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NDK黙示録  作者: つくも拓
第1章 モキータ編
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我等今宵 王を戴く(1)

モキータを訪れた智史は、この三日間オウンデール工務店に身を寄せていた。チェイズの言っていた通りモキータは街の規模を拡大中のため、特に資格を持たない智史でも仕事にあぶれる事はなかったが、先立つ物を全く持っていない智史にとっては日当で払ってくれるオウンデール工務店はありがたかった。

オウンデール工務店は獣人が経営する会社であるが社長のトビー・オウンデールは人格者で融和派であった。また、ヒト科である智史を差別することなく受け入れるほど人手不足でもあった。

しかしモキータではヒトと獣人の対立が表面化しつつあり、それを快く思わない者もいた。

社長の息子であるターカスもその一人である。仕事中は騒ぎを起こす事はなかったが、週末である事もあり些細な事から二人の喧嘩が始まった。

結果はと言うと……喧嘩両成敗。

二人ともトビーにゲンコツを落とされ、仲直りを兼ねて工務店の仲間達とパブに来ていた。

パブは結構大きく、百人くらい入っていた。多くの現場から人が集まっており種族も様々である。

そのフロアの中心近くに智史達は席を取った。

「おまえ、なかなかやるな。ヒト科が獣人を投げ飛ばすなんて初めて見たぜ」

「いや、獣人のパンチはやっぱ効くな。一発で意識が飛びそうだったよ」

「なんて名前だ?」

「サトシだ。サトとでも呼んでくれ」

「オーケー、トシだな。俺はターカスだ。タカと呼んでくれ。改めて乾杯!」

「乾杯!」

サトと呼んでくれと言っているのになんでトシと呼ばれるのか少し釈然としない。

「サトって言っただろうが〜」

「サットーシだろ?トシでいいじゃねぇか?!細かい事言うなよ。オラ、カンパーイ!」

「カンパーイ!」

以降、智史はトシと呼ばれるようになってしまった。

酒がすすむにつれ、トシは周りのテーブルを巻き込んで騒ぎ始めた。この世界の話題を知らないトシは仕事の話や政治の話は出来ない。くだらない事中心、シモネタ満載。タカ達もだんだんと興が乗ってきたのか、大騒ぎの中心になり始めた。

「いいね〜酒の席はやっぱ楽しい話題じゃないとつまらないもんね〜」

見慣れない奴も交じりシモネタソングの合唱が始まった。トシが「昔々〜」とやると「「「い〜気持ち〜」」」と合いの手が入る。

いつの間にか騒ぎが店中に拡散している。

「おい、タカ」

「なんだ?トシ」

「いつもこんな感じなのか?」

「そんなことはないんだが?」

「あ、多分あたしの所為だわ」

「「??、誰だ?おまえ」」

「あたしはアメリア。メリーでいいよ。これ、分かるでしょ?」と、こめかみの角を露わにする。

「有角種か?」

「そう。あたしの特殊能力はシンクロ。意識の共有なんだ。楽しいもんだから能力がフルオープンになっちゃてるんだ」

「ふ〜ん、まあ楽しいからいいか」

「だな。しかし女みたいな名前だな」

「あたしは女だ!」

「「その胸で?」」

瞬間、二人の視界は塞がれ頭蓋骨が軋み声を上げる。

「ゴメン!」

「反省!」

「乙女のハートは傷つきやすいのよ!」

「気をつけます!!」

「次はないわよ。

ところであんた、本当に獣人を投げ飛ばしたの?」

「あ、それ俺も確かめたい。あれ、どうやったんだ?」

「内緒だ」

「ケチくさい事言うなよ、親友」

「いつ俺たちは親友になったんだ?」

「正々堂々ぶつかり合ったら後は握手してノーサイドだろうが!」

「あれのどこが正々堂々だ?!獣人とヒトがドツきあって正々堂々な訳ないだろうが!」

「なら、もう一度勝負するか!」

「よっしゃ、正々堂々ジャンケンじゃ!」

「ジャンケンのどこが正々堂々だ!それが男の勝負と言えるかい!ふざけるんじゃねェ!」

「ならトシは、なんなら正々堂々とした男の勝負と思ってるんだ?」

「そら、身体と身体をぶつけ合ってだな」

「獣人とヒトが身体ぶつけあったら、普通獣人の方が強いだろうが。どこが正々堂々だ?」

「それはまぁ」

「正々堂々ってのは、同じ土俵で同じものを鍛えあった者の間にしか成り立たんわい!

タカよ、おまえ料理の勝負でこの店の料理長に勝てるか? スポーツで選手相手に勝てるか!? 可愛いらしさであのウエイトレスのネエチャンに勝つ事ができるのか!!」

「勝てる訳ないじゃないか!」

「身体と身体を使った勝負だぞ」

「確かに…しかし、だからといって、なんでジャンケンなんだ?」

「ジャンケンは公平だろうが」

「しかし男の勝負としてはちょっとなぁ…」

「ただのジャンケンならな」

「???」

「野球拳をするんだよ」

「ヤキューケン?なんだ?それは?」

「野球拳はな、勝負の後で服を脱ぐんだよ」

「!」

「分かったか?」

「服を…脱ぐ?」

「そうだ」

「「「脱いでいいんですか!?」」」

「お、おう…」

「「「ウオオオオオオ!!!」」」

なぜか、周りのテーブルからも雄叫びが上がる。

「勝ったヤツは脱ぐ権利を貰えるのか!」

「なんて素晴らしい勝負だ!」

『なんで脱ぎたがる…』と思ったが、変に応用の効くトシは話を盛り始めた。

「バカヤロウ!脱ぐんじゃない、曝すんだ!」

「「「曝す?」」」

「飾りを脱ぎ捨て己の生き様全てを曝け出す!

裸を見せたがる変態ではない。自ら歩んできた足跡の全てを曝け出す!

それを行える者だけが行えるからこそ漢の勝負となりうる!違うか!?」

いつのまにか店内は静まり返っている。メリーのシンクロで店内の全員が聞き耳を立てていた。

「俺の故郷では『漢』と書いてオトコと読む。男女の性別ではない。自分の人生に誇りを持ち迷わず進む者の事を漢と呼ぶ。

『漢の勝負』を受ける事の意味が分かるな?

おまえに受ける勇気はあるか?」

「俺が浅はかだった。正直恐ろしい。俺の全てを曝け出せるか、俺にその価値があるか…

だが、これほどの漢に挑まれ引くわけにいかない…この勝負、受けよう!」

「勇気ある者よ、名を聞いておこうか…」



たかが野球拳の勝負なのに…

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