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虹宮白羽と七人の悪魔  作者: 我楽太一
第三章 虹宮白羽と彼女の気がかり
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第三章(1/5)

「今朝は本当に寒いですねー」


「そうだな」


「昨日は暑いくらいだったんですけどね」


「まぁ、まだ四月になったばっかだからな」


 白羽の話に、夜彦はそんな相槌を打った。


 朝、最寄のバス停で降りて学校へと向かう最中、二人は今日もとりとめもない会話をしていた。希望通り同じクラスになれた為、教室に着くまでこうして一緒に歩くのが既に日課になっていたのである。


「でも、明日はまた暑いらしいですよ」


「マジで?」


「はい。三十度近くなるんじゃないかって話です」


「三十度って…… これだけめちゃくちゃだと――」


 そう夜彦が言いかけた時のことである。


「おはよう、虹宮さん」


「おはようございます」


 おさげの女子生徒に追い抜きざまに声を掛けられて、白羽もそう挨拶を返すのだった。


 二人に「仲良くするな」とも言えないから、今の中断は仕方ないだろう。そう気を取り直して、夜彦は先程の話を再開する。


「これだけめちゃくちゃだと風邪ひきそうだな」


「そうですね」


 と頷いてから、白羽ははっとしたよう顔をする。


「そういえば、天原さん、このところよくくしゃみをされてますけど……」


「ああ、あれは多分花粉症だよ」


「あ、そうなんですか?」


「小さい頃はなんともなかったんだけどな。確か、中学の時くらいから――」


 そう夜彦が言いかけた時のことである。


「おはよう、白羽ちゃん」


「おはようございます」


 ポニーテールの女子生徒に追い抜きざまに声を掛けられて、白羽もそう挨拶を返すのだった。


 二人に「仲良くするな」とも言えないから、今の中断は仕方ないだろう。そう気を取り直して、夜彦は先程の話を再開する。


「確か、中学の時くらいから症状が出始めたんだよ」


「花粉症ってこれまでの蓄積で発症するって言いますもんね」


 ニュースか何かを見たのだろう。白羽自身は花粉症ではないようだが、一通りの知識は持っているようだった。


「薬は飲まれてるんですか?」


「いや、俺はわりと軽いから何もしてないよ」


「くしゃみをされてるじゃないですか」


「あれくらいなら全然マシだろ。ひどいやつは――」


 そう夜彦が言いかけた時のことである。


「おはよう、シロ」


「おはようございます」


 茶髪の女子生徒に追い抜きざまに声を掛けられて、白羽もそう挨拶を返すのだった。


 二人に「仲良くするな」とも言えないから、今の中断は仕方ないだろう。とはいえ――


「…………」


 とはいえ、何度も会話を邪魔された夜彦は、複雑な気分になっていた。



          ◇◇◇



「重い……」


 おさげの女子生徒が、授業で使う教材を運んでいる時のことだった。


 体を使って支えてもクラス全員分のプリントが重いことに困っていると、彼女は手を差し出しながら声を掛けてきた。


「手伝いましょうか?」


「虹宮さん!」



          ◇◇◇



「届かない……」


 ポニーテールの女子生徒が、黒板の文字を消している時のことだった。


 爪先立ちしても最上段の字に手が届かないことに困っていると、彼女は椅子を運びながら声を掛けてきた。


「手伝いましょうか?」


「虹宮さん!!」



          ◇◇◇



「分からない……」


 茶髪の女子生徒が、小テストの勉強をしている時のことだった。


 何度読んでも教科書の説明が分からないことに困っていると、彼女はノートを手にしながら声を掛けてきた。


「手伝いましょうか?」


「虹宮さん!!!」



          ◇◇◇



 二人の話が挨拶で中断されるのは、何も今に始まったことではなかった。その優しく分け隔てのない性格のおかげで、白羽は学校が始まってわずか数日で、すっかりクラスの人気者になっていたからである。


 この調子で行けば、学年、いや学校規模の人気者になる日もそう遠くないのではないか。まかり間違っても、友達がいない不安から青衣に変身して、「帰りたい……」などと言い出すようなことにはならないだろう。


 事実今も、挨拶のあとも居残った茶髪の女子生徒と、白羽は楽しそうにおしゃべりしていた。


「シロは古文の予習やった?」


「はい」


「マジ? あとで写させてよ」


「ダメですよ。ちゃんと自分でやらないと」


 優しいだけでなく真面目な白羽は、そうたしなめつつ断る。


 すると、茶髪は手を合わせて懇願しだした。


「お願い。今日は当たる日だからさー」


「もう、今日だけですからね」


「あと英語も写させて欲しいんだけど」


「……今日だけですからね」


 結局、あっさりと折れるあたりがお人よしである。茶髪が「やった! シロ、大好き!」と飛びついてくるのに対しても、「だ、抱きつかないでくださいよ」とは言いつつ、力ずくで引き剥がすようなことはしなかった。


 そうして、きゃあきゃあと姦しい二人とは対照的に――


「…………」


 話し相手のいない夜彦は、ただ一人静かに歩くだけだった。



          ◇◇◇



「見つからない……」


 眼鏡の男子生徒が、自転車の鍵を探している時のことだった。


 床に這いつくばるようにして探しても鍵が見つからないことに困っていると、彼はヤンキー座りしながら声を掛けてきた。


「手伝ってやろうか?」


「ひぃ! 天原君!! 大丈夫です!!!」



          ◇◇◇



 夜彦に誰も話しかけてこないのは、何も今に始まったことではなかった。その恐ろしい顔つきのせいで、夜彦は学校が始まってわずか数日で、すっかりクラスで浮いた存在になっていたからである。


(帰りたい……)

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