伝説の復活(2)
トシは改めて部屋の調度を確かめ、ルケスに恐る恐る訊ねた。
「あの…こちらはどう言った御稼業をなさってるんでしょうか?」
「?」
「表の看板やそちらの扁額からすると…」
「トシ、お前やっぱりあの文字が読めるんだな」
「え?」
「トシ、あれ何て書いてあるの?」
ルフィンも不思議そうに聞いてくる。
トシはそこではたと気がついた。看板も扁額も漢字で書かれている。そしてここは地球でも日本でもないという事に。
「お前がモキータで書いた『漢』の文字も、開祖のツヒロ様が残した物と同じだった。意味もな。
つまり、お前はこの文字を使う所から来た。
違うか?」
そう言ってトシを睨め付けるルケスの表情はモニター越しにも凄みを含んでいた。
「そしてお前は獣人を投げたそうだな。ヤワラだろう?」
トシは誤魔化せないと悟り頷く。
「獣人共はパワーとスピードで優る事をいい事に、技には無頓着だからな。
じゃあ、後で道場に行こうか。どれくらい使えるか見てやる」
「お、お手柔らかにお願いします」
「それはそうと、ウチの稼業だったな。
昼のメインは興行のプロモートだ。
トシ、お前はこちらを手伝ってもらう。
なかなかのアイデアマンだそうだな。期待してるぞ。後は夜の稼業だ」
「夜の稼業というとタタキやコロシ……」
「それは裏の稼業だろうが!
夜の稼業ってのは花街や飲み屋の事だ」
「トシ、花街って?」
「グヘヘな店の事だよ」
「マジ? ぼくそっちに行きたい!」
「ルフィン、花に手を出したらちょん切るぞ?」
「何を?」
「ナニを」
「ルフィン、綺麗な花に手を出せないって拷問だぞ。止めとけ」
慌ててコクコク頷くルフィンだった。
「後はリンお嬢のシッターだ」
「リンお嬢?」
「当代の娘さんだ。先代が特に可愛がっておいでで、何かあったら首が飛ぶぞ、物理的に」
思わず首を押さえるトシとルフィン。
「リンお嬢は今年5歳になったばかりでな。やんちゃで悪戯好きで、すぐどこかに姿をくらますから俺達も手を焼いているんだよ」
そこにカークが駆け込んで来た。
「ルケスの兄貴、リンお嬢の姿が見えません!」
「……こんな風にな…」
ルケスはやれやれと言った体で頭を振る。
「トシ、ルフィン。お前達も探せ。屋敷内のどこかにいる筈だ。最近のオキニは隠れんぼだからな」
屋敷のそこここで男達が走り回り「リン」と叫ぶ声が谺している。
トシとルフィンは庭に面した廊下に座り込んで途方に暮れていた。
「なあ、トシ」
「なんだ、ルフィン」
「お嬢の顔、知ってる?」
「知らない」
「どうやって探すの」
「どうしよう…」
リンリンと声が響く。その声に合わせ、トシはつい節をつけてしまう。
リンリン「リリン」リンリン「リリン」リン…
ルフィンがそれに食いついた。
「何、それ?」
この街に着いてからの真面目な雰囲気に二人とも耐えられなくなってきていた。
…混ぜるな危険
アホがシンクロし出す。初めは小声だった。
それが次第に大きくなり始め、遂には身振りまで加わり始めた。
現実逃避してリンリンリリンと踊り出す二人。
「……何をしてる」
地の底から声がした。
ビクッとして動きを止める二人。
「お嬢、あなたも何をしているんですか…」
いつの間にか二人の後ろに小さな影があった。
「ルケスー! この二人は誰じゃ〜?」
それがリン・ミトミとの出会いであった。




