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NDK黙示録  作者: つくも拓
第1章 モキータ編
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我等今宵 王を戴く(5)

涙を浮かべたドリーをケインはそっと抱き寄せた。顔色から何も知らない事がバレない為である。

抱き締めたドリーからいい匂いがする。ドリーは女性として成熟しており夢見る乙女全開、フェロモン絶賛大放出中だった。

「忘れちゃいないさ」

「でも!」

「あれを闘いと言うから戸惑っただけだ。本当の闘いと言うものを今夜見せてあげよう」

「キング様……」

「その勝利の後、私は君をこの手に抱こう」

「! 本当ですか?」

「ああ」

「嬉しい……」

ドリーはキングにそっと口づけをした。

「キング様。私はもうあなただけのものです。あなたの虜となりました」

そう言うと、顔を上気させたドリーは小走りで署内に向かった。

「彼女、あんなに魅力的だったか?」

「何かしちゃた罪悪感」も忘れ、ケインはドリーの残り香に酔っていた。


署長室に戻ったケインはメールチェックをすると、マクマホン市長からメールが届いていた。

……君には失望した。一体何をしておるのかね?

……来月の異動でその席を空けてもらう事になるだろう

……後任者の為、身辺整理をしておきたまえ

「どういう事だ?」

慌ててケインは市長のホットラインで連絡を取ろうとした。しかし返ってきたのは市長秘書の冷淡な反応だった。

「URLを送ります。それを見て、何が言えるのかご判断ください」

そのURLでヨツベエを見たケインは、ようやく昨夜の全容を知る事になった。

獣人達と一緒に仲良く大騒ぎしている自分の痴態を見てケインは悟る。もうマクマホン市長の後援は得られないと。

そして腹を括る、マクマホン市長と袂を別つ時が来たのだと。マクマホンと違い、獣人にそれほど嫌悪感を抱いていない自分はいつか袂を別つだろうと思っていた。その時が少し早まっただけなのだと。

「それも悪くないか……」

ドリーとああなった(と思い込んでいる)今となっては、堂々と彼女と付き合う事が出来るようになったんだと。

気を落ち着かせる為、ケインは休憩室に向かった。休憩室に入ったケインは、中にいた署員達に質問責めにあった。

「署長、昨日は凄かったです!」

「あのキスの相手とどこまでいったんですか?」

「あれ、誰です?」

「今日もやるんですってね!」

「!!! ななな、なんの事かね?」

「もう、惚けちゃって!」

「ヨツベエで見ましたよ」

「参加宣言してたじゃないですか」

(わ、忘れてた。ワシ、昨日のアレをまたやらないといけないのか?いっそ無視するか?)

「あれだけ堂々と言っておいて出なかったら逃げ出したと思われますよ〜」

普段は挨拶しかしない若手署員まで声をかけてくる。

「逃げる? 誰に言っているのかね?」

「じゃ……」

「漢に二言はない。逃げるなんて選択肢は私にはありえないんだよ」

「「「さすが!!!」」」

「「「それでこそ我等のボス!」」」

「「「一生ついて行きます」」」

(やっちゃったよ……どうしよう、ワシ。……腹括って出るしかないのか?)

内心とは裏腹に、顔は笑顔を保っているのはさすがである。

(しかし、昨日はなんであんなにテンションが上がったんだろう?)

メリーのせいである。

(しかし、あの高揚感はハンパなかったなぁ。勝ったあと、酒を煽ってポーズを決める……私にだけ向けられる賞賛の嵐……)

徐々に記憶が戻るに連れ、興奮も甦えってくる。

それが酒とメリーのシンクロによるものとは思いもよらない。いや、もうそんな事はどうでもよくなっている。ケインはもう一度あの興奮を味わいたいと思っていた。

(よし!)

ケインは覚悟を決めた。

「誰か、協力してくれないか?」

「「なんですか、署長」」

「やるからには完膚無きまで勝ちたい。わかるな?」

そこにいる全員が拳を固める。

ケインは満足そうに頷いて呼びかけた。

「ついて来い」

「「「応!」」」

「特訓だ!」

休憩室を出ようとした署長をはじめとする署員達の前に、様子を見ていた女性職員ケイ・オプティコムが立ち塞がる。

「ケインくん……」

「……ハイ……」

「お仕事しなさい。ね?」

「…ハイ…」「ごめんなさい」

口調は優しいが、最後の「ね?」を言った時の目が全員に有無を言わせなかった。


リュー・カミーオの下で『UTAGE』の準備が着々と進んでいる。トシとタカはプロのスタッフに混じり、初めから運営に携わっていた。二人は『UTAGE』のMCを任されていた。

プロの中にど素人二人。違和感がハンパない。

それでも二人がここにいるのはリュー・カミーオの強い要望があったからだ。

リュー曰く、テーマは『闘いと融和』。

「正直アンさん達をMCにするのは不安がある。

せやけどタカはん、昨日言うてはりましたな。正々堂々闘った後は握手してノーサイド。

ええ言葉でんなぁ。

言い古された言葉でっけど、ワテも心底そうありたいと思ってまんねん。

それを昨夜は実現してくれはりました。しかもハタから見ていてオモロい。まさにワテの理想ですわ。

その理想を実現してくれはりましたお二人に賭けてみとうなりましてん」

「そんな博打みたいな」

「何言うてまんねん。全く新しいイベントって、一種の博打でっせ?」

色々言い包めているが、本当の事情は失敗した時のトカゲの尻尾である。

そんなスタッフの思惑に反し、トシから出るアイデアはこの世界では斬新であったのだ。そしてトシと馬が合うのか、タカのツッコミが的を射ていて洗練されていく。

舞台のセッティングも順調に進んでおり、リューは今夜の『UTAGE』に確かな手応えを感じていた。

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