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NDK黙示録  作者: つくも拓
第2章 トナン編
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彷徨える吟遊詩人(5)

走れ テリーナ

テリーナは激怒した。必ず無知蒙昧なメリーを懲らしめねばならぬ。テリーナは人気の事など何も分からぬ。テリーナはただの母親なのである。

「このバカチンがーーー!!

貴様きさン、なんばしよっとかぁーーー!!!」

「お母ちゃん、落ち着いてーーー!! 話を聴いて、お願いーーー!!」

「せからしかーー!! 旦那ば捕まえて来い言うとっとに嫁ばぎょうさんこさえよって!!!」

「誤解よーーー!」

逃げるメリー、追うテリーナ。教団員には見慣れた光景だがメリーは必死だった。テリーナがハカ訛り丸出しだったからである。それは理性を完全に喪っている事を意味していると知っているからだ。

メリーはひたすら街を走る。メリーの走った後はテリーナと言う名の嵐が吹き荒れる。人化を解き成龍体型になったノワールやブランすら片時の足止めにもならず宙を舞う。破壊音が街に響き渡る。二人の疾走は父親のファルークが取り押さえるまで小一時間続いた。


マーカス教団トナン支部の一室にトシは呼びつけられていた。部屋にいるのはメリーとメリーの両親のファルーク、テリーナ夫妻。関係者としてノワール、三富組のルケス。なぜかルフィン。

テリーナの怒りは鎮まっておらず圧が凄い。

「アメリア、さあ説明してもらいましょうか」

「お母ちゃん、アレはこのまえった舞台のファンなの! 決してアタシの嫁じゃないから」


大説法会のためトナンに訪れたテリーナは街に着くなりアメリアファンの女性たちに揉みくちゃにされたのである。

黄色い嬌声を上げる女性、女性、女性……パニックで思考が停止した。

「え!? 胸がある!!」

「「「ウソっ!!!」」」

「あたし達のアメリア様にはそんな物なんて付いてないわ!!」

「何よ、紛らわしい!!」

そう言うと女性達はテリーナから離れ出す。

その時誰かが劇場から出て来たメリーを見つけた。

「あ、アメリア様よ----!!!」

「「「抱いて----!!!」」」

抱いて?

テリーナはプッツンした。

「アメリア--!! このバカチンが---!!」

かくしてメリーとテリーナの追いかけっこの火蓋が切って落とされたのであった。


メリーは教団に蔓延しつつあった同性愛を糾し綱紀粛正のためであったことを説明する。

「……と言う訳なの」

「だからって、何でよりによってトシに頼むのよ……」

「お母ちゃん! ノワールさんが相談したときトシに頼めって言ったのお母ちゃんじゃない!!」

「え⁇ そうだっけ?」

マジで覚えていないようである。

「真面目なヤツだと相手にならない。おかしなヤツには変なヤツをって」

「………テヘっ」

「お母ちゃん、それお父ちゃん以外には通用しないから」

「あなた〜、アメリアが虐める〜〜」

テリーナがファルークの胸に顔をうずめた時、思わぬところから爆弾が投下された。

「…でもさ、トシって本当にメリーの事が好きなんだね」

「「「えええええ???」」」

「何言ってんだ、ルフィン?」

「だってさ、トシはあのタカラヅカって舞台、知ってたんだよね」

「それは、まあ…」

「じゃあ、ファンの事も知ってたんじゃ?」

「まあ……」

「メリーには女性ファンが群がるよね」

「……うん」

「男性は近寄れないよね」

「え…と」

「メリーの近くにいる男性って舞台関係者だけだよね」

「それは…そうなるかな」

「関係者で独身って、トシだけじゃん」

「あ…」

「トシの好みってお尻から脚のラインじゃん。男の物も好きだし胸にはあんまりこだわりないじゃん」

「だ、だからってだな」

「無意識のうちにライバルを排除してたんだよ」

ルフィンとトシのやりとりが重なるに従いテリーナとメリーの顔が紅くなっていき、ファルークとトシの顔は蒼くなっていく。ノワールは生暖かい笑みを浮かべ、ルケスは訝しげにルフィンを見ている。

「そうだったの、トシ!!」

「ち、違う! 違うんだ、テリーナさん!!」

「トシ、ちゃんと自分を見直そう? 認めちゃいなよ」

「ルフィン、テメエ!!」

「甘いわぁ。甘酸っぱいわぁ……。お父ちゃんと恋に落ちた時の事を思い出すわぁ……」

テリーナは夢見る少女の顔になっている。

「お、お母ちゃん?」

「いつも隣にいた人がいきなり特別な人がに変わる。認めたくない、もどかしい。でも誰にも渡したくない……」

「あんた何とか言いなさいよ、トシ!……トシ?」

気付くとトシはこっそり逃げ出そうとしていた。

「待ちなさい!! 

ノワール、トシを捕まえるわよ! この機を逃したら孫の顔なんて見られないわ!!」

駆け出すトシをテリーナとノワールが追う。

メリーも顔を紅くしたまま部屋を出て行った。

ファルークはと言うと放心してブツブツ何か呟いている。

「おい、ルフィン」

「?」

「どういう魂胆だ?」

「魂胆って……」

「私の目をごまかせると思ったのか?」

「白状します!

実は、メリーにお婿さんを見つけられたらテリーナさんから賞金が出るんです!」

ルケスは『続けろ』とばかりに顎をしゃくる。

「あと、ノック師匠から『トシの首に鈴を付けろ』って。成功したら飲み屋のツケの件、許して貰えるんです」

「なるほど。二人を引っ付ければ一石二鳥だと」

ルフィンは頷く。

「もちろん友達として幸せになって欲しい気持ちもあるんですよ。あの二人はお似合いだと思いますし」

「どういう風に?」

「割れ鍋に綴じ蓋」


翌日「探さないでください」と書かれた便箋を残し、ファルークが家出していた。

『娘はやらん!!』です

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