彷徨える吟遊詩人(9)
マーカス教団の一室。ノックを中心に重苦しい面持ちのテリーナ、グレーテル、ベガ。何が何やら訳が分からないタカ、ルフィン、メリー。どう言う顔をしていいのか分からないトシ。揶揄われていると思い不機嫌なマユ。何で呼ばれたか分からないが、ノックに会えて喜んでいる三富組のルケスとカーク。
「すまんな、皆んな。
今日集まって貰うたんは訳がある。洒落にならん事が起きてもうてな。皆んなに協力してほしいんや。
それと、これから話す事は荒唐無稽やが全部ホンマの事や。真面目に聞いて欲しいんや。当然他言無用やで」
「何ですのん、師匠。改まって」
「マユちゃん、あんたに特に聞いて欲しいんや。ここはあんたらの故郷、オオサカっちゅうところやない。別の世界や」
「ノックさん、何言うてますのん。ラノベやあるまいし、そんなアホな話」
「そこにおるトシの相方のタカ見てみ。それ、作り物やないで。本モンなんや。タカは獣人なんや。こういう種族なんや」
「え〜? よくできた特殊メイクかコスプレでしょ?」
マユは一向に信じようとしない。
「…そこにおるルフィンはグリフィンなんや。ルフィン、一部でエエからグリフィン形態に戻してんか」
ルフィンは顔をグリフィンに戻した。
「うわー、スゴっ! イリュージョン? どうやったん? タネは? 仕掛けは?」
やっぱりマユは信じない。
ノックは徒労を感じ始めた。しかしマユの協力がないとゲートの在処が分からない。
これでダメならどうしよう…ダメ元で説得を試みる。
「……そこにおるトシのコレのメリーは」
「えええええ!! 兄ちゃんに彼女!?」
メリーの角の事を言おうとしたが、その前にマユの驚きの声に遮られる。
「もしかしてホンマにここって異世界なん!!?」
「ちょう待てーー!! 獣人よりも幻獣よりも、俺に彼女がおる方が不思議なんか---!!!」
「うん!!」
思いっきり力強く肯定するマユ。
「…でも何であんなべっぴんさんが……どんな弱み握ったんや………いや、兄ちゃんヘタレやし、そんな度胸ないか。ならなんで……」
心の声がダダ漏れである。
「兄ちゃん!」
「なんや」
「どうやって騙した?」
「なんで騙した事が前提やねん!!」
コイツら兄妹と喋るの…マジメな話の時はホンマに疲れる。せやけど放置すると話が進まん。
ノックは一息つくと間に入った。
「トシ、漫才は後にしてんか。
なんや知らんけど、マユちゃんここがあんたらの故郷やないと納得してくれたんか?」
マユは頷いた。ノックは安堵する。
「でな、あんたがどうやってここに来たかが問題なんや。あんた、どこぞのドアを開けたらここに来た言うたな?」
「ええ」
これにはベガが食いついた。
「!! ノックさん、それって」
「そうや。間違いのうゲートや」
テリーナ、グレーテル、ベガの顔色が変わる。
「発動したんですか! 一大事じゃないですか!」
「そやから皆んなを集めたんや。幸運にも同じような大気組成の惑星の、しかも地上に繋がっとるんで大惨事は免れたがな」
「ノックさん。ゲートとは?」
怪訝な面持ちのルケスが訊いてくる。
「空間と空間を繋ぐ門や。これが海底とかマグマに繋がってたら大惨事になっとった」
「でも、なんでノックさんはそんな物の事を知っておられるんですか?」
ノックは少し逡巡した後、口を開く。言わない訳にはいかないと判断し、肚を決めた。
「ワシらは、まあ平たく言うと天界の者なんや。
トシ、おまえは少し分かるやろ?
天界の者はいろんな役目があってな、おまえをこの地に拉致して来たんはそういうお役目のヤツらや。
ワシやベガはお役目があってこの惑星に顕現させられた。まあ、ワシのお役目は終わったけどな。それ以上は話す訳にいかんよってな。スマンが詮索はここまでにしとってくれ。
で、ゲートは天界の希少道具の一つでな。望む空間と空間を繋ぐ事ができるんや。
どっかのアホがそれを設置しようとしたところをどっかのスカタンがぶっ壊しよっったんや」
どっかのアホとどっかのスカタンが顔を背ける。
「放っといたら一大事になるさかいに慌てて回収しとったんや。なんとか大半は回収できたんやが、扉一枚ほどどこに行ったかわからんかったんや。
それがマユちゃんのおかげで所在が分かった。
さっき言うたように、変な所と繋がらんかったんはホンマ幸いやったけど、このまま放置する訳にはいかん。
既に繋がってるさかい、直ぐに回収はできんけどワシらの管理下に置かんと大変な事になる。
皆んな、スマンが回収に協力してんか」
「ちょっと待ってください、ノック師匠。いきなりそんな事を言われても俄かには信じられませんよ」
「この際信じられんでもええ。とりあえずゲートの確保だけでも協力して貰えんか?
ワシの一生一度の頼みや。これこの通り」
ノックは全員を前に土下座する。
「そ、そんな。ノック師匠がそこまでしなくても」
「ワシの皺首で良ければナンボでも下げるで。皆んな、頼む!」
「ノック師匠…」
「頼む!!」
ノックの真剣な態度に、ルケスとカークは折れた。
「……師匠…我々は何をすればいいんですか?」
「すまん。恩に着るで。
ルケスはん、あんたは三富組のモンを連れてゲートに行ってほしいんや。誰も近づけんようにな。教団のモンも何人か連れて行って使うたって。
ベガ。おまえはゲートの状態を確認して、外せたら確保や。
おハナ…やなかったテリーナ、おまえは外せんかったら周り壊して外せるようにせえ。
マユちゃん、あんたは案内役を頼むで。
ルフィン、おまえは案内役兼マユちゃんの足や。疲れてるやろうから乗せて行ったってくれ。
他のモンはここで待機や。疲れをとるんと前後策の協議や。頼んないメンツやけど事情を少しでも知っとるんはおまえらしかおらんしな、頼んないけど」
「師匠、頼んないって2回言うてますよ」
「大事な事やから2回言うたんや」
少し短いけど、区切りがいいので今回はこの辺で。




