六話
今俺は、高らかに産声を上げている。
体が、本能が指し示すように泣いている。
自分が産まれたことを知らしめるように、大声を上げている。
が、正直とてつもなく恥ずかしい。
赤子が泣くのは普通だろうが、中身は四十のおっさんだ。
この歳で派手に泣き叫ぶのは、色々精神面にダメージがある。
しかも周りには助産婦の方だろう人等がいるので、羞恥プレイ以外の何物でもない。
このままでは確実に黒歴史になるので、なんとか泣き止もうとしていると、白い布に包まれて、持ち上げられた。
俺を持ち上げたのは母親らしく、優しく抱きしめられた。
すると突然、身体の周りに白銀色の光と、白金色の光が溢れた。
突然のことだったが、俺はその美しい光景に目を奪われていた。
光はしばらく周囲を漂い、そのまま俺の体に吸い込まれていった。
その幻想的な光景を不思議に思ったのは俺だけらしく、周りの人達はてきぱきと片付け等をしている。
やはりなんとなく察してはいたが、ここは俺の常識が通じない場所らしい。
幸い、いつの間にか泣き止むことに成功したみたいなので、周囲の確認から始めよう。
まず、自分の事から。目は見える。音も聞こえる。頭は動かせる。腕は四本動かせいえぁい!?
腕が四本ある!?ちょっと便利そうだが、俺は果たして人間なのか?
足は二本。しっかり動かせる。ただ、足に触れているのは、どう考えても尻尾だ。さらに背にはおそらく、感覚からして翼がはえている。
なるほど、俺は悪魔に生まれ変わったのか!
というかそうとしか考えられないよこんなの。
俺の顔、山羊じゃあないよな···?
気を取り直して周囲の確認。
目の前で俺を抱きしめているのは母親だろう。蒼い瞳に、長い金髪。整った顔立ちの美人で、青白い捻れ角が左右に二本。口から覗く舌は蛇みたいになっている。
うん、確実に人間じゃないね。
というか親に角が生えているなら俺にも生えているんじゃ···。
だとしたら本格的に悪魔だよ。ほんと、どうしてこうなった。
他の人たちも、体表が鱗でおおわれていたり、角や羽が生えている。
なんか目が八つある人とかもいる。
うん、夢が叶ったかも。
お望み通りファンタジーだ。
だけどあまり喜べないのは、俺が人間じゃないからだろうなぁ···。
生まれた直後に目を使える異常に気がつかない主人公。