伝説の復活(1)
「確保ーーー!!!」
トナンの街に着いたトシとルフィンが耳にした第一声はこれだった。
二人は黒メガネの男達に取り囲まれ、大捕物が始まり訳もわからないまま取り押さえられた。
「標的2、グリフィンのルフィン! 確保!」
「標的1、サトシ・クガ! 捕獲!」
その言葉を聞いて、トシは自分を押さえている男に食ってかかった。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。何でルフィンは確保で俺が捕獲なんだ?」
「えっ?」
「何で聖獣とはいえ獣のルフィンが『確保』で、人間の俺が『捕獲』なんだよ! おかしいだろ!」
「うっせい! どっちでもいいだろうが!」
「良くない!」
「間違えただけじゃい!」
「ニイちゃん、すまねえな。そいつはあんまり学が無いんだ。勘弁してやってくれ。
だがな、俺達もゆっくりお喋りを楽しんでられなくってな。
おい、カーク。
ルケスの兄貴がお待ちかねだ。急ぐぞ」
「何のマネだよ!俺達に何の用だってんだよ!」
「ニイちゃん、大人しく運ばれな。行けば分かる。
それに、ルケスの兄貴がお待ちかねなんだ」
「答になってないぞ、テメエ」
「ルケスの兄貴を前にして同じセリフが言えたら褒めてやる。いや、尊敬してやるよ。
死にたく無けりゃ、大人しくしてろ」
その言葉の意味を二人はすぐに知る事になる。
二人が連行された場所は、如何にも…といった風情の事務所であった。
ビルの入口に掛けられている看板には『三富組』。中に入ると窓の無い廊下。事務所内の正面の壁に掛かった扁額には「任侠」の二文字。
そして二人を待っていたであろう一人の男。
仕立ての良いスーツに身を固め、髪はオールバック。丸縁のメガネ。装いは一流企業の社員風だが、身に纏う雰囲気は大きく異なる。
人の形をした恐怖がそこに居た。
「驚かせてしまって済まなかった。まあ楽にしてくれ」
よく通るバリトンの声で目の前の恐怖が話し掛けてくるが、トシとルフィンは嫌な汗が止まらない。
「フム、やはりアレが無いと無理か……予備は無いし……。仕方ないな。おい、誰か貸してやれ」
トシ達が渡された物は、男達が掛けていた黒メガネだった。
「これを掛けな」
「「?」」
「まあ、掛けりゃ分かるからよ」
促されるままに黒メガネを掛け、改めてルケスを見て驚くトシとルフィン。
そこには装いは同じだが優しい表情の有能を絵に描いたような紳士がいた。
「「えっ!?」」
メガネを外すと人の形をした恐怖がやはりそこにいる。
「そのメガネはモニターになってるんだ。
おい、お前。試しにスマホで兄貴を撮ってみな」
言われるままに写してみると、そこには優しそうな紳士が写っていた。
「兄貴は直で見ると怖そうに見えるんだよ。でも、怒らせなければ優しいお人なんだ。
で、不思議だけどカメラを通すと優しい素の兄貴の姿が見えるんだ」
「と言う訳で、それを掛けたまま話しをしようか。お前達がトシにルフィンだな」
トシとルフィンは頷く。
「ビデオメールを預かっている。まずはこれを見てもらおう」
壁に映し出されたモニターを見てトシとルフィンの顔が引き攣った。
そこにはケイ・オプティコムの嬉しそうな顔が映し出されていた。
“これを見ているってことは、無事にトナンに着いた様だね。
誰も知らない街でお前達も不安だろう? あたしの知り合いにお前達の事を宜しく頼んでおいたからね。
ああ、感謝かい? あたしとお前達の仲じゃないか。遠慮は要らないよ。
まあ、ルケスの元でしっかり男を磨きな。
じゃあね。良い漢になって戻っておいで”
「ケイお嬢の頼みだからな。お前達の面倒はウチで見てやるよ」
「「お嬢?」」
「ああ。ケイお嬢は本家のお嬢なんだ。現在の頭首の妹さんだからな。
まあ、そうじゃなくってもお嬢の頼みなら断るヤツはウチの系列には居ないがな。
ついでにしっかり修行していきな。
これは預かっておいてやるよ」
そう言って見せたのは二人の財布だった。
「「えっ!」」
二人は逃げるなら無一文になる事を悟る。
「あ、もう一つビデオがあるぞ」
“ あ、逃げ出してあたしの手を煩わすんじゃないよ。いいね”
「……ねえ、トシ」
「なんだい、ルフィン」
「あれって」
「ここから逃げ出したらケイ姐さんがお仕置きにくるって事だよ」
「やっぱり?」
「なぁに、お嬢の手を煩わすつもりはないけどな。私を優しいままでいさせてくれるよな?」
二人は慌てて首肯する。
「まあ、荒事は暫くないと思うから安心しな。この前一つ潰したばかりだからな」
サラッと怖い言葉が入る。
こうしてトシとルフィンのトナンの生活が幕を開けた。
まさかの極道編?




