(閑話)そして巡り合う二人
聖トナン幼稚園の正門に停まった車から一組の男女が降りてきた。
「すみません、マーカス教団から参りました者です。こちらに…」
「あれ、メリー?」
「え、ルフィン? なんでアンタがここに?」
「三富組にお世話になっているんだよ」
「アンタみたいな根性なしが?」
「ケイ姐さんの実家なんだって」
騙されたんだ…そう察するメリーであった。
「トシもいるよ。ほら、あそこ」
ルフィンが指し示す先には人相の悪い男達と話し合っているトシがいた。
「ノワールさん、後は任せて帰っていい?」
「運命と諦めましょうね、お嬢様。
お〜〜い、トシさ〜〜ん!」
「あれ、ノワールさんじゃないですか。
げッ、メリー!?」
「げッて何よ、げッて!」
「いや、つい。
マーカス教団からのお迎えって、お二人の事だったんですか」
「ええ。どうも我々はご縁があるようですね」
そう言ってノワールはニッコリと微笑む。
それとは対照的に顔を覆うメリーとトシ。
そんなトシの後頭部をルケスは軽く叩く。
「トシ、ぼうッとしてないで紹介しないか。
どうも、お初お目にかかります。
私こちらで三富の代表をしておりますルケスと申します。どうぞお見知りおきを」
「こちらこそ宜しくお願いします。
拙僧はマーカス教団の教戒僧をしておりますノワールと申します。
こちらは教祖ファルーク様の御息女のアメリア様です。どうぞお見知りおきをお願いします」
「本日はあちらにいる幼竜のプロムを迎えに来られたと伺っておりますが、間違いございませんか」
「その通りでございます……あ、私も人化しておりますが、竜ですのでご安心を」
「左様ですか。ではお任せします」
ルケスはそう言うと一礼する。
「それはそうと、コイツらをご存知なんで?」
「トシとメリーは良い仲だったんだよ〜」
「「「おッ、そうなのか、トシ」」」
野次馬根性丸出しで三富組員がわらわらと寄って来た。
「ルフィン! てめえ!!」
「照れるんじゃねえよ、トシ」
「しかしおまえ、こんな趣味だったんだ」
「こんな?」
「幼児体形の事だよ」
「間違ってもお嬢に手を出すなよ」
「出しませんよ!」
気心も知れた所為か、三富組員達は口々にトシを揶揄い出した。しかし、リンの声に場の空気が凍りつく。
「…そう言えば、最近アイツのあたしを見る目が怪しいんです…」
「「「……トシ…?」」」
トシは慌てて首を振る。
「こないだ、人目がない事を確かめるとあたしの口を塞ぎ、こう言いました。
『誰にも言っちゃいけないよ』
そう言うとアイツはあたしの胸を……
あたしはそんなアイツの目が怖くてされるがままに……」
「「「トシーーー!! テメエ!!!」」」
「こんな小さい子に何してんのよ!!!」
「ご、誤解だーー! 俺は何もしてな……
って、リン? 何を読んでるの、それ」
「ん? ルフィンが翼の中に隠してる絵本。いっぱいあるよ」
「あ、ボクのお宝!」
「リンは本を読むの、上手?」
トシは慌ててその本を取り上げルフィンに叩きつけた。
「なんて物読ませてんだ!!」
「「「馬鹿野郎! 子供の手の届く所にこんな本置いとくんじゃない!!」」」
カークやマルコにボコられるルフィンを見ながらルケスはトシに改めて訊ねた。
「本当に手ェ出してないだろうな」
「…マジでやめてください…」
「あの…ルケスさん」
そこに声を掛けてきたのは幼稚園のヒルダ先生だった。
「あ、先生。このたびはとんだご迷惑を。お詫びはキッチリさせていただきますんで」
「あ、ありがとうございます。それより」
「? 何でしょうか」
「園児達の教育に悪いので……」
こうしてルフィンは幼稚園に出禁となった。
メリーが登場する意外は、ホントどうでもいい話でした。
次回から第二話 彷徨える吟遊詩人です。




