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NDK黙示録  作者: つくも拓
第2章 トナン編
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彷徨える吟遊詩人(1)

目の前で打ち砕かれ、灰塵と化していく愛する者達の姿にルフィンは慟哭した。

止め処なく流れる涙は血涙へと姿を変え、力無い歩みは愛する者達を奪った輩に無情に遮られる。

ルフィンに許された事は愛する者達の名を口にする事だけだった。

「ヒルダ先生……アーシア………トモエ先輩……

レインボーパレスのみんな……

ボクの、ボクのせいで…

すまない! すまないイイイイイ!!!」


所用があり三富組を訪れたメリーは泣き崩れるルフィンを見てトシに尋ねた。

「ねえ、トシ。ルフィンは何してるの?」

「ああ、メリーか。あれは愛する者を喪い嘆き悲しんでいるところだよ。そっとしてやってくれ」

「愛する者を喪う? なになに? 穏やかじゃないわね。一体何があったのかもう少し詳しく教えてよ。ヒルダ先生って誰よ?」

「『放課後特別教室 先生が教えてあ・げ・る』の女教師だ。メガネとタイトスカートが似合う…」

「??? じゃあアーシアって?」

「『お兄ちゃん、アタシを優しく大人にしてね』に出てくる歳下の幼なじみだ」

「トモエ先輩は? レインボーパレスのみんなってのは?」

「トモエ先輩は『放課後有閑倶楽部』のツンデレ美人、レインボーパレスは『昼下がりのマンションは淫魔殿 部屋に入ったら鍵を閉めてね』の舞台だよ。

ルフィンの一押しは三階のエビータさんだ」

「トシ、もしかしてそれって」

「ルフィンのお宝のエロ本とエロビデオ」

「………アンタ、詳しいわね」

「俺もお世話になったからな。因みに、俺のオキニは五階のモーラさんだ」

よく見ると、トシの頬にも涙の跡が残っている。

「…みんな、待ってて。ボクもそっちに行くよ」

そう不穏な事を呟くルフィンに、トシは懐から出した一枚のディスクを見せた。

「?……!!」

「これを観ずに死ねるのか、ルフィン」

「こ、これは……レジーナ・リジーの?」

「女看守シリーズ最新作だ」

ルフィンの顔にみるみる生気が蘇る。

ディスクを差し出すトシ。

手を伸ばすルフィン。

しかしそのディスクはルフィンの手に渡る前に遮られ、粉砕された。

「誰だ!!」

そこには見知らぬ女性が立っていた。

「なんて事を!!!」

「ボクの彼女を返せ!!!」

トシは『お前の彼女じゃないだろう』と心でツッコミを入れる。

しかしその女性はルフィンの剣幕を物ともしない。

「一時の快楽に身を委ねていてはいけません。

さあ、あなたも真実の愛に目覚めるのです!」


「……出た……」

メリーは吐き捨てる様に呟いた。

「メリー、知ってる人か?」

メリーは肯いた。

「実は彼女の事でアンタを頼りに来たのよ、トシ」

「俺を?」

メリーは肯くと、経緯いきさつを話し始めた。

彼女の名はグレーテル・レパーサ。最近マーカス教団に入信してきた、いや押し掛けてきた信者らしい。

「真実の愛に目覚める」

マーカス教団の謳い文句である。グレーテルは常々そう口にしている。その意味では信者の鑑と言える。

しかし彼女の言う「真実の愛」とはBLであった。

マーカス教団の唱える「真実の愛」には男女の区別はない。それはそれで問題の様な気がするのだが、まさに博愛主義なのである。

普段なら教団幹部が身体を張って誤りを正すのだが、現在いまはトナンで開催予定の大説法会の準備で忙しく、新しく入信した一信者の対応あいてをしていられないのだそうだ。

「真実の愛とは気高い男同士の間にこそ存在するのです。私はその尊い姿を世界に遍く広める事と天命を受けたのです」

困った事にグレーテルの影響せんのう力は強力で、信者の中にも既に幾ばくかの同調者が現れ始めている。

おかしくなりつつある教団の風紀に漠然とした危機感を感じたノワールは対策チームを設置した。

「で、なんで俺なんだ?」

「ノワールさんがお母ちゃんに相談したら、アンタに頼れって」

「テリーナさんが?」

「お母ちゃん曰く、トシは変な文化をいろいろ知ってるみたいだからなんとかしてくれるんじゃないかって」

「変な?」

「おかしなヤツには変なヤツで。真面目な人では相手にならないって言ってたって」

「メリー、それ人に物を頼む態度か?」

「ごめん。

でもね、アンタに頼む理由って他に何か思いつく?」

「………

それはまあその通りだけど、他に何か言い方はないの?」

「だから ごめんて。でもアタシも必死なんだ」

「?」

「アンタでダメならケイさんをよこすってお母ちゃんが言い出したから」

「え!」

DNA (たましい)に刻み込まれた恐怖が甦る。

「それでいい?」

恐る恐ると言った感じでメリーはトシに訊いてくる。トシは慌てて被りを振った。

「じゃあ、お願い!

アタシもできる事は強力するから」

「ルケスさんにも話しをしておいてくれよ。三富組の仕事が疎かになるから」


トシは覚悟を決め、ルフィンを追い詰めているグレーテルの方へ向かった。

遅くてすみません。

次話は水曜までに投稿予定です。

グレーテル・レパーサはモキータ編第4話に出てきた上位階梯世界の、あの腐女子くさった司政官です。

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