「最初の作戦、最後の壁」
人間の身長を超えてそびえ立つ、隙間の無い分厚いレンガのフェンスに囲まれた鉄柵の門を背景に、プレジア軍と賊軍が相対する学園区最奥。
アルクスが両翼から飛び出し、無数に放たれた魔弾の砲手を障壁で防ぎながら今まさに掃討を開始した――そこに見えてくる、ケイ・アマセと最重要警護対象者。
(敵の数が多い、手練れもどれだけいるか分からない。王女にかけた認識阻害の魔法にも限度がある。ここで王女の存在に気付かれるのは避けたい)
「兵士長殿! 時間がねぇ、やっていいよな!?」
「――はい。お願いします」
「っしきた! いくぜビージ合わせろよッ!――――『土竜の行軍!!!』
『うおおぉぉおぉおっっ!!?』
野太い悲鳴。
それらをかき消すほどの音を伴いながら、魔力を加えられた街路が変形する。
舗装された地表を突き破るようにして隆起した土は易々と学園のフェンスさえも超える高さの壁になり――そのいびつさに、錬成の振動に、その上に立っていた悪漢らは残らず左右いずれかへと転げ落ちていく。
「んでもういっちょ!」
ファレンガスの腕周辺から緑の魔光が散る。
とたん、龍のようにうねりせり上がった分厚く長い土壁が再度振動し――その中央が、悪漢達を左右へ押し出すように両断され、あの地下トンネルと同じ、踏み固められたような土の一本道が姿を現す。
(地面が完璧に均されてる――ガサツな割にホント仕事が丁寧だぜ、うちの担任はよ!)
ビージが笑う。
圭がそこに辿り着いたのは、道の完成とほぼ同時だった。
「ペトラッ! これは何――」
「ついてこいアマセ! このまま学園まで突っ切るぞ! あと兵士長と呼ばんかタコッ!」
「了解!」
喊声の中、大声でやり取りをしたペトラ、圭が土の道を風のように駆け抜けていく。
先んじているのはペトラだ。
周囲をアルクスや義勇兵に守られながら、更にココウェルを抱え速力が落ちているとはいえ、英雄の鎧下にある圭との距離をペトラはあっという間に広げ、いの一番にヘヴンゼル学園正門へとたどり着き――門を殴りつける。
波紋。
ヘヴンゼル学園を覆う障壁が、ペトラの一撃に大きく波を打った。
(あと少し――!)
気息。
正門を見据え、ひたすら走り続ける圭の前で、
(――――ッ!)
突如、土壁は左右から崩壊した。
◆ ◆
土埃。
思わず足を止め、小さくステップして半歩下がる。
数瞬後、それは正解だったのだと知った。
土煙と壁の崩落音に紛れ見えず、聞こえていなかった鎖の音が明確になる。
今まさに巻き上げられていく、一つ一つが拳ほどもある大振りの分銅鎖。
先端に鋭い鉄の突起が付いたそれら複数の分銅鎖は煙を切り払い、やがて一人の大男が背負う巻き取り機に収納され、男の背後から威圧的に突き出る棘とでもいうべきものへと早変わる。
「おおーう……ありゃできそう」
言うが早いか――魔装剣イグネアを構え、ギリートが突進する。




