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虹宮白羽と七人の悪魔  作者: 我楽太一
第一章 虹宮白羽と悪魔祓いの少年
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第一章(6/6)

「あれ、私……」


 意識が戻ると、白羽はすぐに事態を把握したようだった。


「す、すみません! 私、また……」


「いや、いいよ」


 変身の後遺症(?)で、公園で気絶してしまった白羽。夜彦はそんな彼女をおんぶして、家に向かっているところだった。


「歩けそうか?」


「はい、多分」


「多分なら、おぶってくか」


「あ、絶対。もう絶対歩けますから」


 白羽は慌てて訂正するが、夜彦は聞く耳を持たない。そのままおんぶを続行する。


 おかげで、白羽はますます申し訳なさそうな声色になっていた。


「……あの、本当にすみません」


「だから、いいって」


(って言っても納得しないか……)


 周りに迷惑をかけた自分に腹を立てて変身するくらい、白羽は他人には優しいが自分には厳しい性格なのだ。他人に許してもらったからといって、自分を許せるわけではないだろう。


 だから、夜彦は彼女に尋ねた。


「お前、料理はできるのか?」


「えっ? ええ、一応一通りは」


「そうか。それじゃあ、晩飯はお前が作れ。ハンバーグな」


 白羽の意見は聞かずに、決定事項のように夜彦はそう命令する。


「それで今日のことはチャラにしてやるよ」


「はっ、はい!」


 白羽の声にはようやく明るさが戻っていた。


 それを聞いて、夜彦もひとまず安心する。交換条件を出さないと納得してくれないのは、真面目過ぎて逆に今後が不安でもあるが。


 そして、その真面目過ぎる性格を早速発揮したのか、白羽は確認するように尋ねてきた。


「でも、天原さん、ハンバーグがお好きなんですか?」


「……恥ずかしいから、他のやつには言うなよ」


 好きな料理でも、もっと格好のつくものを挙げればよかったかもしれない。しかし、これから一緒に暮らす相手に見栄を張っても仕方ないか、と夜彦はすぐに思い直す。


「そういう虹宮は何が好きなんだ?」


「私ですか? 私はご飯です」


「……ご飯?」


「そうです」


 訝しがる夜彦に対して、白羽はさも当たり前のことのような口調で答える。


「おかずは基本的に何でもいいんですけど、ご飯だけは欲しいっていうか。たとえば、お蕎麦やおうどんを食べる時でも、おにぎりがついていないと嫌なんです」


「ああ、なるほど」


 ハーブティーが趣味だと言うから、白羽にはパスタのようなオシャレなものが好きなイメージを持っていた。だが、それは夜彦の先入観だったようだ。


 あるいは、初対面の相手を前にして、白羽もあの時は多少見栄を張っていたのかもしれない。


「パスタにも、おにぎりのセットがあるといいんですけどね」


「そこはせめてリゾットにしとけ」



          ◇◇◇



「ど、どうでしょう?」


 おずおずという調子で、白羽が尋ねてくる。


 対して、夜彦は満足顔だった。


「うん、美味い美味い」


「本当ですか?」


「ああ。こんなことなら、昼飯もお前に作ってもらうんだったよ」


「よかったー」


 喜ぶというより安心したように、白羽は声を漏らしていた。


 昼間の約束通り、今日の夕食は白羽の作ったハンバーグだった。柔らかかつ滑らかな歯触りに、あふれ出すようなジューシーな肉汁。しかし、肉特有の臭みは全くない。白羽が不安がるのが不思議になるくらいの出来だった。


 夜彦の感想を聞いて、白羽もようやく夕食に箸をつける。まずはスープ。次にハンバーグ。それから――


「……お前、本当にご飯が好きなんだな」


「はい」


 今まで気付かなかった自分が鈍いのか、それとも今まで白羽が表情に出さないようにしていたのか。とにかく白羽は、笑顔でご飯を食べて、笑顔で夜彦に答える。ハンバーグを褒められた時よりも嬉しそうだった。


「やっぱり、ご飯を食べないと、ご飯を食べた気がしないですよね」


 会話に一拍間が空いた。


「……パンや麺じゃなくて米を食べないと、食事した気にならないってこと?」


「そ、そうです」


「分かりづれーんだよ。最初からそう言えよ」


 いや、仮に分かりづらさを差し引いたとしても、どれだけ米が好きなのかという話である。夜彦は思わず呆れ顔をしていた。


「…………」


「どうかしたのか、ばーさん」


 普段は口うるさいくらいよく喋るのが弥宵のはずである。それなのに、今日はどういう訳か、夜彦と白羽のやりとりをただ静かに眺めているだけだった。


「お前さんたち、随分仲良くなったと思ってのう。わしのおらん間に何かあったのか?」


「ああ、また赤音が出てきただけだよ」


 ぶっきらぼうにそう答えると、弥宵もおおかたのところを察したようだった。


「その言い草じゃと、上手いこと赤音の怒りを収めることができたようじゃな」


「まあな」


 ただビンタされただけの昨日と違って、今日は白羽の悩みを解決することで変身を解いたのだ。いくつか失敗もあったものの、上手くいったと言っていいだろう。


「夜彦のことだから、てっきり〝こんなクソ面倒くせえ女のことなんか知るか〟とかキレて、赤音のことを放っとくんじゃないかと思っとったんじゃが」


「ま、まぁ、迷惑かけるのはお互い様だから……」


「なんじゃ、図星か」


「…………」


 実際あの時は、弥宵任せにしようかという考えも夜彦の頭をよぎっていた。もし相手が赤音という個人だったら、あそこまで必死に追いかけたり、説得したりするような真似はしなかったかもしれない。


 しかし、赤音はあくまでも白羽の一面なのである。


「要するに、あれは普段優しいやつが溜め込んだ怒りを爆発させるようなもんなんだろ? 変身だとか悪魔憑きだとか考えるからややこしいだけで、単に虹宮はそういう性格のやつなんだと思えば別に大したことじゃねえよ」


「なるほどの」


 弥宵は納得したような、安堵したような顔つきをする。白羽も「天原さん……」と微笑を漏らしていた。


 そして、弥宵は安堵の表情のままこうも言った。


「その様子なら、他の子たちとも上手くやっていけそうじゃな」


 一瞬、発言の意味が分からなかった。


「……おい、ばーさん、今何つった?」


「じゃから、他の子たちとも上手くやっていけそうじゃなって」


 夜彦の注文通りに、弥宵はそう繰り返す。どうやら自分の聞き間違いでも、弥宵の言い間違いでもないらしい。


「いるのか? 赤音以外にも?」


「そうじゃ」


 愕然とする夜彦に対し、弥宵はこともなげにそう頷く。


「腹が立ったら怒鳴ったり、悲しくなったら大泣きしたり、ストレスの種類によって解消法はいろいろあるじゃろ。じゃから、白羽がストレス解消の為に変身するなら、変身後の姿にもいろいろあって当然じゃろうが」


「マジかよ……」


 赤音一人に変身するくらいなら、白羽の欠点の一つだと割り切れそうだった。しかし、他にも複数人に変身するとなったらどうだろうか。いくら人間には欠点があって当然とはいえ、限度があるのではないだろうか。


(うわ、クソ面倒くせえなぁ……)


 そんな気持ちがうっかり顔に出ていたらしい。夜彦の表情を見て、白羽が不安げなような、悲しげなような、辛そうなような顔つきをする。


 だから、夜彦は慌てて弁解するのだった。


「いや、お互い様! 迷惑かけるのはお互い様だからな!」

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