我等今宵 王を戴く(6)
夕闇が街を覆い始めた。
公園の野外劇場に向かい、多くの人の足が運ばれている。UTAGEの舞台は宵闇の中に煌々と写し出されていた。
動画配信サイト『ヨツベエ』で案内をしただけなのに千ほど用意された席は既に埋まり、立ち見も出ている。
会場に集まった観衆は『何か』が起こる期待を胸に、思い思いのやり方でその瞬間を待っていた。
ケインは処理の終わった書類を前に一息ついた。
「今日は少なめだったな」
「そうでしょう?ちゃんと調整してあるから。後は明日やんなさい」
驚いて声のする方を向くとケイ・オプティコム女史がそこにいた。
「姐さん」
「姐さんはもうお止しなさいな。署長にもなって」
「失礼、つい癖で」
「それより、準備は出来た?」
「!?」
「出るんでしょ?」
「……はい」
「出るからには無様な姿を曝すんじゃないよ?
ホラ、行っといで。お迎えの車が来てるよ。
なんなら『気合い』が要るかい?」
「お願いします!」
背中に一発、強烈な平手が飛ぶ。
「ーー!効いた〜!
姐さん、ありがとうございました。行って参ります!!」
部屋を出て行くケインの後ろ姿にオプティコム女史は一人呟いた。
「良い背中見せるようになったじゃないか。
あの娘を泣かすんじゃないよ…」
リューの用意した迎えの車で続々と会場入りする十人の参加者達。飛び入り枠の6名を加え、用意された楽屋で顔合わせが行われた。
「本日はホンマありがとうございます。ワテ、正直言ってこんな凄いメンツになるとは思てませんでした。
もしここでなんかあったら、モキータは明日からどうもならんのちゃいますか?
ホンマにありがとうございます!」
「あの映像見せられたら引く訳にいかんだろう?」
「『生き様』を見せつける自信のある者だけが参加できると言われてはね」
「そうよ。参加しないって事は、自分の生き方に自信がないって事でしょ?引けないわぁ」
「研究に身を捧げたと言っても、今まで『なまっちょろい』なんてバカにされて来ました。でも、それを誇っていいと教わりました。
負けてもいい。でも闘う事からは逃げたくない。
心からそう思ったんです」
参加者は口々に思いを言葉にする。
「皆さんの言葉を聞いて、この機会を提供できた事が幸せに思いますわ。イベント屋冥利につきます。
でも、皆さんに一つだけお願いがあるんですわ。
正々堂々闘こうた後は握手を交わして欲しいんです。勝負が終わったら敵も味方もない、そこにはただ共に闘こうた友がおる。
それがこのUTAGEのコンセプトなんです。
今日のこの場だけで構いません。
お願いできませんか?」
「信じられませんな」
そう答えたのはガイナ・カマタマーレ、商工会の次期会長と目される獣人であった。
「ケイン署長、あなたはマクマホン市長派に属しておられますよね?市長派が獣人と仲良くできるとでも言うのですか」
ケインの目が険しくなった。
「ほらその目。出来ないでしょう?」
「私は市長と袂を別つ積りだよ」
「またまたご冗談を」
「理由は二つ。一つは先程の映像の女性だ。彼女は獣人だ」
「「そう言えば…」」
「は!?女の色香に迷ってとでも言うのかな?」
「それより重要なのはもう一つの方だ。市長は昨日の闘いを見て私達を嘲ったのだよ」
「なんだと!」
トビーが気色ばむ。
「私は許せない。周りからどう見えようとも、本気で正々堂々闘った私を、共に闘ったみんなを嘲笑うその心根が!
パオーンしてしまった私は愚かかもしれない。
だが、私はあの場で自らの生き様をかけ全身全霊で闘ったのだ!
正々堂々、全身全霊で闘った者を嘲笑うような男と同じ道は歩けない!」
「……」
「ガイナさん。私は軽々しく『信じてくれ』などとは言わない。全ては今日の闘いを通じてご判断願おう。虚飾を外した私を知って欲しい」
「そう……そうだったな。今宵は言葉で語り合う夜ではなかった。
ケイン署長、いやキング。
あなたの行動で判断させて頂こう」
全員の顔に新たな決意が浮かぶのを見てリューはエビス顔で一人頷く。
「では、皆さんスタンバってください。UTAGEの開幕です!!!!」
モニターでUTAGEのステージに立つトシとタカを見ていたリューはメリーに声を掛けた。
「アカン、二人共テンパっとるわ。メリーちゃん、打合せ通りハッパ掛けてきてくれるか?」
「仕方ないなぁ。バイト代、奮発してくださいよ?」
そう言うとメリーは衣装を身に纏いステージに向かった。
大観衆の雰囲気に飲まれたトシとタカが言葉を失っていると、二人の後頭部をメリーが叩いた。
「「あたっ」」
「何してんのよ! あたしが出るまでに場を温めといてって言ったでしょう?」(ほら、緊張してないで。繋いで繋いで!)
メリーはシンクロで助け船を出す。
「そんな事言っても、この会場の様子を見てくださいよ」
「温めるどころか熱くて火が点きそうなんですから」
「ホントそうね。皆さ〜ん、こんばんは〜」
「改めまして、僕らが今日の総合司会を務めさせて頂きます。
トシで〜す」
「タカで〜す」
「レジーナ・リジーでございます」
途端にメリーの両脇から平手が飛ぶ。
「誰がレジーナだよ!」
「どの乳下げて言ってるんだ、全く」
漫才みたいなやりとりで緊張がすっかりとれたトシ・タカは調子を取り戻した。
UTAGEが今幕を開けた。
こんな話を読んでくれている方がいる事にビックリ。感謝してます。感想を頂けると嬉しいです。
少なくともモキータ編はちゃんと終わらせますが、その後は皆さまの反応次第です。
書くのが遅くてごめんなさい。
レジーナ・リジーの事を知りたい人はネットで検索してください。決して筆者が持っているDVDではありません……あ、カアチャン!そのDVD割らないで!




