「王家魔動石」
「誤解をしないで欲しい。火急の事態です、プレジアだリシディアだと煩わしいしがらみに囚われている場合ではないとの判断です。そして勝てないと高をくくっているのでもない。可能な限り情報を集め、事実に基づいた迅速な行動をとりたいのです。この国を救うために。落ちる命が、できる限り少ない道を選ぶために」
ペトラが大きく頭を下げる。
ガイツもそれに倣った。
「他意は一切ない。城の防備体制を教えてほしい。現状を最大限知り、最善の手を。あなた方と共に打たせて欲しい」
「……解りましたわ。ですから顔を上げてくださる?」
そのアメジストの瞳で王女を横目に、ばつが悪そうにイミアが言う。
それを聞き、ガイツはもう一度小さく頭を下げた。
「心配無用よ。王城の物理・魔法障壁は国内最強の守りですわ」
「確かなのですね、イミア」
「……逆説的に、ですけれど。破られていれば、あの高慢なテロリストのことです、すぐにも自分達の勝利を宣言するはずです。それが無いということは、まだ障壁を破るには至っていないのだと思われますわ」
「……そうですね」
敵の勝利宣言はない。
故に障壁は敗れておらず――国王も生きている。
敵の力が未知数である以上国王の、国の安否についてはこれ以上の分析は難しい。
ココウェルはその言を受け入れるしかなかった。
「それにあの障壁の堅固さは殿下、あなたと陛下が一番ご存じのはずだとうかがっております」
「? というと?」
「あの障壁魔術は、王家の血との契約により創られているのです。城の建材そのものが魔動石であり、その起動は王族の魔力によってしか為し得ません。無論、停止も」
「……知っています。王家魔動石による二大防護の一つですから。ですがその守りも、王族の魔力が尽きれば稼働しなくなる」
「……はい。迅速な城の、城周辺の区域奪還が求められます」
「だがそうなると――あの褐色の男はどこにいる?」
二指をあごに置き、しわの寄った地図を眺めていたペトラがつぶやく。
「褐色の男とは絶対に戦うな」。
ゼガ・ラギューレの最期を見れば、この戦いを褐色の男に出会うことなく終えるのが最善。
であればこそ――その位置は可能な限り検討し、出会わぬようにしなければならない。
ペトラが全員に目を合わせ、続けた。
「可能性を挙げましょう。学園区にもいない陽動にも引っかからない、ならば奴は何のため、どこにいるか」
「……国境線が苦戦しているのではないかしら。バジラノの応援に向かったのでは?」
「ふむ……騎士長を葬るほどの実力者だ。奴は傭兵で、金の切れ目が縁の切れ目になった可能性もあるな」
「では国内にいるが動けない可能性については?」




