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虹宮白羽と七人の悪魔  作者: 我楽太一
第二章 虹宮白羽と最初の一日
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第二章(1/6)

 緊張の面持ちで、夜彦は尋ねる。


「……どうだ?」


「はい、美味しいですよ」


 炒飯を一口食べると、白羽は笑顔でそう答えた。


 白羽が天原家に引っ越してきて、三日目のことである。この日も、夜彦が台所で昼食の準備を行なっていた。そして、その味見を白羽に頼んだのだった。


「本当にか?」


「ええ」


 念の為に再確認しても、白羽の返事は変わらなかった。だから、夜彦は胸をなで下ろす。


「そうか。前に赤音に変身した時は文句言ってたから、てっきり俺の味付けが気に入らないのかと思ってたよ」


「…………」


 夜彦の話を聞いた瞬間、白羽は笑顔をこわばらせる。


「……やっぱり、まずいのか?」


「いえ、その……」


「まずいんだな?」


「ちょ、ちょっと味が濃いかなぁと思います」


 遠慮がちに白羽はそう切り出す。それでも言い過ぎたと思ったのか、更に「私が薄味が好きなせいもあるかもしれませんが……」とまで付け加えていた。


 これを聞いて、夜彦は目をつり上げる。もちろん、料理に文句をつけられたからではない。


「お前のことだから、わがまま言うと迷惑かけるとか思ってるのかもしれないけど、ストレス溜めて変身される方がよっぽど迷惑だからな。言いたいことがあったら、どんどん言えよ」


 弥宵も、白羽を預かった理由をそう説明していた。


〝いい子過ぎる性格を直して、ストレスを溜めないようにすれば、変身体質が治ったのと同じことになるはずじゃろ? じゃから、白羽には夜彦の影響を受けてもらおうと思ってのう〟


〝そういうわけで、親や周りに迷惑をかけたくないという本人の意思もあって、うちで引き取ることになったわけじゃ〟


「お前だって、その為にうちに来たんじゃねーのかよ?」


「そっ、そうですよね。すみません」


「違う違う。そういう時は、〝うっせーな。お前に言われなくても分かってんだよ〟でいいから」


「はぁ……」


 本当にいいんでしょうか、とばかりに白羽は困惑の表情を浮かべた。実際のところ、本当に言われたらショックを受けるだろうが、優し過ぎる白羽にはこれくらい大げさに注意しておくくらいがちょうどいいはずである。


 それから二人が、


「でも、これどうしようか」


「ご飯を足したらいいんじゃないですか?」


「それで味がうまく混ざるか?」


「それじゃあ、薄味のスープを作って、スープ炒飯にするのはどうでしょう?」


「なるほど」


 などと、出来損ないの炒飯を前に相談をしている最中のことだった。


「ただいま」と弥宵が外出先から帰ってくる。


「なんじゃ、作ってくれたのか」


「失敗したから、今どうするか話してたとこだけどな」


「そんな神経質になることないじゃろ。どれ味見してやろう」


 そうして一口食べると、弥宵はすぐに言った。


「確かにしょっぱくていまいちじゃな。はよ作り直せ」


「そりゃ、悪かったな」


「これじゃあ、三角コーナーでも漁った方がマシじゃわい」


「ああ? じゃあ、食ってみろよ」


 夜彦は思わず声を荒げる。さすがに生ゴミ扱いはないだろう。


 しかし、この感想を聞けたのは、ある意味ではラッキーだった。夜彦は視線を弥宵から白羽へと移す。


「こんな感じでも全然いいからな」


 すると、白羽はこう答えた。


「うっせーな。お前に言われなくても分かってんだよ」


 引きつった笑顔で「よ、よし、その調子だ」と返すのが、夜彦にはせいいっぱいだった。



          ◇◇◇



 白羽が越してきて五日目の晩。夜彦が自分の部屋で寛いでいる時のことだった。


「夜彦、ちょっとよいか」


 そうノックもせずに部屋に入ってくると、弥宵はテレビ画面を見てにやにやと笑みを浮かべた。


「すまん、お楽しみ中じゃったか」


「映画だ、映画」


 人聞きが――というか白羽聞きが悪いから、夜彦は慌てて訂正した。これはあくまでも、演出上必要なシーンである。


「このあと殺されるとも知らずに、バカップルがイチャつくアレだよ」


「ああ、ホラー映画でよくあるやつじゃな」


「そうそう」


「でも、確かこいつら生き残るぞ」


「マジで!?」


 弥宵の言う通り、直後に主人公のおかげでバカップルが助かるシーンが流れたので、夜彦は「マジだ……」と再び驚くのだった。


 キリのいいところで映画を一時停止すると、夜彦は改めて尋ねる。


「で、一体何だよ?」


「白羽のことなんじゃが……」


 わざわざ二人きりの状況を選ぶあたりで予想できたが、弥宵の話は案の定白羽の体質に関するもののようだった。


「あれから変身はしたか?」


「いや、俺の知る限り一度もしてないはずだけど」


 引っ越し初日と二日目に赤音になって以来、少なくとも夜彦の前で白羽が変身したことはなかった。そもそも変身させないように、白羽には「遠慮するな」「言いたいことがあったら言え」「この映画笑えるから見てみろ」と言い聞かせてきたくらいである。


 しかし、この話に何故か、弥宵は「そうか……」と複雑そうな表情をするのだった。


「変身してないってことはストレス溜まってないってことだろ? いいことじゃねえか」


「そうは言っても、今後一切変身しないということはおそらくありえんからのう。じゃから、早い内から赤音たちへの対応に慣れておいた方がよいかと思っての」


「ああ」


 そこまでは思い至らなかった。弥宵はやはり、自分よりもはるかに深く白羽のことを考えているようだ。


 ただ弥宵の意見には、単純に賛成もできなかった。


「でも、だからって、無理に変身させるわけにもいかねーだろ」


「それはそうなんじゃが……」


 夜彦に反論されて、弥宵は相変わらず複雑そうな表情をする。


 そして、ついには溜息をつくのだった。


「期限には間に合わせたかったんじゃがのう」


「期限って?」


 きょとんとする夜彦に、弥宵は呆れ交じりに答える。


「お前さんたち、明日から学校じゃろ」


「あっ」

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