我等今宵 王を戴く(4)
前話のトシ側視点です。
しかし、書き直す度にくすぐりが増えるなぁ
時を少し遡る。
トラ箱を追い出されたトシ達は昨夜の興奮が冷めやらぬまま、警察署の前の広場で屯していた。
「昨夜は楽しかったな」
「またやりたいなぁ」
「ねぇ、昨日の騒ぎ、凄い事になってるよ」
「「「?」」」
「じつはさ、昨日のアレ、動画に撮って『ヨツベエ』に上げといたんだ。
そしたら、再生回数こんなになってるの」
「うわっ、これマジ?」
「街の十人に一人は見てるんじゃないか?」
「でね、あたしのバイト先の偉いさんがみんなに話があるって。もうすぐここに来るそうよ」
「メリー、おまえのバイト先って?」
「この『ヨツベエ』を運営しているトコ」
「マジ?」
「って言っても、そこが開催するコンサートなんかのイベントの盛り上げ役だけどね」
「あ、シンクロで」
「そ、あたしだけだとあの店くらいしかカバー出来ないんだけど、ブーストの子と組むと5倍くらいいけるからね」
そこに痩せた白髪頭で赤いフレームの眼鏡をかけた男が現れた。
「皆さん、お初お目にかかります。
ワシはイベントプロデューサーをしておりますリュー・カミーオと申します。
あ、メリーちゃん!おもろい動画、ありがと!
アレ、めっちゃ良かったで」
「でしょ?」
メリーはドヤ顔で答える。
「んでな、朝からエライことになっとるんや。
どこでやっとるんや〜、ワシも参加させ〜、次いつや〜って問い合わせがめっちゃきとるねん」
(なぜみんなそんなに脱ぎたがる?)
「イベント屋としてのワシの勘が言っとります。
『いける!』と。せやけど、間を置いたらアカン。早いうちに畳み掛けて定着させなあかんのですわ。
せやから、早いうちに次をやりたいんですわ、できたら今夜にでも!」
「そうは言っても、今夜はミカイの夜だからなぁ」
「え!…しもたっ、せやった。忘れとった」
「ミカイの夜じゃ、獣人の参加は厳しいかも」
「そうなったら今一盛り上がりにかけるわなぁ」
リューのテンションがいきなり下がった。
しかしここに一人、テンションが下がる理由が分からない男がいる。言うまでもなくトシである。
「なぁ、ミカイってなんだ?」
「? なんだ、トシ。ミカイを知らないのか?」
ミカイとは、月蝕の事のようだ。
この世界には月が三つあるため3カ月に一度の月蝕がある。この夜を『ミカイの夜』と呼ぶ。
大抵は2つの月のものだが、4年に一度、3つの月が重なる夜がある。この夜を特に『大のミカイの夜』と呼ぶらしい。
どの種族もある程度バイオリズムを月に左右されるが、獣人はその傾向が強く、ミカイの夜は理性を失い易いと言われている。
その為、獣人はミカイの夜は薬を飲んで眠るか外から鍵のかかる収監施設で夜を過ごす習慣がある。
「まあ俺達獣人も、好きこのんで他人を傷つけたい訳じゃないからな」
周りの獣人達もウンウンと頷く。
「理性を失って他人を傷つけるんじゃ仕方ないか。しかし、一つ聞きたい事がある」
「なんだ、トシ」
「タカ、おまえら昨日の騒ぎ、アレで理性が残ってたのか?シラフでやってたんならその方が怖いわ」
いきなり沈黙がおりた。そして暫しの沈黙のあと、其処此処でポンと手を打つ音がした。
「「「……そうか、飲んで理性を失っておけばいいのか」」」
「「「なんでそこに気がつかなかったんだ!」」」
「「「盲点だった……」」」
トビーがトシの肩を掴んだ。
「トシ、おまえの言う通りだ。俺達は愚かだった。目からウロコが落ちたよ」
(コイツら、単に飲んで騒ぎたいだけなんじゃ?)
トシはそう思ったが、周りはすでにやる気満々になっている。
「おい、みんな。やるか!」
「「「おうとも!!!」」」
広場に歓声が上がる。
「よっしゃ、ワシもこれはと思うヤツに参加を呼びかけますわ!」
「そうなると、やっぱキングにも参加してもらいたいわよね」
「キング?」
「ほら、最後にパオーンしたあの人。キスされた女の人、そう呼んでたじゃない?」
「そう言えば…」
「昨日あんな啖呵切ったんだよ?絶対出るって」
「そう言や、キングはどこだ?」
みんなで周りを見渡すが、キングと呼ばれる男の姿は見当たらなかった。
「……そう言えば、俺、誰かが別室に連れて行かれるの見た気がする……」
「……俺も見た気がする。確かあの人、服を着てなかった気が……」
「「「!!!???」」」
「まさかキングは、俺達の代表として責任取らされているんじゃ?」
「「「!!!」」」
「ばかな!」
「なぜキングが!!!」
「みんな、あの漢の中の漢を見捨てていいのか?」
「「「良い訳ないだろ!!!」」」
「警察署に向かうぞ!」
こうして昨夜の酔っ払い集団は暴徒と化し、警察署を取り囲んだ。
「「「キングを返せ!」」」
「「「署長、出てこい!」」」
そんな暴徒と化した酔っ払い集団の前に一人の男が現れた。
「何事かね、諸君。静かにしたまえ」
現れた男を見て暴徒達に驚きが広がった。そこにいるのはキングだった。
信じられない思いでトビーは確認した。
「あ、あんたが署長なのか?」
トビーとキングのやり取りの中、メリーがトシとタカの袖を引っ張った。
「なんだよ、メリー」
「あそこ見て、署の入り口。あれ、昨日の女性じゃない?」
「本当だ、彼女だ」
「もう少し前に出るの手伝って」
「なんで?」
「二人の会話、聞きたいと思わない?」
「止めろよ、そんなの。プライバシーの侵害だぞ」
「あたしのシンクロでバレずに聴けるんだけど」
「……バレない?」
メリーは首を縦に振る。
「よし、こっそりとな」
「じゃ、シンクロしとくね。あと少し…っと」
……あたし、初めてだったのに。
……強引に、あんなに情熱的に奪ったのに
「お、オトナの会話だ……」
興奮した三人は一言も聞き逃すまいと聞き耳をたてる。
……忘れちゃいないさ
……でも
……あれを闘いと言うから戸惑っただけだ。本当の闘いと言うものを今夜見せてあげよう
……キング様
……その勝利の後、私は君をこの手に抱こう
……本当ですか?
……ああ
……嬉しい
ドリーはキングに口づけをした。
……キング様。私はもうあなただけのものです。あなたの虜となりました
そう言うと、ドリーは小走りで署内に向かった。
「聞いた?」
「聞いた」
「オトナの会話だったわね」
「思わずドキドキだったな」
「なぁなぁ、これ使えないか?」
「サプライズ・ゲストだな?」
トシはサムズアップで応える。
「タカ、お主も悪よのう…」
「なんの、トシ様ほどでは……」
グフフと腹黒い笑いを浮かべ、三人はリューと打ち合わせに向かった。




