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NDK黙示録  作者: つくも拓
第2章 トナン編
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伝説の復活(4)

トシとルフィンがトナンに来て二週間が過ぎようとしていた。基本がお笑い体質で人当たりの良い二人にリンはすっかり懐いてしまっている。

また、お嬢様であっても子供は子供とし、大人の立場で接するというトシの姿勢をルケスが認めた事もあり、リンは二人に一目置くようになっている。まあ、アホばっかりやってルケスに叱られ捲っている二人を見て反面教師にもしているが。

「お嬢〜、幼稚園行くよ〜」

「ハ〜イ!」

元気よく返事をしてリンはグリフィン形態のルフィンに駆け登った。トシはそのリンの後ろに座り護衛として付き添い、送り迎えを行っている。

初めはルフィンに怯えていた幼稚園の職員も園児も、害が無いと分かると寄ってくるようになり今や人気者である。

ルフィンは護衛兼園児のオモチャとして幼稚園の先生に鼻の下を伸ばしながら居残り、トシは事務所に戻り道場で稽古である。と言っても教える側であった。

三富組に伝わるヤワラは当身中心で、投げ技は背負と腰車、巴投げ位しか無い。絞め技や極め技(関節技)はなかった。

トシは実は小学五年生から合気道を習わされており二段をとっている。(つまり、経験者としてはそんなに強くはないが素人には負けないレベルの腕である。)またスマホの選曲でも分かる通りプロレスファンで、中でも「関節の鬼」ことF組長のスタイルが好みで関節技サブミッションが大好きなのだ。

本気ガチで闘うとなると、ルケスを筆頭に五、六人には歯が立たないが、投げ技や絞め技、関節技の理論や練習方法を知っているため指導役になっている。

今日の被武の相手は、パワー・ナンバーワンのマルコである。胸ぐらを掴まれた状態から崩しを行い腕を回す。そのまま極める。

肘が完全に極まっているためマルコは悲鳴もあげられない。トシが緩めるとマルコは慌てて距離を取った。

「マルコ、何ふざけてんだ」

「そんな弱っちいヤツ相手に何やってんだ」

「舐められっぞ!」

口々にヤジが飛ぶが、マルコは青い顔で極められた方の腕を振っている。

「トシ、今のはなんだ」

「関節技のひとつです。完璧に極まると相手が子供でも外せません」

「トシ、ならハッサムに今の技を教えろ。カーク、お前が実験台になりな」

「いいですよ。まあ、ハッサム相手なら俺はすぐ逃れられますけどね」

「……こう持って…で、ここに手を当てて押すと。あ、掴んじゃダメ。掌で押すの。そうそう」


声にならない悲鳴を上げジタバタするカークを見ながらマルコはボソッと呟いた。

「あれ、痛くって声も出ないんだよな」

「マルコさんの言う通りで、ちゃんと極まると声なんか出ないんです。声をあげられるならちゃんと極まってないって証拠なんです」

解説するトシにルケスは呆れて声をかけた。

「あれ、いつまでやらせとくんだ?」


武術と言うのは非力な者が無体な暴力から身を護る技術である。

体格、パワー、スピード全てで劣るハッサムがカークを抑え込んだ有様を目の当たりにし、道場にいた三富組の組員の目の色が変わった。

「お前等、何で俺がコイツに習えって言ったか理解できたな」

「「「ヘイ」」」

「では、稽古 始め!!」


ひるに稽古が終わると、トシは三富プロダクション主催の興行の打ち合わせに入る。現在予定されているショーはトシにも縁があり、出演者との交渉から任されているため忙しない。

「おう、トシ。お前、今日はお出迎えだったな」

「ええ、カークさん。すみませんが…」

「お嬢のお迎えだろ? 任せとけ」

「ありがとうございます!!」

その時ルフィンから凶報が入った。

聖トナン幼稚園にゴロツキが押し入り、園児達を人質に立て篭もったと言うのだ。

トシがその事を伝え、緊張が走った事務所に電話が鳴った。

電話を取ったカークの顔色が朱に染まる。

「ルケスの兄貴、テンゼンからです。シラヌイの」

「スピーカーにしな」

ルケスの指示で電話の声が事務所に響く。

「よう、シラヌイの。何か用か。こちとら忙しくてな。後じゃダメかい」

「そう言うなよ、八つ目。もしかして、聖トナン幼稚園の件かな」

「…てめえ、まさか」

「話が早くて良いねえ」

「堅気の衆に手ェ出しやがって…この外道が」

「こちとらも後が無くってな」

「望みはなんだ」

「お前さんの首と例の利権」

「……」

「待ってるぜ」

そう言うと電話は切れた。

「誰か、権利書を持ってきなさい」

「「「兄貴!!」」」

「なんですか」

ルケスの言葉使いがどんどん丁寧な物になっていき、眉間の皺が深くなっていく。

「あ、トシさん。あなたは来たばかりですし、お客様のお相手を万全にしてくださいね。

他の皆さんは行きますよ」

トシは事務所の温度が数度下がるのを感じた。

そんなトシにカークが話し掛ける。

「トシ、安心して自分の仕事を片付けな。

なあに、こっちは大丈夫だ。何せルケスの兄貴が八つ目になっちまっているからな」

「八つ目?」

「兄貴の二つ名の由来だよ。

兄貴の眉間に皺が寄ってるだろう。アレ、目に見えないか?」

トシは肯く。

「兄貴の怒りの度合いが眉間の皺なのさ。一対増えると四つ目、二対で六つ目、最大で八つ目。

今兄貴は怒り心頭に達しているのさ。

しかも口調が丁寧になってるだろ。

ああなると止められる者は先代ごいんきょしかいねえんだ。

願わくば、園児達の心の傷が深くならない事を祈るしかねえ」

トシは生唾を飲み込んだ。

「トシ、ガキ共のために例のお客人を連れて来れないか?」

トシは頷いた。

そんなトシの肩を軽く叩いて、カークはルケスの後を追う。

伝説の幕が開こうとしていた。

次回、大立ち回り!?

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