邪教・暴竜、そして真実の愛(5)
いつものように拍手と歓声で迎えられたトシとタカは手を振ってオーディエンスに応えていた。
「すまんのう、二人とも。忙しいとこをわざわざ来てくれて嬉しいで」
「何言うてはりますんや、師匠」
「引退された言うたかて、ワテ等は師匠の弟子でっせ? 」
「嬉しい事言うてくれるやないか。ワシ歳とって涙脆いんや。泣かさんといてくれ」
「ところで師匠、ボク等に会わせたい人って誰ですか?」
「せやせや、この人や」
ノックは先程突きつけられたパネルを二人に見せた。
「あれ? 師匠、この人と知り合いやったんですか?」
「なんや、お前等もう会うとったんか。何処で会うとったんや?」
「先月ネタ合わせに行ったクラブで会うたんですわ。なんや会社の人と打ち上げや〜言うてはったんで、余興に一席ぶったんですわ」
「そしたら豪う喜んでくれて」
「奢ってくれる〜言うから、師匠の名前でツケといた分まで払わしたってんですわ」
「エゲツない事するなぁ」
「師匠の知り合いやって知ってたら遠慮してましたけどね」
「ぎょうさんツケが溜まってたんで、師匠にバレる前に払えて良かったなぁ」
「それ以前に、ワシのツケで飲むんええ加減止めんかい」
「「以後気をつけます」」
「ところでおまはん等、この人誰か知ってるんか?」
「「さぁ? 誰ですのん?」」
「あんた、教えたり」
ノックはニコニコ笑いながら司会者に促した。
「反社会勢力の方です……」
「?トシ、反社会勢力って何?」
「そこからかい! 怖い稼業の人って事やがな
……って!? マジですか!!
師匠、どないしょう。助けてください!!」
「っちゅう事や。
あんた等、ワシになんか言う事はないか?」
「……だからと言って、あなたが繋がりがなかったと言う証拠にはならないでしょう。
いや、弟子が繋がりがあったんですから師匠のあなたも繋がりがあったと考えるのが自然じゃないですか!」
「他の方々も、同じ考えなんやな?」
「私もそう思いますねェ」と局に媚び諛う者もいたが、ノックの怖さを知る者は目を逸らした。
「今言うたヤツ、顔覚えたで。
おまはん等は憶測でワシを誹謗中傷し、障害者を支援しようとするワシの事業を邪魔しようとしたんや。それなりの覚悟しとき」
「しかしですね、反社会勢力と繋がりがないと証明して頂かないと納得出来ませんよ」
「『ない』事の証明は出来へん。立証責任は『ある』言うた方にあるんやで。『悪魔の証明』っちゅうヤツや。そんな事も知らんのか?
それとも何かい、おまはん等がクロ言うたらクロ確定か? おまはん等はいつから司法権持つようになったんや?」
「そんな事は言ってないじゃないですか!」
「VTR見直してみィ! この番組見た人がどう判断するか見ものやな」
「……」
「もうエエ! ワシは絶対このままですまさん。それなりの責任とってもらうさかい、覚悟しとき。
トシ、タカ! このドアホが!
おまえ等まだワシに隠しとる事があるやろ。
洗いざらい喋ってもらうで」
「「師匠、勘弁してくださいよ」」
「ならワシは知らん。怖いお兄さんに可愛いがってもらえ」
「「師匠、全てお話しします!」」
「行くで」
そう言うとノックは怒気を露わにスタジオを後にした。表情を強張らせた司会者と、当惑を隠せないお抱えコメンテーターを残して。
この後このTV局はマスコミ他社監視のもとでノックに謝罪を行い莫大な慰謝料を支払う事になったのはまた別の話である。
トシとタカはノックの事務所でやらかした事を洗いざらい吐かされたのだが、その中にモンデル教が含まれていた。
ケインから懸念事案として協力要請が回ってきていた事案であり、ノックはケインと連携してブレインを招集した。
「ケインはん、コイツらが元凶でしたわ」
その場にいる全員の刺すような視線を感じ、トシとタカは身を竦ませた。
「ホンマ色々とやらかしてくれるなぁ」
「師匠、すんません! でも、悪気は無いんです」
「女装神のパテント、基金にお譲りしましたやん。この女装神の人気が下火になったら基金の収入減ると思いましたんですわ」
「その為に亜メリーを養殖してたと?」
二人は頷く。
「ドアホ! 被害に遭う女性の事も考えんかい!」
「「返す言葉もありません!」」
「それに、女装神の真言に対抗する呪文も広めていると聞いているが?」
「なんや、それ?」
「すんません、信者集めるための方便で…」
「確かオマリ……」
「オン・マリシエイ・ソワカですわ」
「なんやと!」
「師匠、どないしたんですか? 大きな声で?」
(摩利支天の真言やないか!)
摩利支天。インドの戦神で女性神である。まさかとは思うが……
「師匠もケインさんも落ち着いてくださいよ。真言なんか何の力もある訳ないやないですか」
「教団の女性も言うてましたけど、女装神の真言かて彼女等にしたら『あ、やってもうた』って気づくためのアラームみたいなもんですし」
「教団は彼女達にとって同じ悩みを持つ者同士が集まれる場所になっているんですわ」
「彼女達もホンマは分かってるんです。他人の胸揉んだかて自分の胸が大きくなる訳ない事くらい」
「皆さん、何でそんなに教団の事を気にしてはるんですか?」
その時、トシとタカのスマホから着信音がした。
「「ちょっとすんません」」
スマホを見た二人の顔が凍りつく。
「どないしたんや?」
「「これ……」」
そこには胸のあるメリーが映っていた。
「何でメリーの胸が大きくなった……」
「分かりません。でも、一つ言える事があります」
「なんや」
「モンデル教の御神体はメリー像なんですわ。そして、彼女達はこの写真を見て『神はいた』って言うてます」
「メリーが胸を大きくできた。どうやって? 彼女達の行き着く答えはおそらく……」
チチモンダルの獣の嵐がまた吹き荒れる。
誰もがその予感に囚われていた。




