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日報1『透け越し色』


「あーもう、『透け越し色』面倒くさい!」


 今日も今日とてパソコンの画面とにらめっこしながらペンタブを動かす。


「こんな面倒な処理、テレビシリーズでやるなよなあ。・・・劇場でやられたらもっとしんどいだろうけど。」


 俺、南花(なばな)嘉雄(よしお)の仕事はアニメーション制作の一部分、『仕上げ』と呼ばれる部署だ。昔はセル画に絵具で彩色をしていた仕事、今ではすべてパソコン作業になっている。アナログからデジタルへの切り替えは昨今の情勢からみて仕方のない事だけど、デジタルで出来る事が増えた分、現場での作業カロリーは日増しに高くなっていく。


「髪の毛なんて透けないでなびいていればいいんだよ、チクショウ。」


 本日の愚痴、『透け越し色』とは、キャラクターの髪の毛の下にある眉毛や睫毛が透ける作品が多い中、更に髪の毛や眉毛などとは別色でトレスペイントするという処理。これが面倒だ。ペイントだけ別色ならまだしも、トレスペイントとなると、描かれた動画の実線からちまちまと必要な部分だけを区切って塗っていく。1枚止めならまだ丁寧に丁寧に頑張ろうとも思えるが、何十枚にもなれば集中力も切れてくる。そして冒頭に至る訳だ。


「そんなにこだわる所ですかね?バストアップ以上限定の処理とかにできないもんですかね?正直このキャラの大きさだと透け越し色TPしても、んな目立たないでしょ?どうっスか、先輩?」


 隣のスペースで作業していた先輩、北町(きたまち)さんのデスクを覗き込む。


「作品内のルールなんだから、こっちがどうこう言ったってしかたないでしょうが。面倒な作業が嫌なら早く色彩設計になりなさい。それで細かく大変な仕上げ作業を伴わず、かつ、見映えのいいキャラのカラーモデルを作って下さい。」


 グウの音も出ない正論をぶつけられて、渋々自分の作業に戻る。


 確かに仕上げが楽な作品は良く言えばシンプル、裏を返せば単調でメリハリが少ない。幼児向け作品がこの部類に入る。その他最近の漫画原作などのアニメキャラクターといえば、とにかく衣装の装飾が細かい。更に色トレスを多用する。動画で赤青緑トレスで描かれていれば少しは、本当に少しは作業もしやすいが、現実は黒の実線1色で描かれた物を、仕上げ作業時に色トレスに変換する物も多い。先程から例に挙げている『透け越し色』や『金髪・白髪の髪の毛』それに『料理』など。


 演出さんや原画さんに言いたい。「仕上げ時、色トレスで」は魔法の言葉ではないという事を。


 そして仕上げ作業のカロリーは高くなるのに単価は昔からあまり変わらないという事実が仕上げ部署のやる気を削ぐ。テレビシリーズだから単価はこれだけ。って決めつけている、アニメ業界がどうかしていると思うのだ。作品内容に合った予算を是非ぶんどってきてほしいものだ。


 などと心の中で思いながら、ひたすら『透け越し色』の処理を施していく。まだこのあとにはデジタル動画のカットの作業も残っている。こちらは何事もなければいいのだが・・・。




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