「紺碧の『魔女』」
ペトラが先と変わらない声音で告げる。
「命令以外の行動は許さん。任務に集中しろ」
「で、でも」
「キスキルさん。そりゃ兵士長が正しいよ」
周囲を見回しながら、ギリートが剣の血を手にした布で拭き取り、納める。
「あんなんじゃこの先内臓まで全部吐いちゃうから。今甘やかさない方がいい」
「……」
「それにホラ。殺人者さんもそう長くは待ってくれそうにないですよ。兵士長」
『!』
リリスティアと共に、ギリートから視線を移す。
ペトラが既に見据えていた方向、男の首を断ち切った風が向かってきた学園の外壁上には、
「誰を殺すべきかさえ個人の裁量で変わってしまうのね。さすがは脆弱な私兵組織ですわね」
――いかにも、魔女然とした女が立っていた、
日を受け陰る、特徴的なとんがり帽子のシルエット。
その下では、青く長いポニーテールが体の真ん中辺りで見え隠れしている。
女性にしては高い背丈を足まですっぽり覆う、金に縁取られた深い青のローブを纏うその女は、宝石のような煌めきを持った紫の目で俺を、皆を品定めするように見た。
張られていた障壁は、既になくなっていた。
あれが敵を、風の刃で一撃の下に沈めた――――味方、なのか?
「……ヘヴンゼル学園の者ですね。お初にお目にかかります、我々は――」
「かまえ」
――短い、一言で。
外壁の向こうから、実に数十人もの魔法使いが姿を現し――一斉に、こちらへ杖や武器を向けてきた。
『!!!?』
「動くな。犯罪者共」
見れば、皆一律の服装をしている。
白のケープコートの下に、黒地に金の装飾が為された軍服のようなカッチリとした――制服を着込んでいる。
そしてコートに輝くのは、髭を生やした雄々しき牛の姿が描かれたシンボル。
もしかしなくとも、こいつらが……
「――どうか学生達を下げてほしい。こちらに交戦の意思はない」
「無いのは貴方達だけね」
「うほーコワー」
「班長、この状況は――」
「慌てるなキスキル。こうなるのは想定通り――」
風が、吹き抜け。
その言葉を塞ぐように、ペトラの右頬が深々と裂けた。
『!!』
「ペトラちゃんっ!!」
「下がっていてくださいディノバーツ先生ッ!」
「これも想定通りというわけかしら? 女蛮族さん」
「……繰り返す。交戦の意思はない。まずは武器を下ろして欲しい」
「来ていきなり障壁を殴りつけるような不届き者を警戒しない者がいるとでも?」
「堅守の構えと見たので少々手荒な真似をした、それは改めて詫びよう。私はプレジア義勇兵団、アルクスの兵士長ペトラ・ボルテールだ。国家の危機を前に、我々は協力できると踏んでここに来た。まずは話を聞いて欲しい」
「高い」
「……は?」
「頭が高い、ですわよ。犯罪者共」




