタリの意味もあって全てが髪に透けている作画になっているこのカットだが、前髪に眉は透けているが眼鏡のフレームは透けていないという中途半端な上がりになっている。


「40枚も透けた眉毛消すの面倒臭いなぁ。」


 細かい前髪に透けた眉をいちいち消していかなければならないので、かなり手間のかかるカットになる。これで瞳や眼鏡まで透けていれば、更にカロリーの高いカットになるところだった。そして数枚塗り進めたところではたと手を止める。


「やべえ、思ったより時間かかってる。下手したらこの一カットで一日終わるぞ。」


 全体的に線も荒く、一枚塗り終わるのに相当時間がかかってしまった。一旦手の遅さを自覚してしまうと更にペースが落ちてくる。


「なんでこんなカット引いたかなぁ?全部投げ出したい・・・。」

「まためんどい事言ってるわね。」

北町(きたまち)さーん。海外動画、線汚なすぎるんですよー。眉透けてるんですよー。進まないんですよー。いっそのこと手伝って下さいよー。」

「やだ。そんな大変なのやりたくないし、自分の仕事がある。」

「ですよねー。分かってます。」

「なにかテンション上がる曲でも聞いたら?」

「そうします・・・。」


 イヤホンを耳にかけ、パソコンから何曲かプレイリストに落とし込む。いつもより少し音量を上げて曲を流し、作業に戻る。黙々と手を動かすが遅々としてペースは上がらない。


「うぅ、もうスピードは諦めて丁寧さ重視でいくか。あ、ここフレーム欠けてるな。」


 不要な透け眉に加えて所々眼鏡のフレームが途切れている。狭い範囲かつ直線的なパーツの為、これくらいなら自分で描き足して塗り進めてしまうのだが、少し嫌な予感がして先のセルも眼鏡を重点的に見ていくと、その後のセルは同じ部分の線が欠落していた。


「まだ20枚もあるのに全部こんなカンジかぁ。はぁ・・・やる気萎える。」


 ため息をひとつつき、透けた眉をちまちまと消していく。瞳の作画がわりと単純な作品なので、そこには救われている形だ。最近の作品の瞳の描き込み具合はとにかく細かいものが多い。今日引いたカットくらいのアップのサイズなら、瞳はフルディテールになっていた事だろう。瞳1、瞳2、瞳孔、白目ハイライト、瞳ハイライト、虹彩1、虹彩2、照り返しなど、瞳だけで何色も使う作品はざらだ。


「瞳が一色って、ほんと有り難いな。これで前髪が無ければ・・・!」

「キャラのアイデンティティを削ぐような事言わない。」


 北町さんが呆れながら言った。


「眼鏡に細かい毛束にアホ毛のどれが欠けても駄目でしょう、このキャラは。」

「アホ毛なんか時々引っこ抜いてやりたくなりません?」

「なるけども。それより作業進んでるの?」

「まだ半分行ってないっス。いやほんと地味に厄介ですよ、このカット。」

「心情的には手伝ってあげたいけど、いかんせん自分の仕事があるから・・・。」

「お気持ちだけ有り難く頂戴します。何とか頑張ります。」

「ん、頑張れ。」


 イヤホンをかけ直し、再び作業に戻る。遅くなった手はなかなか進まないが、何とか終わりが見えてきた。


「よし、あと一枚!」


 顔のラスト一枚を塗り終わり、残りは簡単な口パクだけだ。


「やった!終わった!」

「お疲れー。案外早く終わったじゃない。」

「そうっスね。じゃあ、次取ってきます。」


 足取りも軽やかに上がり棚にカット袋を置きに行く。そして次のカットを取り、席に戻る。


「北町さん、嫌な予感がします。」


 取ってきたカット袋の端には先程と同じキャラの名前がある。そしてまた海外動画スキャンだ。


「まさかね・・・。」


 サーバーからトレスデータを落とし、セルを開く。枚数は少な目だが、今度は眉も瞳も眼鏡も前髪に透けていた。原画通りと言えばその通りの上がりなのだが、作画注意事項とはいったい何の為にあるのか。


「嫌な予感が当たりました・・・。」

「今日はついてない日だと思って諦めなさいよ。」

「あー、もう。少し音漏れしてもいいっスか?こうなったら音楽ガンガンにかけてソッコー終わらします。」

「早く上げるのはいいけど、ちゃんと丁寧にやりなさいよね。」

「うっス。」


 パソコンに向き直ると、イヤホンをかけ、プレーヤーの音量を上げる。無理矢理にテンションを上げないと、萎えた気持ちが勝ってしまいそうだ。


「まったく、今日は厄日か。」


 一言つぶやいて作業に取りかかる。今日はもう、次のカットを取るのを諦めながら。


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