それぞれの後日譚〜モキータの人々〜
閑話 その一です。
《チェイズのその後》
ケイ、ミイ二人の女傑に負わされた(心の)傷が余りに深く、チェイズは女性を見ると怯えが止まらなくなっていた。仇とつけ狙っていたダンジョーに縋るほどに。そして、ダンジョーの愛で新しい扉を開かれてしまいチェイズは憑物が落ちた様に人が変わってしまった。
「私は一体今まで……」
「チェイズ、どうしたのですか」
「ダンジョー師…」
「師と呼んでくれましたか。何かを吹っ切れた様ですね」
「私は皇子であったドラゴニアを美化し、滅ぼされた事のみで他に考えが至りませんでした。
ドラゴニアがどの様な国であったかを知りもせず」
「其方は幼かった。教育を施した者が歪んでいたのです。其方の所為ではありません」
「そうですよ、チェイズ君。大切なのは今をどう生きるかです。貴方はこれからどうなさるおつもりですか?」
『ノワールさん……私はドラゴニアの皇子として貴方方ドラゴンの皆様に謝罪をせねばなりません」
「我々ドラゴンは既に気にしておりませんよ」
「しかし!」
「そのお心だけで十分です。それより我々と共に教団の一員となって愛を伝導しませんか?」
「それは……」
考え込むチェイズにノワールは畳み掛ける。
「貴方はダンジョー師より愛の素晴らしさを伝授されたでしょう?」
「ええ。しかし、私はダンジョー師の愛を独り占めしたい! そう思ってしまっているのです!」
俯くチェイズにダンジョーが語りかける。
「貴方は教祖、ファルーク様の大いなる愛にまだ触れていない。だからそう思うのです」
「ファルーク様?」
ダンジョーとノワールは肯く。
「これからは我等と共に歩みなさい。そうすればいつかファルーク様の愛に触れる日が来るでしょう。
その時貴方は世界が変わるのをその身で感じる。
断言します」
そう言って手が差し出された。
チェイズは悩んだ末にその手を掴んだ。
チェイズはこうして新しい世界へ旅立っていった。
《マクマホン元市長のその後》
金ピカの絢爛豪華なキモノと呼ばれる衣装に身を包み、メイクされた上から額に「悪」のスタンプを押したマクマホンは悪代官スマイルを浮かべる。
今日も決まったと会心の笑みが浮かぶ。
市長を辞したマクマホンは今や子供に大人気の役者に転身していた。
事の発端はトシと呼ばれる若造のオファーであった。
女装神侍の新シーズン「抱腹編」に出演してしてほしいと言うのである。なんでも、トシの「悪代官」のイメージにピッタリだと言うのだ。
初めは断ったのだが、あのノックの一番弟子だと言うし何より暇を持て余していた。
出演して「騙された」と思った。悪役でやられ役だったからだ。しかもお笑い。
しかし契約もあり、自棄になって3話目にアドリブで「これで3回目……」とやったところ大受けした。
それが契機となり、アニメの「二人は女装神」シリーズにも悪代官が登場して大ブレイクし子供達の人気者になってしまった。マクマホンは最終話で悪代官組織の首領「ゼネラル悪代官」としてゲスト出演、声優デビューまでしている。
「「成敗!!」」
二人の女装神侍に斬られ、ついに最期を迎えるゼネラル悪代官。
いつものように女神ミッチェルが降臨し浄化の光がゼネラル悪代官を照らす。
「其方の本当の願いは何だったのですか? 其方が欲にまみれる前の純真な魂を思い出すのです。
その願いを胸に、新しく生まれ変わりなさい」
女神の言葉にゼネラル悪代官の表情から険が取れていく。
「ワシは……ワシの願いは…………」
「其方の願いは?」
「ワシの願い…は…………お…………」
「お?」
「…帯回しをすることじゃあああああ!」
「へ?」
ゼネラル悪代官の手から放たれ帯が女神に巻きつく。
渾身の力を振り絞り、ゼネラル悪代官は帯を引いた。
「あーーーーーれ----ーーー-」
見事にクルクル回る女神。
芸術にまで昇華されたその帯回しに恍惚となる二人の女装神侍。
「良い…では……ない……か…………」
そう言うとゼネラル悪代官は満足気に昇天していった。
「「ゼネラル悪代官、見事なり!」」
「どこがーーー!」
女装神侍の言葉に女神の怒号が応えた。
そしてエンドロールが流れ、天に召されて行くゼネラル悪代官の魂に荘厳な音楽が鎮魂歌として流された。この最終話は神回となった。
街を歩くと子供達を中心に「お代官様〜」と声がかかる。定番の「そちもワルよのう」と声をかけると「お代官様ほどではーーー!」と一斉に声が返ってくるようになった。
マクマホンにとって何より嬉しかったのは、それまで「臭い」と言って近づいてくれなかった孫が寄ってきてくれるようになった事だった。
「お代官様、そろそろ出番です」
「おう」
呼びに来たスタッフさんに応え、マクマホンは腰を浮かべ今日もステージに向かった。
マクマホンの話しが長くなったので、閑話をもう一つ予定。
「テリーナの過去」と「悪女の宴 その二」です。




