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NDK黙示録  作者: つくも拓
第1章 モキータ編
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邪教・暴竜、そして真実の愛(6)

チチモンダルの獣の嵐が吹き荒れる予感に囚われ、ケイン新市長のブレイン達が頭を悩ませていると、会議室の扉を叩く音がした。

「恐れ入ります、市長。会議はまだ長引きますでしょうか?」

「いや、煮詰まってきたので一息入れようと思っていたところだよ。

何か用かな?」

「面会希望の方が見えられております」

「アポは無かったと思うが?」

「急ぎとの事で。マーカス教団の方です」

「急ぎ? 何のご用か伺っているかい? できれば日を改めていただきたいのだが」

「アメリア・マーカスの件だそうです。いかが致しましょうか?」

「アメリア?」

「キング、メリーの本名ですよ」

会議室にいる面々に緊張が走った。

「分かった。お通ししてくれ」


入室してきたテリーナが発する上位階梯世界の者特有の波動にノックは思わず声が出た。

「おハナ!?」

「へ?…げッ、ノックさん? 」

「すまん! みんな5分だけ時間くれ!」

ノックは慌ててテリーナを連れて隣室に入った。

「おハナ、おまはんどこへ行ったかと思っとったらこんなところにおったんか」

「ノックさん、おハナはやめてよね。ここではテリーナ・マーカスと呼ばれているの。

ノックさんこそ何でここに?」

「詳しい話は後でゆっくりしよ。

ワシはちょっと前までこの街でお笑い界の大物やったんや」

「お笑いって、あなたが?」

「色々あったんや。色々な……

おまはんも上位()階梯()の事を喋る訳にいかん事は承知しとるやろ? せやさかい、ワシが昔おった街の芸人仲間やった事にしといて」

「今のアタシは『マーカス 愛の伝道教団』の教母なんですよ? お笑いって……せめて世話になった後盾の娘って事で」

「せやけどおまはん、ワシに対してつい敬語を使うてまうんちゃうか?」

「それは確かに……」

「なら後輩芸人って事にしとき。その方が怪しまれへんで?」

「……頭が痛くなってきたわ」

「ところで、なんで顔を隠しとるんや?」

「なんかアタシの娘がこの街でやらかしたみたいなの。でね、この街に着いてからアタシの顔を見た人達の反応がおかしくて。用心のために隠してたのよ」

そう言うとテリーナは隠していた顔を晒した。

「メリー!?」

「あれ? ノックさん、ウチの娘をご存知で?」

「……」

ジト目で睨むノックであった。そして、その様子を見てメリーが何かやらかした事を確信したテリーナであった。

「……そろそろ戻ろか」


トシは残されていたお付きの顔を見て何か引っかかるものがあった。どこかで見憶えがあるのだ。しかし、その名を聞いて記憶が繋がる。

ダンジョー・ショーツ・ユイ。トシをこの街まで連れて来てくれたチェイズ・マッターラ・デ・ドラゴニアが仇と捜し求めている男であった。

(まぁ、約束は約束だしな……)

変に律儀なところのあるトシは後の事を考えずチェイズにメールを送信してしまった。最後の歯車(パーツ)が埋まる。モキータの街に災禍が訪れる日は近い。


テリーナの顔を確認し、女性陣は胸を押さえ男性陣は苦虫を噛み潰したような顔になる。その反応にダンジョーとノワールは怪訝な表情を浮かべた。

「皆様、娘がご迷惑をおかけし申し訳ございません。妾、アメリアの母でテリーナ・マーカスと申します。以後お見知り置きを」

「ちゅう訳や。メリーにソックリやが別の人間や」

「そう言えば、メリーが言ってました。母はボッキュッボンのナイスバディに自分の顔が乗っていると」

「ケイン君、いつからそんなに下品になったのかな?少し教育が必要なのかな?」

「ケイ姐さん、ご勘弁を! 以後気をつけます!」

「今は置いておきます。それどころじゃないので。

ところで、テリーナさん。あなたはもしかしたらあのテリーナ・マーカスさんですか?」

「あの? ケイ姐さん、テリーナさんの事をご存知なんですか?」

「ケイン君、ファルークとテリーナのマーカス夫妻と言えば分かるわよね」

「……もしかしてシーアンの救世主!?」

「救世主だなんて、お恥ずかしい」

「では」

テリーナは上品に頷いた。

「「先生!!」」

「なにかしら、トシ。タカ」

「「シーアンの救世主ってなんですか? ボク達知りません。よければ教えてください!」」

「あなた達の世代だと知らないかもね。

十数年前の事だけど、シーアンの街が竜の大群に襲われたの。その時街に居合わせた二人の英雄が竜の大群を退け街を救ったのよ。街は半壊しただけで済み、犠牲者はほとんど出なかったと聞いているわ。

その時の英雄がマーカス夫妻よ。

テリーナさん、そうですよね?」

「若気の至りです。街を半壊してしまった事、今でも反省しておりますのよ。お恥ずかしい」

顔を赤らめるテリーナ。何故かダンジョーとノワールは顔を背けていた。

「竜の大群から街を護ったのでしょう? なにを恥ずかしがるんですか。凄い事じゃないですか。竜は30頭ほどいたと聞きますよ」

「32頭です。でも、街を半壊したのは私供夫婦ですので」

「テリーナ様、その事は!」

「良いではありませんか、ダンジョー。あなたはあの時の当事者なのですから」

「街の方だったのですか……大変でしたね」

「いえ、竜と共に通りがかっただけなのです。その時教祖夫妻の夫婦喧嘩に巻き込まれて……」

「あの時はごめんなさいね」

「いえ、そのお陰で道を示されたのです。あの時は4代続いた目標を達成したばかりで、その後の人生を見失っておりましたから」

「あの……どう言う事でしょうか?」

「街を半壊したのは私供の夫婦喧嘩で、竜達は巻き添えを食ってしまっただけなのです」

「巻き込まれて全滅するまで5分かかりませんでした……」

「「「…………」」」

「娘が好きなのはどっちだ〜で言い合ってつい……」

「ちょっと待て。おハナ、旦那っておまはんと互角にドツキあえるんか?」

(そういう問題か!?)全員が心の中でツッコミを入れる。

「あんな人、ほかにおりませんわ」

テリーナは頬を赤らめ、ノックは顔が蒼褪める。

「師匠、おハナって誰です?」

「あ、つい昔のクセでな。テリーナはんは昔の仲間なんや。芸人やっとったけど、喧嘩やらしたら千人相手でも楽勝いうくらい強いんや」

「ノックさん、桁が3つ少ないわよ」

「……」

テリーナの正体を知るノックはともかく、他の面々には信じられない事であった。しかし、竜の大群を喧嘩の巻き添えで全滅させている。

厄ネタである事は間違いないと全員が認識した。

次回亜メリー軍団対策本部が起動します。


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