邪教・暴竜、そして真実の愛(2)
ルーダはルフィンの部屋に入り浸って女装神関連のビデオを見ていた。グリフィンがこの街では人気があると聞いて、どういう風に人気があるのか知る為と言うのが動機であったが、今は大ハマりしていた。特に女装神侍シリーズの第三弾「女装神侍・激闘編」をヘビーローテで見入っている。
女装神ソードの玩具まで購入し、決め台詞を言っては悦に入っていたところに通信石で連絡が入った。
「親父、今ちょっと出てこれるかい?」
「なんだ?」
「師匠から頼まれてね。親父に頼みがあるらしいよ。会って損は無いから出て来れないかい?」
「いいぞ。何処へ行けばいいんだ?」
「ノック会館の4階、理事長室で待ってるって」
ルーダは部屋に入ってきたノックを見て血が凍った。
「上位階梯の方が何故ここに! いや、現世に降臨されたということは…魔王!!
お助けください、見逃してください!
わたしは美味しくありませんよ!
なにとぞ、なにとぞーー!!」
「喧しい! 少し落ち着け!」
ノックは慌てふためくルーダを一喝した。
「まあ、少し落ち着きなはれ。誰も取って食おうなんて考えてないさかいな。
しかし、おまえさんはワシの事が何者か分かるんやな。ルフィンのアホは一向に分かっとらんようやが」
「曲がりなりにも長でございますので」
「まあ楽にし。ワシはもう魔王としての能力は封印されとるんや。ワシはこの寿命が尽きるまでただのノック・クラークケントとして生きていくつもりなんや」
「化物蛸としてですか」
「誰が蛸の化け物やねん!クラークケントじゃ」
「いや、お顔を見てるとつい」
「よっしゃ、出るとこ出よか」
「いいんですか?ただの人間相手なら負けませんよ」
ルーダは不敵にニヤリと笑う。
「ほう、おんどれ、ええ度胸しとるの。
ワシを殺したらどないなると思う?」
「どうなるって言うんだよ、ああ?」
「街中から追手がかかるで?敵討ちや〜ってな」
「あ」
「ほんで、ワシは死んだら何処へ戻るんやったかな」
「あ!」
「せや、天界や。
あそこに戻ったら能力を取り戻すんやで?」
「あ…あ、あああ…」
そうなったらワシ、何すると思う?」
「な、な、何をなさるおつもりで?」
「徹底して的にしたるさかい覚悟しとき」
「あああああ!!!
ノック様ァァァ!わたくし、考え違いをしておりましたァァァ!
数々の御無礼の段、平に、お情けをもちまして平にご容赦をーー!!!」
さすがルフィンの親父、手の平を返すのが早い。
「立場を理解したようやな。
まあ楽にし。今日来てもろうたんは他ではない。頼みがあるんや。
別にあんさんにも悪い話やないで。実はな……」
ノックがルーダに持ちかけたのは聾唖者向けの通信石の加工と施術についてであった。
「……ちゅう事や。一個百万でどないや?」
「ノック様、それは殺生でっせ。せめて倍は貰わんと」
「うちも懐具合が厳しいんや。それに相手はあんさんだけやない。里の者にも声を掛けて貰うんやで?
年に50人分位になるやろ?金の切れ目が縁の切れ目ってな話にしとうないんや。
それに定期的に実入りがあるんやで?里のモンも呼んでこの街で暮らしていけるようになるんとちゃうか?」
「里のモンを呼んだりしたら夜遊び行けませんやん。なぁ、ノック様。もう少し、もう少しだけで結構ですからイロつけて頂けませんやろか」
「や、そうでっせ、アユタヤさん」
「へ?」
衝立の奥から出てきた人影にルーダは顔色を失くす。
「か、かあちゃん……」
「ちょっと二人でお話ししましょう? ね?」
「ノ、ノック様…あんた……」
「奥さん、人情味のあるエエお人やなァ」
「ワシ、これから刃傷沙汰ですがな!お助けを!」
「アンタ、お黙り! ノック様、確かに承知致しました。里の方もお任せください。では。
ほら、行くよ!」
「嫌や嫌や〜!逝きたくない逝きたくない!」
引きずられいくルーダにノックは手を振りながら声をかけた。
「もう一つ頼みがあるんや。奥さんと話しがついたら戻ってくるんやで」
「ノック様、1週間後に伺わせます」
「なんでそんなにかかるんや?」
「それくらいあれば、顔を出せるくらいには回復すると思いますから」
「そ、そうか。
まあ夫婦の間に口を出すのも野暮やな。せやけどお手柔らかに、な?」
施術を通じて聾唖者と接したアユタヤはボランティアに目覚めていく。俄かに音が聞こえるようになった元聾唖者の読み聞かせ等にも積極的に参加するようになっていき、後に「ママ・アユタヤ」と呼ばれる事になるのは、また別の話である。
約束通り一週間後、ルーダはノックの下に現れた。
「ルーダ、すまなんだな。身体、大丈夫か?」
「ノック様。あなたが『頼みがある』って言って下さったお陰でこの程度で済みましたわ。
ありがとうございます」
「皮肉にしか聞こえんわ。ホント悪い事したと思うてるから。堪忍な」
「こっちも本当なんですが。ところで、御用とは?」
「おまはんはトシとタカって知ってるか?」
「ルフィンのアホとよく連んでるアホですね」
「せや、そのアホ二人や。この二人に監視をつけておいてほしいねん」
「ノック様がお気になさるとは。何者ですか?」
「ワシの一番弟子ということになっとる。そやけど、コイツ等は何仕出かすか分からんのでな」
「お弟子さんが心配なんですね」
「そんなんとちゃうねん」
「もしかしてストーカー? 犯罪行為には加担しませんよ!?」
「…おまえ、ルフィンが感染てないか?」
「え……」ルーダの血の気が引いていく。
「まあエエ。ワシが心配しとるのは実害の方や。
ノック基金の柱の一つが女装神シリーズのパテントなんや。でな、あの二人はそれを譲ってくれた立役者なんや。
その二人になんかあったらどないなると思う?」
「ノック様と利権で揉めたと、ある事ない事報道されますね」
「風評被害はバカにならんさかいな。
そんで、そのうち女装神の正体がバレる」
「それとあの二人と何の関係が?」
「ルフィンに聞いてないんか? あの二人が女装神なんや」
「ということは……!」
「そや、そないなったら女装神ブランドのイメージダウン必至やないか!」
「そっちですか」
「今の段階で収入の柱を失くす訳にはいかんねん。
アイツらはどうなっても構んけど、他に被害が飛び火せんよう監視しといてほしいんや。
1年でエエ。頼むわ」
「承知しました。
と言うか、ノック様の頼みを断ったら、今度こそかあちゃんに何されるか分かりませんから。
では、今後とも良い関係を」
「こちらこそ。よろしゅう頼むな」
ルーダは(ノック様、弟子が心配なくせに照れちゃって。可愛いところあるんだな)と勝手な想像をしながら出ていった。
部屋で独りになったノックは一人思う。
…とりあえず、トシの首に鈴はついたな。
アイツが本当にただの転移者なら問題はない。
そやけどアレやったらどエライ事になる
歯車がまた一つ……
モキータ編の最終話ですので、様々な歯車(伏線)が出てきます。中には続編に繋がるネタ振りも。
でも、気にしなくても楽しめるよう心掛けて書いていきますので、気軽にお楽しみください。




