「控えろッ!!」
「ぺ――!!」
――その時、俺の手元で動く何かを感じ。
兵士長殿の、またも回りくどい作戦を悟った。
風の刃が打ち砕かれる。
『!!』
驚愕に目を見開くプレジア勢、ヘヴンゼル勢。
二人だけ静かな目でそれを見る紺碧の女とペトラ。
そして、
「ご理解いただけますか、殿下。我々が貴女の力を必要とした事情を」
ペトラの横へ、風が実体化するように現れた――ぼろぼろのローブを纏ったガイツ・バルトビア。
「精霊化……!?」とヘヴンゼルの学生の一部がざわめいた。
「……知りませんでした。あなた達がこれほどまでに、憎み合う間柄であったとは」
「ガイツ、敵はもう?」
「ああ。――周囲に敵がいないことは確認しました、王女」
「いいでしょう。力をお貸しします」
「……誰?」
俺に抱えられていた誰かが、ゆっくりと地に足を下ろす。
「『誰』、ですか。致し方ないでしょうね。いかな王宮魔術師長といえ――箱入り娘でしかないわたしと貴女に接点は少なかった」
〝――王宮魔術師には上のポスト――つまり『王宮魔術師長』の枠は一つしか用意されてねー――〟
――魔術師長?
あんな危険な女が、リシディアに一人しか居ない王宮魔術師長だってのか?
「それ以上近付かないで下さる? 誰なのかと聞いているのが――」
「控えろッッ!!!」
――――大きく大きく息を吸い込んだ少女が叫ぶ。
女の顔が疑問と少しの怒りに歪む。
自尊心の強そうな奴だ。
だが――従うべきだぞ、王宮魔術師。
「っ!? な――」
少女がフードを取り、素顔を露わにする。
女はその瞬間に取り乱し始めた。
「こっ――――ココウェル・ミファ・リシディア殿下!!?」
『!!!?』
女だけではない。
女の周囲で得物を構える学生達全員が、女の言葉に目を見開いている。
驚きようを見るに――王宮魔術師長でさえ、ココウェルのお忍び外出を知らなかったのか。
とんだお転婆姫だが――――今はそれに感謝するしかないな。
「ハッ……顔は覚えていましたか」
「ほ、本当に殿下なのですか!? どうしてこんな――」
「それを見抜けぬお前ではないでしょう? 魔術師長」
「ッ――アルクスッ!! 貴方達、殿下に一体何を――」
「我が命の恩人に無礼な真似は許しませんよっ!」
「命の……!? どういうことなので、殿下」
「まずは私に、彼らに名乗りなさいッ!! お前は何者なのッ!!」
「っっ……」
あれだけ居丈高だった女がたじろぐ。
胸のすく思いがしているのは俺だけではないだろうな。
「わ。私はイミア・ルエリケ。リシディアの王宮魔術師長ですわ」
「へーえ、ほんとなんだ。お姫様のカン違いかと思ってた」
「イグニトリオ君っこんな時に」
「大人しくしてなってアルテアスさんは。だってそうだろ? こんな所になんで魔術師長殿がいんのさ」
「よろしい。――それで? あなたはわたしを迎えてくれるのですか。それとも迎え撃ってくれるというのですか?」
「とっ……とんでもございませんわ! お迎え致しますわっ、今」
「この物々しい戦列がお前の迎えだというのですか?」
「っ……!!」
「迎えるというのなら早々にその塀から降り、未だこちらに牙剥く雑兵を一刻も早く下げなさいッ、無礼者がッ!!!!」
「は――――――ははあっ!!!」
……敵意剥き出しの出迎えから、一転。
お上の鶴の一声で、俺とプレジアの面々はヘヴンゼル学園との合流を果たすこととなった。




