魔王降臨(3)
……なんかおかしい……
ノックはトシとタカの様子を見て何かを感じていた。スマホを取り出し何か始めたり、どこかへ連絡したりと何かコソコソと行っているのだ。
それについて訊ねるともっともらしい答えは返ってくるのだが、何か胡散臭い。
「で、お前等。ワシをどこへ連れて行ってくれるんや?」
「ご主人様のご希望がございましたら何方なりと」
「そのご主人様っちゅうんは止めんかい」
「ではマスター」
「同じやないか!」
いろいろ候補が上がったが師匠に落ち着いた。
理由はない。ノックが疲れてきてどうでもよくなったところで出たのが「師匠」だっただけである。
「まあ、とりあえず飯でも食お。ちょっと腹が減ったさかい」
「飯……飯でっか……せや、囁きロックの店でどないや?」
「トシ、お前あそこ好きやな」
いつのまにかノックの口調が感染っている。
「ええやん。予約しといてや」
そう言ってアイコンタクトを送るトシに気がついた。
「こら、トシ。おかしなトコへ連れて行ったら承知せんぞ!」
「師匠、ボクが師匠を変なトコに連れて行く訳ないやないですか。信用してくださいよ」
「そうでっせ。変なトコには一人でコッソリ行きますさかい」
「そっちの変なトコちゃうわ!」
「分かってますって。師匠を騙す訳ないやないですか。ボクの目を見てくださいよ」
「コイツ、人間は腐ってますけど目だけはキレイですから」
「タカーー! ちゃんとフォローせんかい!」
「ワイの忠誠心は師匠にだけ捧げとるんや」
「お前等の忠誠心なんか最初から当てにしとらんわい!」
「あ、師匠! 見えて来ましたわ。あそこです」
トシが指し示した店は、普通に小洒落た店だった。
「お、思ったよりマトモな店やないか? 店の名前、『ジョリー・ヌードル、モキータ西店』って書いてあるけど、なんで『囁きロック』の店なんや?」
「ジョリー・ヌードルはチェーン店なんですけど、ここの店の店長は名物店長なんですわ」
「なんや、店長さんの名前かいな」
「店長、来たで」
「あ、トシか。いつもすまんな」
「とりあえず何か食べさせて。お腹空いてるんや」
「任せとき。ところで、このオッサン誰や?」
「客に向かっていきなりオッサン言うヤツあるかい!」
「せや、師匠に失礼や」
「ちゃんと『おかしなオッサン』って言わなあかんで」
「これは失礼、おかしなオッサン」
「コラ!誰がおかしなオッサンや!」
「そうや、こちらはとてもおかしなオッサンや!」
「トシ、おんどれとは一回ちゃんと話しせなあかんようやな」
ノックがトシとドツキ漫才を始めると店長はギターを取り出し、爪弾きながら歌い出した。
「師匠がボクにかまってくれなくなった
ボクと師匠がちゃんとお話しをしたのは随分昔
師匠の愛はもうトシだけの物なんだね
悲しいけれど、無くした愛は返ってこない〜」
「やかましわ!変なアテレコすな!」
「調子っぱなれの下手な歌唄いくさって!」
「下手? 歌の心ってもんが分かってないなぁ」
「ええか、歌の心ちゅうのはなぁ……」
ノックは我を忘れて店長と掛け合いを始めた。
店長はこれに対して時おり歌を交えながら言い返す。側から見ているとコントであった。
「トシ、上手く焚き付けたな」
「……なぁ、タカ」
「なんだ?」
「ロックさんて、あんなに面白かったっけ?」
「そう言えば……」
「もしかして師匠の?」
「……そうなら凄いな、師匠は」
「ああ」
店の客はノックと店長の掛け合いに大笑いしていた。
店長はノックと丁々発止のやり取りをしながらだんだんと涙が溢れ出し始めた。
「な、なんや? どないしたんや?」
「ノックさん! いえ、わたしも師匠と呼ばせてください!」
「なに言うてんねん、いきなり」
「わたし、こんなに受けたん初めてです!
全て師匠のお陰です。ありがとうございました」
そう言うと店長は晴れ晴れとした顔で厨房の奥に引っ込んで行った。
「なんやったんや、今の」
「いや、師匠。ホンマに凄かったですわ。
あ、食事が出てきましたわ。
飯食うたら次は街の中心にあるアーケード街に行って見ます?」
「なんや、トシ。お前なんぞ企んどらんか?」
「師匠、街を案内するんですから、繁華街に行くのはごく当たり前の事ですやん」
「そうですよ、師匠。それに、何か企めるほどコイツの頭が良いと思いますか?」
「そら確かにそうやな…」
「し、師匠〜。そこは否定してくださいよ」
休日でもあり、アーケード街は結構な賑わいを見せていた。
しかし、ノックが少しスペースのあるところに来ると何故かおかしなヤツに絡まれコントや漫才が始まってしまうのである。
何か釈然としない。何かがある。ノックはそう感じていた。
トシとタカは次々と絡んでくる芸人相手に返しを行なっているノックに驚いていた。
…凄え、なんであのボケに突っ込み入れられるんや?
…あ、あんな返し方があるんか
…今度はボケにボケ返してるぞ
…アイツの芸ってこんなにおもろかったのか
…あ、今度は顔芸や
…あの下手な歌に合わせるなんて
…しかも相手を潰さんようドンドン次に繋がるようにしてはるな
…ホンマ何者なんや、あのオッサンは?
全ての対応が完璧だった。
『トシ、タカ。そろそろ準備ができたさかい、師匠をスタジオに連れてきてんか』
リューからの連絡に頷き合い、二人はノックの下に向かった。
「師匠、ご苦労さんです。ハイ、飲み物をどうぞ」
「おう、すまんな」
「ところで師匠、ボク等の知り合いがオモロイ事やる言うて連絡くれましたんですわ。行ってみません?」
「せやな。休憩がてら見物に行こうか」
スタジオに入ったノックは思わず呆然となった。
自分が会場入りした途端「ノック」コールがわき起こったのだ。中には「師匠ーー!」の声も上がる。見るとスタジオには見知った顔が並んでいた。
「トシ、タカ…なんや、これは?」
種明かしは次回。どうなる?魔王ノック。
君の使命はその言葉で世界を支配するんじゃなかったのか?魔王軍団はどうなる?
預言の書は果たして成就してしまうのか?




