女傑(おとめ)心は複雑で……
タイトル、変えました。
トシ達を送り出した面々は、特別に昼から開店たミイの店で骨休めをしていた。
「行っちまったねえ」
「ホッとするような、淋しいような」
「静かになるのは間違いないでしょうね」
一堂が肯いた。
「まあ、アイツ等がいつ帰ってきても恥ずかしくないよう、今後は我々で街を盛り上げねば」
「異議はありません。でも、一つケイさんとミイさんに聞きたいことがあるんです」
「おや、何です? トビーさん」
「いえね、なぜお二人は、ご自身で首長に立候補されないのかと」
「妾もそれは知りたい!」
新メンバーに加わったテリーナも食いつくのを見て、ケイとミイは顔を見合わせる。
「だってねえ」
「アタシ達が上に立つと、恐怖政治になっちゃいますからねえ」
そう言ってコロコロ笑う二人とは対照的に周囲の笑いは乾いたものになる。
「いえね、アタシ達の目的はどんな人種の人間も区別なく暮らせる街を作る事でしたけどね」
「それだけなら恐怖政治もありかと、UTAGEの前は一旦覚悟してたんですよ」
「でもね、それは一変しましたからねえ。なら欲が出るじゃないですか。
次は『住みたいと思える街』にしたいと。
恐怖で縛られた街では住みたいと思いませんよね」「そんな街、活気がありませんからねえ」
「アタシ達は裏方でいいんです」
「目的を達成できるならね」
「看板になるのは多くの人に夢を見させてくれる人の方がいいんです」
「幸い相応しい人材がいますし」
二人に視線を向けられキングは照れた。しかしその表情は次の言葉に凍りつく。
「道を踏み外せば絞めればいいし」
「表に出なければ好きにできますしね」
(このお二人は本当に街の将来を考えてくれている。でも、お二人の見込んだと言う人材にとっては地獄生活の始まりなのかもしれない……)
そんな日々を思い描き、冷や汗が噴き出る。
そんなキングにノックが声をかけた。
「そんなに怯えんでもええで、ケインはん。このお二人に締められる羽目になるお人やったらワシ等はあんさんを神輿にしとらん」
他のスタッフもノックの言葉に肯く。
「そうですよ、ケイン君。アタシ達も貴方を信じてるんだから」
「ドリーちゃんもついてるしね」
そう言ってミイがグラスを掲げると一堂は思い思いに歓談を始めた、障らぬ神に祟り無しとばかりに。
しかしケインは思う。自分の首にはロープが何本も掛かっていると。一歩間違うと、そのロープは容赦無く引かれると。
ノックは更に告げる。
「よう考えてみ。おまはんのやる事は変わらんで。
ただ、首に掛かったロープが見えるようになっただけやないか。気にすることなんかあらへんで」
「気になりますよ! 物凄いストレスがかかりましたよ!!」
「ケイン君、適度なストレスは必要よ?」
「ケイさんとミイさんの適度の基準が知りたい……」
その言葉に何人もが同意していた。
「キング様、私、精一杯お支えしますから」
「ドリー…君だけが私のオアシスだよ……」
そのまま二人の世界に現実逃避するケインとドリーであった。
「バカバカしくって見てらんないね」
「本当だよ。バカップルが!
ところでテリーナさん、貴方の事、もう少し教えてくださいな」
「ワシはおまはんの旦那の事が聞きたい。なあ、お…やなかった、テリーナ。少し教えてくれへんか?」
「そうですねえ……言っても信じてもらえないかもしれませんので、酒の肴のホラ話しとでも思ってお聞きくださいね」
そう前置きをすると、テリーナは話し始めた。
無敵……それがどんなものか想像できますか?
妾にとっては、それはそれは辛いものでした。
まず妾には毒が効きません。それがどう言う事か分かりますか?
何を食べても味がしないんです。
味覚と言うのは一種のセンサーです。肉体に必要なものと害を為す物を見分ける為の。しかし妾には害を為せる物がない。つまり、見分ける必要がないんです。そうなるとどうなるか。
そう、味がしなくなるんです。
肉体を動かすにはエネルギーが必要ですから何かを摂らねばなりません。しかし、妾は何を食しても砂を噛んでいるのと同じでした。
いつしか妾は周りに興味を持つ事もできなくなりました。全てのものが劣って見え相手にする気が起きなかったのです。巫山戯た奴だとお思いでしょうが、昔の妾の心境はそのような物だったのです。
皆様もご存知の様に、妾には一撃で温泉を掘り当てる様なパワーがあります。また、遍くこの世界の森羅万象についての知識もあります。
しかし妾にはその能力を使いたい対象がありませんでした。
妾はただ生きるためだけの存在でした。餓えれば目に入る物を摂取してました。遮るものは排除。妾を止められる物などありません。
周囲の人々にとって、妾は言わば歩く厄災でした。
当の妾と言えば、当て度もなく荒野を彷徨う一匹の獣のようなものでした。目に映る景色は色を無くし、この身が尽きるまで無味乾燥なこの牢獄を彷徨う絶望感に苛まれておりました。
そんな妾を変えてくれたのは夫でした。
衝撃でした。
夫の拳は妾にダメージを与えたのです。信じられませんでした。しかし、その瞬間妾の眼に色彩が戻って参りました。
そして妾は、その瞬間初めてこの世界に参加できたのだ、この世界の一員になれたのだと悟りました。その歓喜がお分かり頂けるでしょうか?
また、それは夫にとっても同様だったようでした。
妾達は互いに相手の拳を、蹴りを確かめ合いました。
いつしか頬が濡れておりました。
妾は夫に尋ねました。貴方は何物かと。
信じられませんでした。夫はただのヒト科の男でした。
ただのヒト科の拳が妾にダメージを与えられる筈がありません。
なぜヒトである夫が妾にダメージを与えられるのか?
夫の答えは『愛』でした。
妾は衝撃を受けました。愛というものはこの妾相手でもダメージを与える事ができるものなのかと。そして知りたいと思いました。愛とは何かを。
妾は夫に教えを乞いました。
そして、この『愛』を世に知らしめよとの天啓を感じたのです。
その日から妾は夫と行動を共にし、教団を設立して世界を巡っているのです。
最後の決めポーズとともにテリーナは話しを終えた。
「ノックさん、なぜテリーナさんは話の最中に色々とポーズをつけるんですか?」
「ワシにも分からん。昔はあんな癖無かったさかいな。旦那の影響ちゃうか?」
「彼女の話、どこまで信じていいんでしょうね」
「全部信じてかまんで。アイツは嘘をつけるほど優秀頭脳しとらんさかい。自分で獣っちゅうとったけど、ワシに言わしたら獣の方が物考えられる。そのレベルやさかいな」
一息つき話題がテリーナから逸れたのを見計らい、ノックはテリーナに心話で話しかけた。
『おハナ、旦那はホンマにただのヒトか?』
『ノック様、どうも夫は他星からの移植者みたいです。まあ、余人には分からないと思いますが』
『潘種グループの仕事か……トシと同じやな』
『え?』
テリーナは露骨に嫌そうな顔になる。
『忘れてたんかいな、トリックスターの条件を』
『アレと…アレと妾のファルークが同類って思いたくない! 嫌ァァァァ』
テリーナの心の絶叫を聴きながら、ノックは(移植者なら、その力はギフトかもしれんな)と独り思っていた。
これでモキータ編は本当に終了です。
次回の舞台となる街はトナン。四人の他のメンバーは基本出てきません。
この作品を楽しんで頂いている皆様、次の街での騒動もお楽しみ頂ければと考えておりますので、これからも宜しくお願いします。
……できれば感想を聞かせて下さい! お願い!!




