悪女(ぴかろ)達の宴
前回描ききれなかったので、閑話をもう一話
ケイ・オプティコムから連絡を受けたクイーン・ミッチェルは、店を貸し切り状態にした。悪女モード全開の素顔を他の客に見せない為であった。
思えば、UTAGEの前にケインのフォローを頼まれてからずっと目の回るような忙しさである。
いつかこの街を動かす様になってやる。
幼き日にケイと交わした誓いである。
その礎がケインと言う旗頭を得て実現に向かっているのだ。この充実した疲労を味わう日々に、ミッチェルは酔っていた。
今日はその盟友ケイが訪れる。絶対今後の悪巧みだ。アタシからの計略もある。何と言ってもケイと話しをする事自体が楽しい。ミッチェルにとり、あのレベルで話しができる相手は少ないのだ。
そしてもう一つ楽しみがある。ケイの旦那の顔を拝めるのだ。あのケイを娶った男に興味がないわけなかった。
「クイーン、ケイ様がお見えになりました」
「そうかい。こちらにお通ししておくれ」
ケイ・オプティコムが一人の男性を伴いミッチェルの前に現れた。その男性がおそらくは旦那さんなんだろう。
「ミイ、お邪魔するよ。
あ、これがアタシの旦那様だよ」
ミッチェルはケイが旦那に「様」をつけた事に少し戸惑った。
「お初お目にかかります。当店を任されておりますミッチェルでございます。
ご存知の通り、ケイとは旧知の間柄。気安くミイとお呼びください」
「『おみち』の称号を持つ方を呼び捨てにはできませんよ。宜しければ、敬意を込めて『おみっちゃん』と呼ばせてください。
私は貴女にお会いするの、夢だったんですよ」
「それは光栄です。ねェ、ケイ。あなたが様付けで呼ぶなんて珍しい事もあるわね。
旦那様は何をなさっている方なの?」
「小説家さ。ダニエル・O・ガロック。知ってるかい? 官能小説の」
「ええ!?こちらがあのダン先生なの!!
誰か!アヤを呼んできてあげて!!あの子、ダン先生の大ファンなんだ!呼んであげなきゃ一生恨まれるよ!」
「だそうよ、貴方」
そこにドタバタと慌ただしい気配がした。
いつもは清楚な装いさえ艶姿に見えるほどの妖艶美女、クラブ『縄とバラ』のアヤママが、お客には絶対に見せない顔で店に駆け込んで来たのだ。
「ホ、本当にダン先生なんですか!?
アタシ、先生の『ハナと鰻』に衝撃を受けてこの世界に入ったんです!お会い出来て光栄です!!」
目をキラキラ輝かせて単なるいちファンになっていた。
そのまま他人そっちのけで会話が盛り上がる。
その様子にミッチェルは呆れた。
「やれやれ。アヤのあんな姿を初めて見たよ」
「仕方ないさ。旦那様は一切露出してないからね。顔を知ってるのは編集者だけなんだ」
「じゃ、店のスタッフにも口止めしとくよ。でも何故だい?」
「どうも家の爺さんの旧い知り合いの様だけどね」
「ツクニ爺さんの?」
「旦那様の一家には全員に裏世界の賞金がかかっているそうなんだ。
かなり闇が深いらしくて、素顔が流出するだけでもかなりヤバいらしいんだよ」
「よくそんな人と結婚したねェ。見合いかい?」
「ううん、ドツき合い」
「ぅおいっ!」
「と言ってもアタシが一方的に殴ってたんだけどね。結局殴り倒せなかったんだよね」
「!?アンタがかい? 獣人でも一撃でのしていたよね、アンタ」
「そう。そのアタシが疲れて倒れるまで殴ってたのに、何でもなかったみたいに平然としてたんだ。
アタシもさすがに負けを認めてね、好きにしなって言ったら結婚申し込まれちゃって。
もう嫌ン。あの時の事思い出すと今でも照れちゃうんだ〜」
誰、これ? こんなのケイじゃない……
「でもね、旦那様の凄いのはそこだけじゃないんだよ」
「夜が?」
「そっちもあるけど…って、何言わせるのよバカ!
違…わないけど違うのよ!
旦那様が本領を発揮するのは戦略立案なの。
アンタ、シノノメ戦争って覚えてる?」
「アンタの家が敵対する6つの組織と同時に戦争したアレでしょ? あれでアンタの家、一気にのし上がったんだよね。それがどうかしたの?」
「あれね、本当は家を潰すために仕組まれた罠に引っかかったんだ。完全に死ぬって思ったんだよ、あの時は。
それを旦那様が策を立ててくれたお陰で状況がひっくり返ったのさ」
「う……そ……
確か、あの時のニュースだとアンタの家が勝ったのは奇跡みたいに書かれてたけど、本当にそうだったんだ……
ケイ、もしかしてもしかすると、今回の一連の図面引いたのも……」
「正解。旦那様よ。でも、この街は不確定要素が多いらしくって…」
「凄く楽しそうなんでしょ?ケイの顔を見れば分かるわ」
「でね、今後の展開なんだけど……」
悪女達の夜は更けていく……
ダン先生のモデルはもちろんあの方です。官能小説もドキドキ(主に一部位が)ですが、将棋にも造詣が深くいらっしゃいます。




