我等今宵 王を戴く(8)
第一話 本編は今回で終了。
この話にしては今回少しだけ長めですがよろしく。
UTAGEの参加者が紹介されるたびに歓声が上がる。それぞれが組織の代表格であるため、応援者が多数いる。そこまでは想定されたが、一般の客はこの場でお気に入りの応援を始めている。
「……モキータの商工会の次代を担う、ガイナ--カマタマーレ----!」
「「「ガイナ! ガイナ!!」」」
「「「商工会の顔を潰すんじゃないぞ!」」」
「「「無様な真似したら商工会にも帰る席ないぞ」」」
「皆さ〜ん、脅すのは止めてくださいね〜〜」
「モキータの夜を支配しているこの人、第28代『おみち』の称号を持つ女性、クイーン・ミッチェル!!!」
「「「おみっちゃ〜〜ん!!!」」」
「行くわよ〜坊や達〜! コール・ミー、クイーン!!!」
「「「イエス、マイ クイーン!!!」」」
「モキータの頭脳、戦略研究所の若きエース、ポロス・ジャイアルナス!!!」
「「「きゃ〜〜!!ポロスく〜〜ん!!」」」
「「「可愛い〜い!」」」
「「「ポロッと出して〜〜!」」」
野太い嬌声も混じっている。
「「「ポロス君に勝ったらお姉さんが許さないわよ〜〜」」」
「お姉さん達〜〜、参加者を脅すの止めてください」
「「「脅しじゃないわよ〜、マジよ〜!」」」
「周り〜、武器になりそうな物を取り上げとけ〜!!」
全てを紹介するのは意味が無いので割愛する。
「我々UTAGEスタッフが呼び掛けたにもかかわらず、参加頂けなかった方々もいらっしゃいます。
その理由は分かりません。」
「自身を曝す勇気がないのか、曝すに足る自身がないのか?」
「しかしUTAGEにはそのような者はいらない」
「我々が欲するのは兵のみ」
「改めて、ここに参加を表明した十名に拍手を!」
「そして我々はここに新たな6名の兵を紹介します!」
バックスクリーンが切り替わり、予選らしきものの録画が映し出される。
一心不乱に筋トレを行う者、勝利の雄叫びを上げる者、両手で顔を覆い地に崩れ落ちる者、涙に咽ぶ応援団。
「彼等は今朝程のUTAGE開催案内に参加を希望してきました。しかしながら、今回我々が彼等に用意できた席は六つのみ」
「彼等はこの狭き門をくぐるため、雨に日も風の日も厳しいトレーニングをこなして参りました」
「「…?トシ、ちょっと待て。UTAGE開催の案内は今朝だよな?」」
「そうだよ? タカもメリーももう忘れたのか?」
「「どこに『雨に日や風の日』があったんだ?」」
「…普段から頑張ってたって言いたかったんだ」
「「カッコつけようとしただけだろうが!」」
タカとメリーの平手が左右からトシを叩く。
「色々と台無しじゃ、アホ!!」
「堪忍や〜、哀しいサガなんや〜〜」
そのままドツき漫才を始めるトシとタカにメリーは肩をすくめる。
「アホ二人は置いといて、紹介を続けましょう!
丁度6人が登場致しました。
お待たせしました!
いよいよUTAGEの開幕です。
16名の皆様、こちらのクジをお引きください
……」
メリーが粛々とルール説明をして行く間にトーナメント表が完成していき、参加者はスタッフの案内で袖に消えていく。
ステージの照明が落とされ、観客席の中央に設けられた特設リングにスポットライトが当たる。
ラウンドガールが『1stバウト』と書かれたプラカードを掲げていた。
雄々しい音楽鳴り響き、青コーナーから第一の戦士が登場する。
UTAGEが始まる……
ステージの仕事を終え、メリーがトシとタカを引きずってバックヤードに戻ってきた。
「メリーちゃん、トリオ漫才ご苦労さん」
「イキ、ピッタリだったね!」
「「嬉しくねェ!」」
「なんでトリオになってるのよ! あたしを混ぜないでちょうだい!
リューさん、あたしはそろそろノアちゃんと一緒にシンクロに戻るわね。
トシ、タカ。実況と解説、ちゃんとやってね!」
メリーはそう言うと客席に消えていった。
「トシはんの提案した、登場に音楽鳴り響かすの。あれエエねェ。盛り上がるわぁ」
トシはプロレスの入場曲をイメージし、リューに提案していた。ちなみにトシのスマホにはレスラーの登場曲集が入っている。
「キングの登場曲はアレで。我儘言ってすみませんが」
「いや、アレはキングにピッタリでんがな。
ところで、実況は本当に任せても大丈夫なんでっか?」
「○ル○チメソッドを駆使した実況、解くとご覧じあれ」
UTAGEは先に3勝した方が勝ち上がるトーナメント方式を採用。1回勝利するたびに杯を呷り着衣を脱いでポーズをとる。
トシはその一戦々々にプロレスのノリで実況中継を行っていった。
「「「ヨヨイノヨイ!!!」」」
オオオオオオオオ--------
「さあ赤コーナーのリック、第6試合に王手をかけた! 一般枠から勝ち上がってきた彼は試合前にこう言っていた、俺は咬ませ犬じゃないと!
この試合に勝利しそれを証明することができるのか〜!?
青コーナーのトビーはこのまんま終わってしまうのか! 優勝候補の一角がここで消えるのか〜!?
下克上を成し遂げるかリック、意地を見せられるかトビー!
さて、運命の一戦が始まった〜!!!」
肩を抱き合い健闘を称え、勝者は決意を新たに次の試合に、敗者は悔しさを滲ませ次の機会に備える。
一つの試合に一つの物語が生まれ、一人の敗者が生まれた。共通しているのは「試合が終わればノーサイド」の精神だけだった。
初めの3試合ほどはメリー達によるシンクロの効果で感動を共有させていたが、4試合目が始まる頃にはトシの実況中継に物語を感じ、試合で生まれる絆に酔いしれた。
時は無情に過ぎ去る。観客を沸かせた数々のドラマも遂に最後の一戦を迎えていた。
リングに立つのはキングとトビー。共に2勝しており、どちらが勝っても勝敗は決する。
「「「ヨヨイノヨイ!」」」
会場の全員が固唾を飲んで見守る。音が消えた。
握手を交わす両者の頬は感涙に濡れていた。
「さあ、杯を受け取ってくれ」
敗者の手ずから渡された杯を干し、最後の衣服が脱ぎ捨てられる。
そして最後のポージング。
沸き起こる大歓声。
勝者、キング
トシの合図で会場の一角にスポットライトが当たる。
そこには一人の女性が佇んでいた。
「エイドリアン……」(※ケインは彼女の通称を知らない)
トシのスマホから提供された某有名ボクシング映画のテーマソングが会場に流れる。
「エイドリアーーーン!」
ドリーがケインに駆け寄り抱擁を交わす。
「キング様。お会いする時はいつも全裸ですね……」
そう言うとドリーは目を閉じて唇を差し出す。
接吻する二人は種族融和の象徴に見えた。
祝福の歓声が沸き起こるなか、トシがケインにマイクを向けた。
「何か一言お願いします、キング」
「……言いたい事は尽きません。しかしこの感動を、この気持ちを言葉にする事など私にはできない。
会場にお集まりの皆さん、宜しければ今一度私と気持ちを一つにして頂けませんか?」
「アレですね?」
トシの口が声を出さずに動く。ケインが首肯するのを確認し、インカムでスクリーンにその言葉が映され準備が整う。
「それでは皆さん、ご唱和ください!
いーーーち、にいーーー、さーーーん
「「「パオーーーン!!!」」」
ありがとーーーォ!」
テーマソングに乗ってケインが退場し、かくしてUTAGEの幕は閉じられた。
UTAGEの会場から退場したケインを待ち受けていたのは参加者達だった。
「ケイン署長、話があるんだ」
「署長はよしてくれ。おそらくすぐに解任されると思うからな」
「なぜ解任されるんだ?」
「このポストはマクマホン市長の犬として与えられたものだからな。犬ではなくなった私はポストも取り上げられることになるだけだ」
「それは良かった」
「どう言う事ですかな?」
「ケインさん、我々はあなたを盟主に戴こうと思う」
「言わば王様だ。王様が誰かの犬では締まらないからな」
「この街の明日をあなたに委ねたいんだよ。今日、共に闘い時間を共有し、そう感じたんだよ」
「どうして……」
「言葉が要るのかい?」
ケインは一人一人の顔を凝視し、力強く頷く。
「分かった。私からの明日へのチケットを受け取ってくれ」
そう言って差し出されたケインの手をUTAGEに参加した面々は次々と握り締めた。
ケインはこうして街の曲者達を味方につける事になった。
翌日、ケインの擁立がメディアに発表されるとモキータの政界に激震が走った。擁立派の面々にも驚いたが、UTAGEに参加しなかった勢力にとってはもっと切実な問題が起きていた。それは即ち、参加しないのは自身を『曝け出す事が出来ない』のか『曝け出す中身がない』と言う風評が蔓延していたからである。
前者だと『黒い』、後者だと『能無し』。どちらにせよ足元が崩れかねない。
彼等の取る手段はケインにおもねるか、完全に無視するしかしかなくなっていた。
ケインはケインで、署長室で頭を抱えていた。
リューからUTAGEの今後について連絡と相談があったからだ。
『参加しない』と言う選択肢は防がれている。
「なんでこうなった……」
参加者達のテーマソングは、皆さんお好きな曲をどうぞ。個人的には猪木ボンバイエ、サンライズ(ハンセン)、スカイハイ(マスカラス)が好きです。
登場人物の名前をつけるの、苦手です。
次回、第一話エピローグ、第二話プロローグを投稿します。




