表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
NDK黙示録  作者: つくも拓
第2章 トナン編
67/72

彷徨える吟遊詩人(10)

あさっての方に転がって行く事態に対処できず、ロドリゴは憤慨していた。ここ数日でグラスに注ぐ酒が日に日に強い物になっている。


教皇ロムレス一世猊下の密命を受けマーカス教団に潜入して早8年になる。順当に教団内ここでの地位も向上し、相当な発言権も得た。後は私の誘導でレーム・オルト教の教義に沿った大説法会を行い、教祖のファルークは日を置かずして殉教してもらう。後継のいないマーカス教団は私の指導の下でレーム・オルト教に組み込まれる……はずだったのに……


このトナンに来てから、ロドリゴの計画はうまく捗らなくなっている。

大説法会の方針からして思い通りに進まないのだ。通常はこれだけの規模の組織であれば、威厳を示すために荘厳さを演出する事に反対する者はいないのだが、教祖のファルークが頑として首を縦に振らない。そして古参の教徒達はファルークに絶対服従の姿勢を見せている。

ファルークの一人娘、アメリアが厄介者トラブルメーカーなのはありがたいが、教団と無関係なところで人気が出てしまい、下手に排除すると教団その物の評判に関わる。

そうかと思えばアメリアの婿候補が現れた。後継者が現れると乗っ取りが……

教団に目を向けると、変に影響力のある女が現れ風紀は乱れるわ、貞操の危機に晒されるわ……

ファルークと並んで教団内で信仰を集める教母テリーナトナンに着くなりアメリアと親子喧嘩を始めて街を破壊して回るわ……

とにかくトラブル続きで、苦労して築き上げた教団だん評判ねんもく)急降下まるつぶれ……


やめてよね

そんな事を考えていると、ファルークが失踪。

何が「探さないでください」だよ。大説法会どうするんだよ。どうせ失踪してくれるなら大説法会の後にしてくれよ。暗殺の手間が省けるからさ

……なんて思っていると、どこからか現れたハゲが教母テリーナを叱りつけて顎で使っている。誰なんだよ、あのハゲは。なんで教団に無関係のヤツが教団を牛耳るの?しかも古参のノワール達がそれを当然のように受け入れているし。

乗っ取り諦めて、さっさと実力行使に方針を転換するかな?

そう言えば、ノワールやブランってドラゴンだったのか。レーム・オルトの管理下にいない野良のドラゴンがいるなんて知らなかった……

何頭くらい居るんだろう? レーム・オルトには契約竜が二十頭いるから問題ないと思うけど……それに、アイツらテリーナに吹っ飛ばされてたし。そんなに強くないのかも……野良だしなあ………


レーム・オルト教はダルジア教をベースにした一神教である。ダルジア教は自然環境の過酷なダルジア地方で発生した排他的な宗教であったが、神祖イルミナが教義の抜本改革を行い発展。初代の教皇に就任する事になるジェリコが本拠地をレームに定めた事からレーム教と呼ばれるようになった。

それが、第二十代教皇エイブラム四世が暗殺されると次期教皇候補であったオルト枢機卿とパオラ枢機卿が衝突。レーム教は大分裂し、オルト枢機卿派がそのまま教都レームを占拠しレーム・オルト教として、袂を分かったパオラ枢機卿派は北に向かいラウルを拠点としてラウル・パオラ教として教団を立ち上げた。

両教団は互いに自派が正統として譲らず、激突しあいながら版図を拡げあっている。

版図の拡げ方は大きく分けて三つである。

一番目は地道な布教活動により教徒を獲得する。この方法だと一気に大量の信者は獲得できず、競争相手に先を越されかねない。

二番目は軍事力で制圧し、国教に定めて強制改宗させる。この方法は禍根を残し易く、反政府組織との終わり無きモグラ叩きを起こし易い。

三番目は元々ある宗教団体を乗っ取る。数年掛けて教義を換骨奪胎してレーム・オルト教の教義に近い物に変えて行き、教団の上位にいる者達を傀儡にするか地位を簒奪する。それなりの規模の宗教団体ならば一気に信者を獲得できる。疑問を持つ者には「破門」をチラつかせて脅し、それでも離反する者には「異端」の烙印を押せば、後は嘗ての仲間達が勝手に始末をつけてくれる。

レーム・オルト教は乗っ取りのための人材「郭公」を各地の目ぼしい宗教団体に潜り込ませていた。


ロドリゴはマーカス教団に送り込まれた郭公の一人であり、最も頭角を表した事から「親郭公チェアマン」と目されている。親郭公には乗っ取りが成功した暁に大司祭の椅子が約束されている。

レームにある教会本部でも次期の大司祭候補であったロドリゴからすると、マーカス教団の運営はザルであった。どうしてこれで教団を運営できていたのか甚だ疑問に思う。しかし運営はザルでも教団幹部の人心掌握カリスマは強大で、物理的な圧すら感じる。教皇の前でも平常心を保てたロドリゴをしても慄えが起きるのだ。教祖のファルーク、教母テリーナをはじめダンジョーやノワール、ブランを前にすると捕食者プレデターの前に出た獲物の気分になるのであった。

やっと契機が訪れ、郭公の大役から解放されると思っていたのに、教祖夫婦の娘・アメリアが現れてからはおかしな事が立て続けに起きている。

ロドリゴの頓挫は他の郭公達にとってはチャンスになる。ここまで抉れてしまうと他の郭公達の協力は仰げそうにもなかった。


このままでは……


ロドリゴは自分ならどうするかを想像してみると、結論は一つ。


次の朝、マーカス教団からロドリゴの姿は消えた。



更新が遅くてすみません。

初めての作品なので、色々と試してます。

現在省けるところをどこまでなら省く事ができるか?

推敲を重ね次話を構成中です。

年内にもう一話くらい投稿予定ですので、よろしければ感想をお聞かせください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ