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NDK黙示録  作者: つくも拓
第1章 モキータ編
44/72

邪教・暴竜、そして真実の愛(エピローグ)・さらば、モキータ。青年は荒野を目指す

モキータ編はこれにて終了。

上位階梯世界では三人の監査官達が長々と溜息をついていた。

「やはりこんな結末になったか……」

「ンラク師、その、少し気になったのですが。

あの街灯を振り回していた女の波動、憶えがありませんか?」

「レイリー、其方もか」

「……あのパワー、あの単細胞……」

「ノックと知己があるようですが……」

三人ははたと気づいた。

「「「ハンナ・グランディア」」」

先の内乱の後、姿を消したノックの一党の一人である。

「またとんでもないのが居たものだ」

「これではあそこでミダレを回収するなど期待できませんな」

「早急に別の候補地を探すとしますか」

「レパーサ臨時司政官、ご苦労であった……って、おい、レパーサ、レパーサ…君?」

そこには恍惚の表情でモニターを眺めているレパーサ臨時司政官がいた。そしていつの間に来ていたのか、食い入るようにモニターに集中している女性候補生達が群れていた。

「誰だね、君達は?」

誰もンラクの呼び掛けに応えようとせずモニターに夢中になっている。

「やっぱりチェイズ君はウケよね……」

「ホント……さすがグレーテル女史よね」

「愛に飢え道を違えた麗しの皇子を、嘗ての仇敵が愛の力で更生させる……」

腐女(おとめ)精神(ごころ)を揺さぶるわァ」

延々と語られている腐女子(くさった)会話。

「「「まさか……」」」


連行されてきたトシとメリーは通された市長室の床に正座した。暫くしてタカとルフィンも入室し、二人の隣で黙って正座する。

時計の時を刻む音だけが聞こえる部屋。一秒一秒が永遠に思えた。

「なあ、トシ……」

「なんだよ……」

「俺達これからどう「「「言うな!」」」」

考えるのが怖かった。

「この数ヶ月、楽しかったね……」

走馬灯のように蘇る記憶。

「UTAGEでやったパオーン……」

「チチモンダルの獣を止めようと女装して……」

「ノックさんと芸人百人斬り……」

(たか)って呑んだ日々……」

「……よく考えてみると、ろくな事してないわね、アンタ達」

数人の足音が聞こえてきた。

四人に緊張が走った。

「待たせたな。って、なんでお前達 正座してるんだ?」

四人は揃って土下座した。

「「「「キング、お許しください!!」」」」

「な、なんだいきなり?」

「御慈悲を、御慈悲を!」

「ケイ姐さんにお取りなしを」

「生命ばかりは!」

「おまえ達、何を言ってるんだい?」

「「「「ケイ姐さん」」」」

そこには優しく笑みを浮かべているケイ・オプティコム女史の姿があった。

「せっかくソファーがあるのに、なんでそんな所に座っているんだい? ソファーにお座りよ」

「で、でも……」

「さっさとおし! 怒らせたいのかい!」

慌てて動こうとするが、痺れた脚は思うように動かず四人は盛大にすっ転んだ。這うようにソファーに四人が座ると、ケイ・オプティコムはトシとメリーの背後に周った。

『死?』

ケイの手が肩に置かれた瞬間、二人の頭にその文字が浮かぶ。

「さてと。落ち着いたかな。四人とも」

四人に緊張が走る。

「よくやった。ご苦労だったな」

!?

「……と言う事は?」

「助かったの? 僕達……」

「何言ってるんだい? モンデル教をなんとかしたじゃないか。よくやったね、おまえ達」

「じ、じゃあ……」

「街の一部を破壊したのはやり過ぎだと思うけど、テリーナさんの所に責任とってもらう事で話もついたし。後々のマーカス教団との事を考えたら、まあ結果としては上々さね」

「「こ、怖かった……怖かったよトシ〜」」

「何が怖かったか分からないけど、おまえ達を呼んだのはこれを渡すためだよ」

そう言うとケイは四人の前に封筒を置いた。

「これは?」

「餞別だよ」

「え?」

「おまえ達、街を出る気なんだろう?

振込でもいいけど、こういう時は現ナマの方が雰囲気あるだろ?」

悪戯っぽく笑うケイを見て涙が吹き出た。

「あの、ボクだけ薄いんですけど…?」

「おまえは街を出て行かないんだろ、ルフィン」

逃げ損ねたことを悟るルフィン。

「ルフィン、君と言う友が居たことを僕は一生忘れない」

「君は僕達の心の中でずっと生き続けるよ」

「やめて!! ボク死んじゃうみたいに言うの!」

ルフィンの肩にトシとタカがポンっと手を置き軽く首を振る。ルフィンは涙目になった。

「トシ、タカ。あまりルフィンを苛めるな。

ルフィン、おまえの分はちゃんと振込んでおいたよ」

「キング〜」

「後でアユタヤさんの所に顔を出しな」

「イエス・マム!」

「おまえ達、今夜六時にミイの店においで」

???

「送別会をやってあげるよ。世話になったみんなに挨拶を考えておきな」

「「「イエス・マム!」」」

「その時には例の話しも聴かせておくれよ? いいね、トシ」

「…例のと申されますと?」

「予定日とかさ」

「予定日?」

「なんだ、アンタ教えてもらってないのかい?

アンタとメリーの子供のだよ」

「ええ! トシとメリーってそういう仲だったの」

「いつの間に?」

「惚気話も含めてさ、いろいろと聴かせておくれよ」

「いや、その話しは」

「ねぇねぇ、いつからできちゃったの?」

「そうだよ、トシ。相方の俺にまで内緒って、水臭くない?」

『いや、だからね」

「何言ってるんだい。運命の相手ってのはね、理屈じゃないんだよ。

見つめ合う目と目。触れ合う手と手。求め合う心と心が紡ぎ出すんだよ」

「ミッチェルさん!」

「ミイの言う通りだよ。見つめ合う目と目…」

「…(がん)飛ばしあったねェ…」

「…触れ合う手と手…」

「アンタの拳、効いたねぇ…」

「…求め合う心と心…」

「…頂上(テッペン)獲ったるってぶつかり合ったねェ…」

「なんで元ヤンの武勇伝になってるんですか!?」

「……な・い・しょ」

「可愛く言っても誤魔化せてませんよ?」

「……ねぇ、みんな。お話聞いて。お願いだから」

「もう、なんだい?トシ」

「俺とメリーの間に子供なんてできてませんから」

「…アンタ、今更子供を見捨てる気かい?」

ケイとミッチェルからドス黒いオーラが湧き上がる。

「そうじゃなくて、あれは興奮したテリーナさんを落ち着かせるための方便なんですって!

俺とメリーはそんな関係じゃありませんから!」

「…ホント? メリー」

高速でメリーは肯く。

「アメリア、本当かい!」

入口からテリーナの悲痛な声がした。

「みてみい、狂言やったやろ?」

「でもノックさん、アタシはやっと、やっとこの腕で孫を抱けると思ったのに!」

「いっそくっついちゃえば?」

「ルフィン、テメエ他人事と思いやがって!」

「そうよ! アタシにも選ぶ権利はあるわ……多分」

多分がつく辺り、本人の自信の無さが伺えた。しかしテリーナはこれに食いついた。

「そうよ、瓢箪から駒って言うじゃない? くっついちゃいなさい。そして早く孫の顔を見せてちょうだい!」

「お母ちゃん、孫の顔が見たいだけなの? アタシの幸せは?」

「母さんの幸せが優先!!」

「ねぇ、テリーナさん。お孫さんはどっちに似ると思います?」

テリーナの動きが止まる。

「せや。テリーナ、どっちに似とってほしい?」

テリーナの視線がトシとメリーの交互に動き、両手でメリーの肩を掴む。

「アメリア、コイツが好きでしょうがないなら母さん諦める。でもね、そうじゃないならもう少し相手を選ぼう。ね?」

「マジな顔で言うなーー!」

三つ巴になった親娘喧嘩を前にして呆れ顔のノックはキングに話しかけた。

「なぁ、キングはん。あんさんどない思う?」

「どっちもどっちですね。

片や『モキータの残念な生き物』、片や『モキータの危険な生き物』ですから」

「いい得て妙やな」

「これ、モキータのタウン誌です。巻末の方を見てください」

そこには図鑑の形式で『残念な生き物』としてトシ、タカ、ルフィンが、『危険な生き物』としてメリーが紹介されていた。


翌日、街のターミナルでトシ、タカ、メリーはそれぞれの前途を祈って別れを告げた。

トシはルフィンに乗って宛なく旅をするつもりだった。タカはオウンデール工務店の伝手を頼りに。メリーはノワールに父親のいる街に連れていってもらう予定にしていた。

「ルフィン、アンタも街を出るのかい?」

「お袋が『おまえも修行しておいで』ってね」

「で、旅費を浮かそうと思って一緒に行く事にしたんだ」

「じゃあ、みんな元気でね」

「アンタ達もね」

「おまえ達、一回り大きな人間になったらまたモキータに帰っておいで。楽しみにしてるよ」

「「「ケイ姐さん!?」」」

気づくとキングやノック、トビー、リュー、ミッチェル、テリーナといった面々がそこにいた。

「「「皆さん、ありがとうございます。お世話になりました!!」」」

「行っておいで」

涙が溢れそうになり、慌て背を向ける。

「「「行ってまいります。皆さんお元気で!」」」

そう言って旅立ったトシ達を見送って、ノックはケイに尋ねた。

「ケイはん、アイツ等を野放しにしてエエんか?」

「大丈夫ですよ、ノックさん。アイツ等が何処に行くかくらい察しはついてますから」

「ホンマでっか!?」

「先ずはタカ。トビーさん、貴方の伝手でタカを送り出したのは奥様の実家のあるトナン。ですよね?」

「ご慧眼、恐れ入ります」

「次にメリー。ファルークさんがいらっしゃるのも」

「偶然ですね、トナンです」

「なので、ルフィンにはトナンに行くよう言いつけておきました」

「ケイ、トナンって」

「ああ、実家(うち)の『八つ目』が仕切っている街だよ。もう連絡はつけておいたさね」

「さすがだねェ。ルケスのとこならいい修行になるねェ」

改めてケイの恐ろしさに身震いする面々であった。

『何故この人が市長(うえ)に立とうとしないんだろう?』と言うキングの思いはミイ以外の面々の共通認識でもあった。

旅立った四人はそんな事とは露知らず、ケイから逃れられたとの勘違(おも)いに胸を撫で下ろしながら明日への希望に思いを馳せトナンに向かうのだった。

湿っぽくならないよう苦労しました。

次の街ではどうなるか?

原案はできておりますが……


とりあえず閑話を一本挟みます。

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