「大兄さん」
学生の包囲網を破るようにして姿を見せたのは――体の線に沿ったようなタイトな軽鎧の青年。
その男にヴィエルナは、
「――――大兄さんッ!!?」
滅多に崩さない表情を驚きに染め、青年に駆け寄った。
〝おうキース。確かあんた、上二人の兄貴が王国に仕えてるんだったな〟
〝うん。一人は騎士、してるから。もう一人は王宮魔術師〟
そういえばそんなことを言っていた。
大兄さん……ということは、あれは長男の方か。
……待て。
あの姿は――
「お前、まだケガは治り切ってないはずだろう。どうしてこんな危険な所に」
「何かしたかったの、私も。国の為。なくなってからじゃ、遅いから」
「ヴィエルナ」
「? ああ、ケイ。こっち、私の兄さん」
「ん?……ああ! もしかして君がケイ・アマセ君なのか?」
「……伝え聞いてるのか。ヴィエルナから」
「ああ。あのナイセスト・ティアルバーを倒した者に、こんなに早く会えるとはね。おっと、自己紹介が遅れたね。私はアティラス・キース。ヘヴンゼル騎士団に所属している。妹が何かと世話になっているね」
「いや。特に世話はしてない」
「悪いね。こんな時じゃなければ、家にでも招いて色々聞かせて欲しいところなんだが」
アティラスが苦笑する。
その人懐こい苦笑からは人の良さが滲み出ていて、一目でその人となりが伺えた。
この兄にしてこの妹あり、といった感じか。
先の王宮魔術師と違い、この男からなら話を聞けるかもしれない。
「あ、ロハザー。大兄さん」
「ん!? あれっ、キースさんじゃないスか!! なんでここにっ、」
「ははっ! 君も来てくれたのかロハザー! なんだかホッとするな」
「ん? どちら様、ヴィエルナちゃん」
「兄」
「あに? あっ?! お兄さん?!?! うっひゃ、どうもこんにちはっ!! ともだちのマリスタですっ!!」
「マリスタ――君アルテアスのお嬢さんか!? なんてこった、君もアルクスの増援なのか!? みんなアルクスのローブだから分からなかったが……もしかして他にも、」
「ええ。アルクスとプレジアの学生との混成軍です」
「話せる」人物であることが分かったからか、フェイリー達が揃って歩み寄ってくる。
「あなた達は……」
「アルクスのフェイリー・レットラッシュです」
「同じくゼイン・パーカー」
「イフィ・ハイマーです。お見知りおきを」
「騎士のアティラス・キースです。先程は魔術師長が大変申し訳ないことを。共闘が叶うことを願います」
「『願います』……現在、このヘヴンゼル学園の指揮は誰が?」
「王宮魔術師長、イミア・ルエリケです。もっとも、王女殿下がここに留まると言われるのなら、指揮権の移動もあるかもしれませんが」
「だったらなんでここに居るんだ、あんた」
「おいアマセっ! てめ初対面の年上の相手にそんな」
「いいんだよロハザー、ありがとう。それで何だったかな、アマセ君」
「あんた、どうしてヘヴンゼル学園にいるんだ。しかもそんな汚れた格好で」
――アティラスが神妙な顔で視線を下ろす。
そう。アティラス・キースの纏う細身の鎧は一部が砕け破れ、すっかり煤汚れていたのである。




