ある障害
公園の一画に、青、紫、ピンクと色とりどりの紫陽花の花が咲いている。僕はその公園の小高い丘の木の下で出会った彼女に告白をした。
公園で初めて見かけた彼女は、まだ呆気なさの残る顔に、不思議と漂う妖艶な雰囲気、それはどこか人間とも違う印象を受けた。僕の心は一瞬にして奪われた。まさに一目惚れだった。彼女の綺麗な艶のある長い黒髪が六月の風になびいていた。
初対面であり、不審者と思われても仕方のない僕の突然の告白に、彼女は驚きつつも笑いながら、「はい」と答えてくれた。天にも昇る気分だった。
それから、僕と彼女は色々な所に遊びに行った。遊園地にショッピング、そして彼女と出会った公園…。
しかし、彼女の家に遊びに行く事だけは一度としてなかった。その話題を出すと、彼女の表情は曇った。不思議に思ったが、それ以上僕も何も言わなかった。彼女の悲しそうな顔を見たくなかったからだ。とはいえ、限界はやってくる。
彼女と知り合って数ヶ月が経ち、春の足音が聞こえてきた頃、その日も僕らは二人が知り合った公園にいた。僕はふと彼女に尋ねた。
「君は一体どこで暮らしているんだい? いい加減、君の家にも行ってみたいと思っているのだが…」
すると、観念したように彼女はうつむき答えた。
「信じてもらえるかわからないけど、私は人間ではないの…」
「人間ではない!?」
「ええ、そうよ。今まで黙っていてごめんなさい…」
彼女の言葉には不思議と真実味があり、なにより、ずっと僕が感じていた人間のそれではない雰囲気も納得出来た。しかし、そんな事はどうでもよく、僕は彼女が好きなのだ。
「…そうだったのか、でも君が何者でもいい。僕は君が好きなんだ!!」
僕の言葉に、彼女は嬉しそうに微笑むと、小高い丘にある木を指差し言った。
「私はあの木の精霊なの」
瞬間、僕の目は涙に溢れ、彼女の元を走り去っていた。いくら彼女を好きとはいえ、重度の杉花粉症患者の僕には荷が重いというものだ。