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NDK黙示録  作者: つくも拓
第1章 モキータ編
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我等今宵 王を戴く(3)

エイドリアン・ボルドー、地域保全課勤務。二十八歳、獣人。通称ドリーは署長室に向かいながら、唇に手を当てて昨夜の事を思い出していた。

「キス…されちゃった」

思わず顔が火照る。

獣人らしいしなやかな肢体、整った目鼻立ち。顔にアクセントをつけようとかけている伊達メガネは意に反して知性を強調している。普通に考えてモテそうだが、彼女に言い寄る男性はいなかった。年齢イコール彼氏いない歴である彼女は未だ白馬の王子を夢見る乙女だった。

口さがない友人達は「妥協と書いて幸せと読めないと、彼氏できないよ」と言ってくる。大きなお世話だと思いながらも内心焦りがあるのを自覚している。

そんな彼女は昨夜生まれて初めて「いい女」と呼ばれ、ダメ押しでファーストキスまで奪われたのである。一夜明けた今もまだ頭の整理がついていなかった。

ファーストキスの相手がドアの向こうにいる。

「平常心、平常心よドリー…」

ドリーは持ってきた服を抱え、呼吸を整えた。

「署長、失礼します。お召し物をお持ち……!」

ソファーに座る署長の姿を見てドリーは持っていた衣服を取り落とした。


署長室で目覚めたケインは宿酔いで痛む頭を抱えソファーに腰掛けていた。

「私はなんで全裸なんだ?」

頭が働いておらず、昨夜の事がまだ思い出せない。ボーっとしていた。

「署長、失礼します。お召し物をお持ち…」

そう言って入室してきたドリーに顔を向けた。

「ああ、ご苦労様」

ドリーは衣服を取り落とし、膝から崩れた。

ケインは慌ててドリーに駆け寄る、全裸である事に気付かず。朝パオーンの状態で。

その時街の異変を告げるべく署員が慌てて署長室に飛び込んできた。

目の前には女性署員に襲いかかろうとしている一部分を元気にした全裸の署長の姿。報告も忘れ思わず怒声が出た。

「あんた、朝から何してるんですか!!!」

「?」

ケインは自分が全裸である事に気づいた。

「違う!誤解だ!私はただ…」

「全裸で股間を元気にして女性に襲いかかっていたのに何が誤解だ!」

この後、気を取り戻したドリーが説明するまで一悶着があったのは仕方ない事だった。

「ところで、何か報告があるじゃないのかね?」

「そうでした、署長。昨夜の酔っ払い共が暴徒となって署を取り囲み、署長を出せと騒いでおります!」

「なんで早く報告しない!」

「あなたの所為でしょうが!」

「……ごめん。着替えたら直ぐ行くから、少し(こら)えておいてくれ」


署に押し寄せた暴徒達の中に多くの獣人が混ざっていると聞き、ケインはほくそ笑んだ。

ケイン・ガーナルド、ヒト科。市長派に属し、若くして警察署長に抜擢された彼は野心家である。いや、野心家であるが故に市長派に属している。ケインは市長の様にゴリゴリの獣人排斥派ではない。市長派であるが故に獣人排斥路線に属している。

ケインは市長を忖度し、獣人弾圧の青写真を描いていた。大のミカイの夜、獣人の収監されているトラ箱の鍵を解放し理性を失った彼等が事件を起こすと演出。それを契機に獣人弾圧の一大キャンペーンを実施する事を予定しているのだ。

そんな彼にとり警察署をとり囲む暴徒に獣人が混ざっているというのは渡りに舟である。

『これで世論を動かし易くなる』

彼は野心家の顔を隠そうともせず暴徒達の前に出た。

「何事かね、諸君。静かにしたまえ」

ケインがそう言った途端、暴徒達がケインを中心に鎮まりだした。これにはケインの方が驚いた。

やがて、暴徒の先頭に立つ獣人の若者が恐る恐る訊ねてきた。

「あ、あんたが署長なのか?」

「ああ、私が署長だ。まだ陽も高いのに何事かね?」

「じゃ、今夜……」

(何を知っている?どこからか計画が漏れたのか?)

ケインは少し警戒を強めたが、もう中止する気は無かった。

「ああ。今夜、全力でやってやる。楽しみにしてくれ」

そう言って唇の端を上げて意味深に笑みを浮かべる。

途端、大歓声が沸き起こリ、あちこちからキングコールが起き始めた。

ケインは事態を理解出来ず、ただただ暴徒達を見渡した。

やがて一人の獣人がケインの前に立った。

「あんたはやはり思った通りの漢だよ、キング。

受けて立つぜ。

正々堂々、とことんやり合おう!」

「いい度胸だな。今夜は本気を出す必要がありそうだ。心の準備は出来ているな?」

二人の間に緊張感が漂う。

獣人の男は不敵に笑みを浮かべると暴徒に振り返って叫んだ。

「聞いたな、みんな!!!」

「おう!」

「夜に向けて準備だ!散れ!!!」

(どこまで情報が漏れている……)

一抹の不安を感じながら署に入ろうとするケインの前には、不安そうな表情を浮かべたドリーがいた。

「ケイン様、いえキング。またあの闘いに身を投じられるのですか……」

(そう言えば、キングってなんだ?それに、今『また』って言ったよな?どう言う事だ?)

怪訝な表情を浮かべるケインにドリーは不安な表情を浮かべて訊ねた。

「もしかして、覚えておられないんですか?」

ドリーの目に涙が浮かぶ。

「私…初めてだったのに……」

なにやっちゃったの?ワシ!?

(作者注、キスです)

「強引に、あんなに情熱的に奪ったのに!!!」

なにやってくれちゃったの?昨日のワシ〜〜!!!

(作者注、くどい様だけど、キスだけです)

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