表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虹宮白羽と七人の悪魔  作者: 我楽太一
第六章 虹宮白羽と悪魔祓いの夜彦
29/35

第六章(1/7)

(まさか、こんなすぐ見つかるとは……)


 面倒くさがりにもほどがあるだろう。蔵を出た途端に青衣を発見したことに、夜彦は嬉しいような呆れてしまうような複雑な気分になっていた。


 だが、一番重要なのは白羽を助けることである。その為には、青衣たちのストレスを解消して、蔵まで連れ戻さなくてはならない。


 だから、ブルーシートの上で横になる青衣に、夜彦は尋ねるのだった。


「どうした? 眠いのか?」


「…………」


「退屈なら、ゲームでもやるか?」


「…………」


「せめて返事くらいしてくれ」


 見つけるまでは一瞬でも、連れ戻すのはそう簡単にはいかないようだった。夜彦は怒鳴りたくなるのをこらえながらもう一度尋ねる。


「眠いのか?」


「眠い」


「分かったから、家の中に行こうな。こんなとこで寝たら風邪引くぞ」


 夜彦はそう言うと、青衣の前でしゃがみ込む。もういちいち「おんぶ」と、彼女に催促されるまでもなかった。


「着いたぞ」


 白羽の部屋のベッドの前まで来ると、夜彦はそう声を掛ける。


 しかし、どういう訳か、青衣はなかなか背中から降りようとしなかった。怠け者とはいえ、楽をする時の手間は惜しまないはずなのだが……


「おーい」


 改めて呼びかけてみたが、やはり青衣が降りる気配はなかった。それどころか、返事さえしてくれない。


「おい、もう寝たのか?」


「夜彦、うるさい、寝れない」


「早く降りろよ」


 不機嫌そうに答える青衣に、怒りたいのはこっちだと夜彦は眉根を寄せていた。


 青衣は相変わらずのろのろとした動きで背中から降りると、同じようにまたのろのろとした動きで布団に入った。ベッドで寝るだけのことがまるで重労働である。


 しかも、それで青衣はすぐに眠るわけではなかった。


「夜彦」


「何だよ?」


「夜彦も」


 そう言って、青衣は気だるげに布団を叩く。


 あたかも、自分の隣のスペースを示すようなジェスチャーだった。


「……もしかして、俺も一緒に寝ろって?」


「そう」


「いや、何でだよ」


 まさか、そういう意味で、「寝たい」のだろうか。眠そうな表情を見る限り、本来の意味で寝たいのだと思うが……


 青衣の爆弾発言の理由はすぐに分かった。


「今日、寒い。寒いと、寝れない」


「ああ、それでか。だから、さっきもなかなか降りようとしなかったんだな」


「そういう、こと」


 まるきり湯たんぽ扱いだったから、夜彦は呆れてしまう。もっとも、少し安心したようなガッカリしたような気持ちもあったが。


「布団が暖まるまででもいいか?」


「いい」


 赤音や黄希たちを探しに行きたいから、青衣にだけ構っているわけにもいかない。返事を聞いて、夜彦はホッとする。


 しかし、青衣にはまだ頼みたいことがあったから、すぐにまた緊張の面持ちになっていた。


「あと、起きたらでいいから、蔵まで戻って欲しいんだけど」


「無理」


 即答だった。


「あ、え、嫌なのか?」


「無理」


「…………」


「無理」


 何かやりたいことでもあるのか。青衣といえば、やはりゲームか。


 それとも、まさか面倒くさがりだけに、蔵に戻ることさえ面倒なのだろうか。それなら、白羽は一生あのまま目を覚まさずに……


 一瞬そう絶望しかけたが、夜彦はすぐに考え直す。


「俺がおんぶしてやるから」


「なら、いい」


「お前なぁ……」


 部屋から蔵までは、50メートルもないだろう。その程度の距離すら歩きたがらない青衣に、夜彦は二の句が継げなくなってしまった。


 一方、青衣は青衣で、夜彦の言動が不満のようだった。話はもう済んだとばかりに、もう一度布団を叩く。


「夜彦、早く」


 本人ではないとはいえ、白羽の一面との同衾である。また、寝る場所も彼女のベッドだった。いろいろな意味で、白羽に悪い気がする。


 だが、白羽を助ける為には、青衣を満足させるしかないのだ。


「分かったよ」


 白羽が目を覚ましたら、土下座でも何でもして謝ろう。そう諦めをつけて、夜彦も布団に入る。


 すると、その瞬間にも、青衣は体をくっつけてきたのだった。


「ぬくい……」


 嬉しそうに、青衣はそう呟く。


 しかし、夜彦はむしろ暑いくらいだった。青衣の体が密着しているからではない。体が密着していることに、うろたえていたからである。


(……まぁ、眠くなるよりはいいか)


 まだやることがあるから寝過ごすのはまずい。動揺から完全に目が冴えてしまった夜彦は、気を紛らわせようとそんなことを考える。


 対照的に、青衣はリラックスしている様子だった。ついさっき夜彦が布団に入ったばかりだというのに、早くも寝息を立て始める。


(相変わらず、寝つきがいいな……)


 また、相変わらず寝顔は穏やかで可愛らしかった。起きている時とは大違いである。


 しかし、いつまでも見とれているわけにはいかない。彼女の睡眠を妨げないように、夜彦はそっと静かに体を起こす。


 が、上手く立ち上がれなかった。


 どうやら体をくっつけてきた時に、青衣は一緒に服のすそを握り締めていたらしい。


「おい。ちょっと離せよ、おい」



          ◇◇◇



 なんとか青衣を引き剥がしたあと、夜彦は残りの三人を探しに行く。


(次はどこにいるか予想のつくあいつだな……)


 白羽から抜け出た少女たちは、それぞれの欲求を満たそうとしているのだ。その点を踏まえて考えれば、彼女については行きそうな場所にあてがあった。


 だから、夜彦はそこへ真っ直ぐに向かう。


(やっぱりか)


 彼女は待ち構えるように、既に台所のテーブルに着いていた。


「夜彦さん、ご飯はまだですか?」


 黄希は開口一番にそう尋ねてきたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ