魔獣 夜に咆哮す(4)
前回のケイ・オプティコムの表記を少し変更しました(設定を追加しました)。後の展開に関わりますので、ご容赦ください。
章管理して各話のタイトルを短縮しました。
※内容は変更しておりません。
殺風景な部屋でサキュバス達は目が覚めた。目の前には男が一人座っている。署長のケインである。
「お目覚めかね、お嬢さん方」
「ここは?」
「この街の警察署の応接室ですよ。私は署長のケインと申します。
目覚めて早々申し訳ないのだが、私は街を代表してお嬢さん方と取引がしたい」
「取引? あたし達とあなたが?」
「冗談じゃないわ」
「私達と取引する気はないと?」
「当たり前よ」
「餌なんかと取引する訳ないじゃない」
キャハハハハと笑いだすサキュバスを見て、ケインは黒い笑顔を浮かべる。
「そう言って頂けると助かります」
「「?」」
「私も良心の呵責に苛まれる事なくメリーを嗾ける事が出来る」
そう言うとケインはスマホを取り出し電話をかける。
「メリー、GO」
それだけ言って通話を切り、スマホをサキュバスの前に出す。
暫くしてスマホに着信が入る。
「出てくれ給え」
ケインの促す言葉に、サキュバスは通話をオンにする。
“あたしメリーさん。今部屋を出るわ……”
通話と同時に頭の中にも同じ言葉が響く。
スマホを取り落として怯えた目でケインの方を見るサキュバス二人。
ケインはゆっくりスマホを拾い、サキュバスにニタリと笑顔を見せた。
「繋がったねェ。君達はメリーにロックオンされた」
「ど、どう言う事かしら」
「すぐにわかるさ」
再びケインのスマホが鳴る。
ケインは笑みを浮かべスマホを切る。
“あたしメリーさん。あなたはこっちの方にいるのね……”
サキュバスの頭にまたメリーの声が響く。
「エッ!?なに! なんで!!」
「メリーは有角族でね。シンクロ能力者なんだ。
君達はロックオンされたからね。もうメリーから逃れる事は出来ないよ」
「「!!」」
「交渉も決裂した事だし、お引取り頂いて結構。どうせ君達を捕らえておく事は出来ないのだし、ここで騒ぎを起こされたくないのでね」
そう言って扉に向かおうとするケイン。その時サキュバスの頭にまたメリーの声が響く。
“あたしメリーさん。今 そっちに向かっているわ……”
「「ヒィッ!!!」」
「おや、三度目があった様だね。
クックッと笑うケインとは逆に、サキュバス達は涙目になっている。
「さぁ、お帰りはこちら。実りある交渉が出来なくて非常に残念だった。では無事を祈る」
“あたしメリーさん。今あなたのいる建物が見えてきたわ……“
サキュバス達は悲鳴を上げた。
「た、助けて!!」
「交渉でもなんでもするわ!」
「餌なんかとは交渉しないのでしょう?」
「ごめんなさい!交渉させて!!」
「『餌なんかと』かと聞いているんですよ」
ケインの口調が変化した。先程までの紳士然とした口調から、ドスの効いた恫喝的なそれになっている。
サキュバス達もケインの言わんとする事に気づいて自分達の立場に気づいた。しかしそれを認めるにはまだ心理的抵抗があった。
“あたしメリーさん。今 建物に入ったわ……“
サキュバス達はパニックを起こした。
扉に向けて「どうぞ外へ」とばかりに手で指し示すケインに対しイヤイヤと首を振る。
その時扉の向こうからコツーンコツーンと足音が響く。
足音が扉の前で止まる。
「お願い!!なんでも言う事をききますから!」
「餌なんかのか?」
「ごめんなさい。ごめんなさい!訂正させてください! 」
「お願いだからアレを近づけないで!!!」
その時ノックされた扉が開く。
「署長、お飲み物をお持ちしました」
入ってきたのはドリーであった。
サキュバス達がホッとした瞬間、声が響く。
「あたしメリーさん。今あなたの後ろにいるわ……」
サキュバス達は再び擬死状態に陥った。
「落ちましたね」
「ああ、他愛もない。次に起きた時は素直に言う事を聞くだろうな」
別室のモニターでサキュバスの様子を見ていたトシ達はハイタッチを交わしていた。
そこにケインが入ってきてサムズアップをする。
「トシのおかげで、上手くサキュバスの首に鈴を着けられそうだ。礼を言うよ」
「ホンマやで。ようもこんな事を思いついたなぁ」
「あ、これ俺の故郷では有名な『メリーさんの電話』って怪談なんですよ」
「道理で。トシにしては細かいところまで上手く出来てると思ったわ」
「タカ、確かにその通りだけど、ここは素直に褒めとけよ」
「違いない」
「ケインさん、警察への協力は善良な市民の義務ですからお気になさらずに。お礼は金一封で結構です」
その時ケインの元に凶報が入ってきた。
「署長、街中で『モマセロ』と叫ぶ痴女の群が女性を襲っております!」
少し短めですが、今回はここまで。
気づいたら地獄の扉が開いていました。
モキータの街の危機にトシとタカはどう関わるのか?
次回をお楽しみに。




