邪教・暴竜、そして真実の愛(3)
すみません、お待たせしました。
新市長となったケインは、マクマホン元市長の第一秘書であったオサム・G・ウエインから届けられた報告書を確認し頭を抱えていた。
「本当にマクマホンさんの言った通りの男だな…」
話は少し遡る。
ケインにマクマホンから一本の電話があった。それは「リコールされる前に市長を勇退したい」「禅譲するから花道を飾らせてくれ」「優秀な若手を陣営に加えてやってほしい」と言うものであった。
改めて市長としてのマクマホンの功績を振り返ると、財政の健全化を成し遂げ街の発展に大きく寄与している。落ち度らしい落ち度もないのだ。また、影響力もまだまだ健在である。
冷静になって考えると市長選は苦戦必至なのである。そのマクマホンが数々の風評被害で弱気になり、自ら降りてくれると言うのだ。
「マクマホンさん。概ね了解しました。
ですが、ウエインは引き受けかねます。アイツはどうも信用ならないので」
「ケイン、おまえの言わんとする事は良くわかる。その上で、おまえの為に推薦しているんだ」
「どう言う事です?」
「ケイン。ワシがなぜ市長を退く決意をしたと思う? まだ戦う力を残しているのはおまえも知っているだろう?」
「そう言えばそうですね。私も不思議に思ってました。なぜです?」
「ウエインが私の元から消えたからだよ。アイツは正真正銘の蝙蝠男なんだ。
強い方を嗅ぎ分け、弱い者を見捨てる」
「クズですね」
「ああ、筋金入りのクズだ。しかしその嗅覚は確かなんだ。アイツが離れていったと言う事は、ワシは負けると言う事なんだ」
「なるほど。つまり」
「退き際を教えてくれるセンサーなんだよ。それに、仕事は普通に優秀だぞ」
「分かりました。置き土産ですね。受け取る事にします」
「アイツは今ワシに何か隠し事をしている。そのネタを手土産におまえの下に顔を出すはずだよ。手土産に出来るくらいの厄ネタだと思う。注意してくれ」
「分かりました。
マクマホンさん、長い間ご苦労様でした」
「ああ、ありがとう。すまないな。勇退会見ではよろしく頼む」
その後、マクマホンは会見で「体力、気力の限界」を理由に勇退を表明、約束通りケインに市長の椅子を禅譲し政界から引退した。
そしてケイン新市長の所信表明演説の翌日、マクマホンの預言通りウエインは現れたのである。厄ネタを持って。
その厄ネタの一つがアンダーグランドで蠢く宗教団体であった。
その名もモンデル教。街の南に拠点を持ち、亜メリー達がその教徒となっている。
教義によって理論武装を行う事で女装神の真言に対抗し、胸の巨きな女性を揉み倒しているというのだ。また、その強姦シーンを見たいがため活動資金を出している男性信者もいるという。
因みに御神体はメリー像 (ビーストモード)である。
女性信者達は亜メリー化していないと一般女性と見分けがつかないため摘発が困難である事に加え、街の南には他の街からのシャトル便発着施設がある。観光客が襲われる恐れがあるため早急な対策が必要である事が想定された。
「メリーめェェェ……」
「なんですか? ケインさん。そんな怖い声を出して。あたしに何かご用ですか?」
「え?メリー、なんでここにいるんだ?」
「チチモンダルの獣事件のお仕置きで、ここでこき使われているんじゃないですか」
「そう言えばそうだった」
「もうそろそろお許しくださいませんかね?街を出たいので。
ところでどうなさったんですか?」
「いや、街の南に蔓延るモンデル教の教祖をやっているものと思って」
「何ですか、それ?」
ケインはメリーにウエインの報告書にあった件を掻い摘んで説明した。
「……と言う訳で、観光客に被害が出る前になんとかしたいんだよ」
「観光収入に響きますからねー」
「ああ。頭が痛いよ。
そうだ、メリー。この件を上手く片付けられたら放免してやるってのはどうだい?」
「本当ですか? ケイ姐さん、許してくれます?」
メリーの中で私とケイ・オプティコムのヒエラルキーはどうなっているのだろうと言う疑問が湧き起こる。
そのくせケイ姐さんにダメ出しされたら速攻で案を取り下げる自信があるケインであった。
「そこは上手くとりなしてあげるよ。
ところで、なんで街を出たいんだ?」
「実は、近々母がこの街を訪れるんです。その前に逃げ出したいので」
「仲が悪いのか?」
「いえ、そう言う訳じゃないんですけど。比較されるのがたまらなく嫌で」
そう言いながら、メリーは何か引っかかるものがあった。
「まあ、よくある話だよね。でも本人が気にするほど他人は気にしたりしないよ? たまにはお母さんに甘えてもいいんじゃないか?」
「いえ、百人いれば百人が比較します。あたしは母にソックリなんです、胸以外は」
「⁇」
「母はボッ!キュっ!ボンのセクシー・ダイナマイト・ボディにあたしの顔が載っているんです。
もう、ホント使用前・使用後みたいに」
「それは……」
メリーが胸にコンプレックスがあるのは分かっている。慰めの言葉が出てこないケインであった。
ケインはこの時は気づかなかった。ダイナマイト・ボディのメリーがモンデル教徒の前に現れたらどうなるかを。
歯車が埋まり、騒動が動き始める。




